叡智の魔女「霧島響華」
「原始的故に、高レベル探索者にすら真っ直ぐ突っ込んでいくスライムが逃げ出す…ちょっと考えられないですね。」
「だが現実を見ろ。こっちに近づいてきたのに、すごい勢いで逃げていきやがった。」
「…あぁ、なるほど、黒川さんがいればスライムを気にしなくて済むと。」
「なるほど、そいつは便利だ。だが…」
「そーおーねー」
あー、やっぱりスライムって逃げるようなモンスターじゃないんだねぇ。まぁ私は初戦闘でいきなり逃げられたけど。実感がなかったけど、やっぱりスライムが逃げるのは異常らしい。
「まず、スライムが黒川さんから逃げ出すのは理解ー。ついてきてもらったのも一応の理由とはなるけどー、それだけじゃ薄いー。あーまぁでも、無いわけじゃないかなー。」
「スライムが逃げ出すのはー。エピック以上のレアアイテムでモンスターとの遭遇を避けるやつー、がー、あるのとー、あと、特殊なスキルの可能性がー、あるけど、両者とも除外かなー。前者なら黒川さんが来る理由がないー、アイテムだけ渡してもらっておうちへー。後者ならスキルの発動ー、つまりー、MPが必要ー。よって除外ー。」
「…」
「ほぼほぼ、称号ー持ちー。聞いたことないけどー想像するにー、たぶん『スライムスレイヤー』より上位ー。」
…霧島さんが怖い。アレだけの情報から、ここまで迫ってくるのか。
「『スライムスレイヤー』なんて聞いたことねぇぞ。」
「『ドラゴンスレイヤー』があるからー、理論上はあるー。あとー、ウルフ系のユニークであるー、『ハイドウルフ』の名付き個体を倒したときにつくー、『ウルフの不倶戴天の敵』とかー。存在するー。スライムのユニークを討伐していてればー。」
「…可能性がある。というより、持ってる。そうよね。黒川さん。」
霧島さんの口調が普通になる。恐ろしい、本当に恐ろしい。スライムが逃げたというだけで、『不倶戴天の敵』の称号まで迫ってくるとは。
「すまない、霧島。そこまでにしてやってくれないか。」
佐藤さんが霧島さんを捕まえて、小声で話しかける。
「断るわ。このあとも一緒に戦うのよ。少しでも黒川さんの事を把握しておかなければ、いざという時に守りきれないわ。佐藤。」
「ぐっ…」
何を話しているのかまでは聞き取れないが、おそらく私のことだろう。…であるならば。
「佐藤さん。私はいいですよ。」
「…本当にいいのかい?」
「かまいません。安全には変えられません。狙われているのが私な以上、霧島さんになら話しても。」
「佐藤、黒川さんが狙われているってどういう事。聞いてないけど?そんな重要な事も言わないなんて、あなた、黒川さんを殺す気?」
霧島さんが鋭い目で佐藤さんを睨みつける。私に向けた視線ではなかったが、背筋が凍る程に怖い。あの佐藤さんも、瞬間、一歩下がった程だ。
「言わなかったのには理由がある。ちゃんと説明する。」
「まぁ大方、西部支部指定の重要機密だったんでしょ。分かるけど、それじゃ黒川さんは死ぬわ。いいから、とっとと吐きなさい。」
「…やはり『叡智の魔女』には敵わないな。黒川さんなんだが―」
岬「3階層はジャングル。生い茂る木々に、泥だらけの地面。そして再生能力が高い植物達。」
岬「危険故に、常駐者がおらず、人工物の設置がされていない…つまり入口付近じゃなければ無線がとどかない。」
岬「理由も対応もわかるけど、おかげで3階層の現状を確認できないし、こういうふうに利用されるとたまったものじゃないわね。」
職員「多少高ついても、定期的に実力者に巡回させた方が良さそうですね…」
岬「ま、一番の問題はドロップが渋いことが問題なのよねー。安全確保ならD級でもできんくはないから。定期的にルートつくって、クイーン・ビーから逃げればいいだけの話だし。」
岬「そうなると、マッドスライムが落とすのは泥だし、アシッドが落とすのは酸。両方とも確保が難しいし、確保したところで、コレ何?ってものだし。キラー・ビーのドロップは毒針だから、拾うのも危険という有り様。」
職員「難しいですねぇ…」
岬「…で、ロストした探索者3名は?」
職員「回収できました。まだ死んではないですが、全員緊急搬送、集中治療室で治療中です。油断してるところを後ろからグサッです。今FPの担当者が、T県探索者協会本部から来た職員とダンジョン警察から聴取うけてます。」
岬「T県本部がでばってきたか。まぁそうよね。もはや殺人事件でPK案件だしね。」
職員「西部支部のほうでFP支部の職員洗い出し作業が進行中です。ほぼ絞れてます。」
職員「抵抗が予想されるので、ダンジョン警察他に、Bランク探索者を動員して確実に確保します。」
岬「Aランクも呼びなさい」
職員「…そこまで必要ですか?」
岬「現役Cランクを欺けるのよ。二ランク上はいるわ。」
職員「…了解しました。A向けに緊急クエストを発行します。」
岬「それでお願い。」




