なんか霧島さんから冷気が溢れてるんですけど
空洞の入口は一時的に霧島さんが、氷魔法で凍結してふさいでしまった。それもものすごく分厚い氷の壁で。これで、洞窟奥に追いやったアシッドスライムが退路を塞ぐことはない。これで、後顧の憂いはない。後は、高橋と山田をなんとかするだけだ。あの二人組はほぼほぼ何者かに誘導されているのが、確定的に明らかであり、その目的の一つに『クイーン・ビー』が含まれていると考えて良い。
つまり、高橋と山田を抑えて、私達がクイーン・ビーを討伐する。そして謎の先導者を確保する。これが、私達の目的である。そして、もはや二人組とクイーン・ビーの位置は確定している。あとは突撃するだけだ。空洞を後にして、今まで来た道を引き返し、再び分かれ道まで戻る。
そして、二人組が向かったであろう、羽音のする方向へと進んでいく。かすかに響くだけだった羽音は、徐々に徐々にその音を大きくし、やがて、剣戟の音や、キラー・ビーの警戒音も混じり始める。もはや戦闘中なのは明らかだ。やがて、ついに、その場所にたどり着く。
たどり着いて最初に見えたのは、先程の空洞ほどではないが、広いスペースである。そして、そこら中に転がる、大量のキラー・ビーの死体と、空中に浮かぶ一際大きな蜂。最後にその蜂に、水弾と泥弾を打ち込む二人組。片方は本来持っているはずのない長剣を片手にし、もう片方はやはり本来持ってないはずのワンドを手にしている。
一際大きなあの蜂がクイーン・ビーだろう。空中を逃げ回りつつ、二人の攻撃をかわしては、毒針と…あれは風魔法によるかまいたちかな?を二人組に撃ち込んでいる。高橋は長剣でかまいたちを切り裂き、山田はその隙に水弾を飛ばす。…あのバカ二人が本来使えない技だ。
「想定通り、ブースト受けてんな。本来持ってない武器までちゃっかり持ってやがる。」
「あららー。過ぎた武器にー。過ぎた力ー。仮免許がよくないねー。」
「見つけたぞ、ふたりとも。大人しく指示に従ってもらおう…と言うだけ無駄か。」
「…ちっもう追いついてきやがった!山田ァ!クイーン・ビー抑えとけェ!」
「簡単な事言うなよ高橋。まぁそっちはまかせるわぁ。」
…おかしいな、こいつらをそそのかした張本人がいない。
「…お前ら二人だけか?」
「あ゛ぁ゛?そうだが?」
「まぁいいだろ。お仕置きしてから聞き出すぜ。」
「おいたはめっー!ですー。覚悟しなさいー。」
「…ってあん?黒川?なんでてめぇまでいやがる!青山と雨森はいねぇのか?」
はー、そのまま気づかなければいいのに。貴様らがバカしたせいで、私までここまで来る羽目になったんだぞ。いい加減にしろよ。覚えたての氷魔法で凍らせてやろうか?利香ちゃんと、京ちゃんがこんなとこまで来る訳ないだろ。…だんだんムカついてきた。
「あぁ、そう言えばアイツ、貴様のこと聞いてきてたなぁ。」
「やめろ、高橋。無駄に情報を落とすな。」
「へいへい、ま、殺せばいいんだろ?山田。」
「そういうこった。あ、黒川は生かしとけよ。あとで奴隷にするから。青山と雨森がいれば、そっちも生かしとけよ。」
「へへへ、お前も好きだなぁ。」
こいつら。まじもんのゲスか。今すぐにでも氷魔法で氷漬けにして、粉々にしてやりたい。が、これは私の仕事じゃない。ここからは、先輩方の仕事だ。
「うんー。聞いてたとおりの悪ガキー。ちょっと痛い目にあってもらおっかー。」
「山田、あの女は?」
「ババアには興味ねぇや。」
…あ、やばい、霧島さんから突如として一気に冷気が吹き出してきた。ここまでも、何度か金田さんに向けて殺気を向けてた事があったけど、あれらとは比較するのもおこがましいほどの、あ、これ、やばくない?マジギレ?
「金田、加藤、巻き込むから、下がれ。」
「おいおいおい、死んだわアイツら。」
「黒川さん、こちらへ。」
加藤さんと金田さんが、私の両腕をがっつり掴んで、すごい勢いで後ろへ引きずる。というか、二人ともめっちゃ焦ってる。霧島さんの前には魔法陣が展開し、あ、見えるようになって初めて分かったけど、霧島さんの魔力すごくない?ものすごい勢いで凝縮されていって、あー、魔法陣に魔力が…。
「…殺すなよー?」
「大丈夫よ佐藤。少し死んでもらうだけだから。」
「…殺すなよー?」
「…わかったわよ。」
そして魔法陣に集められた魔力が解放され、魔術となって吹き荒れる。
「死になさい、ブリザードコフィン」
「…殺すなよー?」
佐藤さんがさっきから、諦めたかのように「殺すなよー?」botと化している。おかしいな、生死をかけた戦いなのに、もはやギャグシーンにしか見えない。
霧島「もう践んでんだよ、虎の尾を。」
佐藤「(ここまであの二人組がアホなのは想定外、もう「殺すなよー」としか言えない。)」
金田「(久々に見たな、姉御のブリザードコフィン…前回は喰らう側だったけど。)」
加藤「(霧島さんがこうなった以上、もう終わりだな。…寒い、早く帰りたい。)」
黒川「(正直スッとするなぁ…まぁあの二人なら死んでもいいかなぁ。利香ちゃんと京ちゃんに手をだそうとしてるし。…うん、やっぱこのまま死ねばいいのに。)」
ナイア「(…次からもう少しだけ賢いやつを選びますか、無能のほうが操りやすいけど、無能すぎるとこうなると。高い勉強代になりましたねぇ…。)」
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