不撓不屈「金田一輝」
「起きろ加藤ォ!!てめぇ!!寝てんじゃねェ!!死ぬぞォ!!」
「あっ…あっ…あっあっ…あっ」
「金田!しばらく耐えて!アイスウォール!」
「黒川さん!起きてください!黒川さんっ!」
佐藤が、黒川の頬を激しく叩く。だが目覚める気配がない。黒川の口からは、声にならない嗚咽だけが漏れ出ている。それは加藤も同様である。ひとえにこの臨時パーティーが初手に全滅しなかったのは、ただの幸運に過ぎない。
幸運は4つ。1つ目は、たまたま佐藤と霧島という経験豊富故に、『精神耐性III』を保有していたCランク探索者2人組が統率していた事。2つ目は、持ち前の気質より隠しパラメータである、『MDEF』が非常に高く、その初見殺しを見事に耐えきるというファインプレイを見せた、金田という前衛がいたこと。3つ目は霧島の合図により、この臨時パーティーが素早く戦闘陣形をとったことで、金田・加藤・霧島・黒川・佐藤と、脱落者2名が、無事だった3名に挟まれる陣形であったこと。最後に、佐藤・霧島・金田の不意打ちによって、逆にソレの不意打ちを防げたこと。この4つの幸運が、一つでも欠けていれば、全滅していたことだろう。
あの瞬間、霧島はアイシクル・パレードを打ち込み牽制をしつつ、金田と佐藤に場所を伝達。金田はそれを受けて、全力の一刀を。佐藤は飛び散るアイシクルパレードの氷片と、前衛の金田の体を目隠しにして、不可視のウインド・バレットをソレの瞳に向けて放っていた。ひとえに、佐藤の観察眼、霧島の高度な周辺感知、そして近接職故に敏感であった、金田の殺意への反応によるコンビネーションプレイである。
また、加藤の名誉のために触れておくと、決して3名のコンビネーションに遅れたわけではない。加藤は自分の役割をわきまえていた。後衛の霧島、前衛の金田、そして守護対象である黒川を守るために、広域のウインド・ウォールを展開しようとした。そのために、ワンテンポ遅れただけだ。最善を尽くしたが故に、脱落したのだ。
現に、敵の初見殺しは封じた。佐藤のウインド・バレットが見事に刺さったのだ。これ以上気絶者が出る心配はもはやない。だが、加藤と黒川を覚醒させなければ、次の手を打てない。
「起きなさい加藤!ウォーター!」
「起きてください!黒川さん!」
「ハハハハ、殺せたと思ったんですけどねぇ…。どうも、今日は何もかも上手く行きませんねぇ。困りましたねぇ。おまけに瞳が潰されてしまいました…。痛いですねぇ。」
「戯言はそんだけかテメェ。よくも加藤をやってくれたな。とっとと殺してやるからかかってこいボケ。」
「Dランクごときが私を殺せるとお思いで?」
「うるせぇ、死んどけ。スピードブースト。エンチャント・ファイア。」
金田は奥の手である、強化魔法と付与魔法を唱える。それだけの相手だとわかっているのだ。そのまま踏み込んで放たれる剣閃は、まさに音速。空間に炎の跡を残しすべてを切り裂く、金田の必殺の太刀である。…相手がソレでなければ。
「おっと、危ないですねぇ。」
「…ちっ掠りもしねぇのかよ。」
「まぁ、そろそろこっちも遊ぶ訳にはいかないですし、ようやくミツケタので、とりあえず雑魚はとっとと死んでください。」
「…そうかい。舐めんなコラァ!」
「駄目だ、加藤が起きない。安全なところまで下げないと。」
「…無理だ、アイツ、金田と戦いながらこっちを見ている。ここを離脱すれば、金田に集中される。」
「金田が崩れれば、持たないッ…!起きなさい加藤!」
「黒川さん!黒川さん!」
―ついに地獄の蓋が開いてしまった。
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