なんかあの女子生徒が強すぎるんですけど
最初はなんでこんな大げさなことをしなければならないのかと、面倒な事に駆り出されたことを煩わしく思っていた。
初心者講習で佐藤より挙げられた報告から、対象は『K号』と秘匿コードが割り振られた。だが、なぜこれが機密に指定されたのかを、当初岬 瞳は理解していなかった。というよりも、こんなインシデント程度で、機密指定されるのは馬鹿げているとすら思った。
これがそこら辺の探索者協会の職員の決定ならば、直に向かって「馬鹿げている」といっただろう。だが、これを決定したのは、十文字支部長である。さらに、この佐藤よりのインシデントレポートをよく読むと、『探索者協会介入の要を認む』の文言と、『要監視対処リストへの登録請求』という、二項の特筆事項付きである。
この二項は、優良探索者より『非常事態』であることを協会に報告する際の定型句であり、緊急対応を求めるシグナルとなっている。つまりは、現場が悲鳴をあげているに等しい。
その後の佐藤からの聞き取りの結果、どうやらK号がやたらに強いのではないかという、疑義が提示される。それもただ強いだけではなく、特殊なスキル持ち、あるいは、特殊事象影響者である可能性の提示である。これはすなわち、特異点案件であり、支部長預かりで機密扱いになる問題であるという事だ。だが、裏付けも調査もしていない段階での、即刻の機密指定であり、やはりその点は疑問を否めない。
所詮は…せいぜいC級からそれ以上の強さであれば、たとえ特異点案件とはいえ、「それほどデリケートに対応する必要はないのではないか?」そう思うのは当然であり、妥当だろう。いざとなれば、協会職員で対応できる範疇であれば、私一人でも対応できる。協会職員は全員LV20はある、上位探索者だ。
********************
K号案件で佐藤と共に、呉西商業高校へ向かうこととなった。表向きは女子生徒への臨時の講習である。探索者協会側の落ち度としての臨時講習であり、支給物資の搬入もカモフラージュで行われる。
私が呼ばれた理由は、秘密裏にK号のステータス鑑定を行うためだ。ステータスは本来は個人情報であるし、むやみに鑑定をすることは禁じられている。また、ステータスの鑑定スキルを持っているものも希少だ。探索者協会に道具はあるが、協会内でしか使えないし、鑑定情報は基本公開されない。だが、鑑定スキル持ちならば関係ない。よほどのステータス差や、妨害スキル持ちにはレジストされる場合があるが、LV24の上位探索者である私なら、よほどのことがない限り鑑定可能だろう。
また、K号へは、特殊な武器の受け渡しも行われる。ただ、将来有望な探索者候補ではありそうだが、特別扱いがすぎるのではないだろうか?支給されるのは見た目は普通の棍棒だが、ダンジョン産の特殊な材料を使った、オーダーメイド品だ。詳しい材料や製法は聞いていない…いや、知らされていないが、本来は上位探索者が扱うような代物なのは、見ただけでわかる。おそらくは、ダンジョンの奥地で使っても生半可なことでは壊れないだろう。見た目は普通の棍棒にカモフラージュされているが、まず間違いない。問題は、この材料でこの棍棒を作るのはひどく贅沢ということか。授業で使っても問題ないように、協会の認定マークまで入っている。
「やりすぎじゃないかしらね。」
そう思うのも仕方がないだろう。なにせ、この時点ではまだ甘く見ていたのだから。
********************
接触前に、K号を遠目から確認している。授業を受ける様は、普通の女子高生にしか見えない。真面目に授業に取り組んでおり、そつがない性格のように見てとれる。若干素直すぎる気はあるが、あのような性格のものが、本当に特異点案件に絡んでいるのか、やや疑問だ。遠目からではステータス鑑定のスキルは機能しない。対象にもっと近づく必要があるが、怪しまれるわけにもいかない。7限目の接触を待つ。
接触には、グラウンドや体育館を確保したかったが、7限目と上級生の部活動に利用しており、他生徒の安全確保のために、むしろ生徒が少なくなる空き教室が手配される運びとなった。学校側との調整も必要であり、機密のためおおっぴらに協力も要請ができない。可能であれば、広いスペースが確保したかったが、支給物資の搬入というカモフラージュ上の都合もある。
********************
佐藤と共にK号と接触。近づいてようやく理解した。おそらくかなり強い。ちゃんとした戦闘訓練やダンジョンでの経験は受けていない動き…つまり動きは完璧に素人なのに、秘めるステータスの高さがおかしい。私が呼ばれるわけだ。棍棒の表向きの説明をして、棍棒の受け渡し時にスキルの行使を行う。
早速ステータスを確認…確認できない!?レジストされた!?
私はK号からの質問に答えながら、再度スキルの行使を試みるが、やはり失敗に終わる。しかもただ、不発に終わるだけではなく、スキルの行使結果に『警告』が表示される。まずい、これは、自分では対処できない程のステータス差がある…私より強いってコト!?
甘く見ていた。まずい、この後、棍棒の扱いを見ることになってるが、軽く振るように指示したほうがいい。表情は笑顔だが、背中にはすでに大量の汗がシャツをくっつけている。そっと佐藤をみると、距離を取るようにサインを出してきた。もちろん全力で下がる。下がった後に「かる~く」振るように念を押す。
ヒュン
…棍棒が消えた。物理的に消えたわけではない。素人の構えなのに、軽く振っただけで、棍棒の速度がおかしい。あれが命中したら、私のDEFでも防御しきれるか怪しい。なぜだ。どう考えても過程と結果が釣り合ってなさすぎる。最低でもLV30台前半から、それ以上か。佐藤の報告は誇張でもなんでもなかった。むしろ控えめすぎる。
…なるほど、十文字支部長の判断が正しかったことを、今更ながらに思い知った。