しんそう編
夏乃に聞かれた僕は考える。
夏乃が道を歩いたら前から日傘の女が来た。
ぶつからないように反対側に移動したのに、同じ側にジャンプしてきた。
それを2回繰り返された。どうするか?
普通に考えて危ない人だ。距離をとったほうがいい。
「夏乃、高校の前の歩道だろ。あそこは車の通りも少ないから、道路を横切って反対側の歩道に行ったほうがいい」
「歩道にはガードレールがあるの」夏乃はキッパリと言う。
「あっ…ガードレールを越えられない運動オンチいるよな。僕の配慮が足りなかった、ごめんな」
「ば、馬鹿にするな! 私はあなたと違ってスカートなのよ。ガードレールをまたげば、シワになるし汚れるでしょう」
なるほど。
「やべえ女が前から歩いてくるなら、進路を180度変えて逃げたほうがいいんじゃないか?」
「ああいうやばいのは背中を見せると、襲ってくる可能性があるの、熊と同じよ」
確かに背中を見せるのはよくないな。
「なら熊を相手するみたいに背中を見せずに後ろ歩きで逃げたろどうだ?」
「あなたはそんな不審者みたいな行動を何十メートルもできる?」
「何言ってるんだよ、できるわけないだろ、ははは」
「なら人に提案するな」
「じゃああれだな。歩道のわきに立って、女とうまくすれ違う。ジャンプアタックされても何とか避けれるかもしれないし受け身もとれる」
「私もそう思った。だからすれ違う前に私は歩道のわきに立ち止まった。ジャンプされたら避けてやると身構えていたけど、日傘の女は普通にすれ違って行った」
「ジャンプされなくてよかったな」
「ええほんと。怖かったわ。すれ違ったあとに後ろから襲われるかもと怖かった」
「なんだったんだろうな、その女」
「私はしばらく歩道を歩いて気付いたの。ああ、これが女が2回もジャンプした理由かと」
どうやら女のジャンプには理由があったようだ。
「何が理由だったんだ?」
「当ててみてよ」
「犬のうんこがあった?」
「無かったわよ」
「猫のうんこがあった?」
「私のこと馬鹿にしてる?」
「じゃあわからない」
「ヒントは夏よ」
夏か。
夏。熱い。騒がしい。
「セミの死骸があった?」
「正解よ。歩道の2か所にセミの死骸があったの。セミは死んでるかどうかがわからないし、近づくととびかかってくるのでセミ爆弾なんて呼ばれるの。女はこれを避けるためにジャンプしてたの」
「……セミの死骸を避けたい気持ちはわかるがジャンプはおかしくないか?」
「ええ、おかしいわ」
「じゃあその女は不審者だな」
「ええ、不審者ね」 完




