深くより暗きから蠢きすべてを
「水原ァ!!(ダァン)はよ開けんかいコラァ!!」
(ダァン)(ダァン)(ダァン)(ダァン)(ダァン)(ダァン)(ダァン)
FP支部を包囲しているダン警は、確実に水原を追い詰めていた。その包囲網は、あとはこの扉を蹴破るだけという所まで来ていた。それでも蹴破らないのは、水原も所謂探索者だからだ。ダンジョン協会職員は、時間があればダンジョンに潜っている。自分たちが管理する探索者より弱くては、職員は務まらない。もちろん、事務方にはダンジョンに潜ったことのない文系の者もいる。だが、圧倒的に多いのは現在も探索者である者や元探索者の職員だ。
そして支部としては一番下にあたる、ダンジョン支部とは言えそこの支部長を任されていた水原は、元Aランク探索者だ。現役の頃は水魔法と風魔法を得意とし、対モンスターの集団戦闘において『スイーパー』の二つ名までつけられた、指折りの実力者である。
つまりは無理やり突入することもできなくはないが、諦めて投降してくるようなら、それに越した事はない。ダンジョン警察としても、元Aランカーとの戦闘は避けたいのだ。故に説得と恫喝(?)を続けるのである。ただし、それでも、大人しく投降しないようであれば、なんの躊躇もなくダン警は踏み込むことだろう。つまり、今は、ダン警が強行突入する前の、本当に最後のタイミングなのである。
「水原砂利、いい加減諦めろ。」
「…来たか、十文字ィ!!」
扉越しに、ようやく水原の返事が返ってくる。扉の前から呼びかけた、十文字の声に初めてリアクションらしいリアクションが返されたのだ。十文字はそのまま対話を試みる。
「来るさ、同じ釜の飯を食べた仲だろう。なぜお前が、水原、なぜこんなことをした。」
「…同じ釜の飯ィ?そのおまえは今や西部支部の支部長だろう!俺はこんなちっぽけな支部の支部長だぞ!」
「それでも支部長じゃないか。」
「うるせぇ!いつもそうだ、いつもお前が俺の邪魔をする!」
「邪魔をしたことなどない。」
「お前が!お前がいなければ!俺が西部支部の!!(ダァン!)」
向こうから扉を叩く音がする。水原が扉の前まで来ているのだ。
「あの聡明だったお前はどこへいった。」
「殺してやる!殺してやるぞ十文字!(ダァン!)」
「…そうか。残念だ。」
ザクッ
「…あ?」
これは最後の交渉だった。十文字は水原がもはや降伏する意志がないと知り、水原を扉ごと袈裟懸けにしたのだ。真っ二つにされた扉と、上下に別れた水原の体が地面に横たわり、血が流れ…ない。
「…水原…お前。」
「ケヒ、ヒヒ、殺シテ、ヤルゾ!十、文、字!」
真っ二つになったはずの水原からは、透明な液体が流れ出し、上下に分かれたはずの体は、その液体で繋がっていた。そして、水原から流れてくる液体はみるみるうちに膨張を始める。…真ん中に赤い宝玉が怪しく光り、どんどんとソレは大きくなる。部屋から溢れてもなお、止まらない液体は、やがて、支部施設を飲み込み、フォレストパークに、巨大なスライムが姿を現す。
「殺ス!シテヤル!十文字ィイイイイイイイイ!!」
「警察及び、ダンジョン警察へ、もはや水原は人じゃない、モンスターだ!」
「確認した!全隊員へ!火器の使用を許可する!対象を牽制しつつ、周囲の民間人の安全を確保せよ!」
「こちらダンジョン警察指揮所、全隊員は周辺の探索者と協力し、これを討伐しろ!」
「こちらT県探索者協会、緊急クエストを発行する!集団討伐だ!」
in フォレストパークからちょっとはなれて退避してる職員臨時詰め所 = 指揮所
岬「今日だけで、死ぬほどインシデント発生してんだけどどうすればいい?」
職員「…お疲れ様です。」
岬「佐藤はダンジョン内だし、地上にモンスターだし、どないせぇと?」
岬「討伐したとして、真相は?FP支部の立て直しは?そのあとのFP支部の支部長は?」
岬「責任の所在は?後片付けは?っていうか、保険かかってる鑑定の道具、中にあるんだけど?」
岬「始末書…予算…休み…機密保持…マスコミ対応…」
職員「…コーヒーでものみます?」
岬「…いただくわ。」




