やっぱりなんか意外とスキルが便利なんですけど
学校に納品された、盾の段ボール開封作業のアルバイト?をすることになった。黙々と箱を開けて、段ボールの片付けをしている。腕につけるためのアタッチメントが別の袋になってて、それもまた内箱の中に入ってて、地味にめんどくさい。段ボールからスチロールごと盾を取り出して、盾の前後をスチロールが挟んでいるので、それを開けると盾とスチロールの間に内箱があって、更にその中にアタッチメントがあって…といった、簡単に言えば入れ子状態だ。
作業手順としては、「箱を開ける」「中身を丸ごと取り出す」「スチロールを開ける」「盾を取り出す」「内箱を取り出す」「アタッチメントを取り出す」という順番だ。そのたびに段ボール・スチロール・内箱といった梱包材の山ができる。
さらに細かく言えば、スチロールはテープでくっついており、内箱の蓋もテープでとまっている。なんでこんなガチガチに梱包されているのかと岬さんに聞いたら、「武器・防具の扱いなので、簡単に開けられないようにガッチガチに梱包しないといけない」という決まりがあるのだそうだ。一箱開けるだけなら簡単だが、これを2つ、3つと開けていくと、非情に煩わしい作業だ。軽率にアルバイトなんて受けなければよかったと若干後悔し始めている。
その結果、数箱を開けただけで、とにかく発泡スチロールがかさばる。ゴミ袋に入れたり積んでみたりとかしてみたが、みるみるうちに机の上のスペースを占領していく。
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黙々と作業をしていたら、教室の扉が開いて、探索者の一人が入ってきた。おそらくは…というか間違いなく、7限目で指導中の派遣探索者の一人だ。
「すいませーん、佐藤さん来てるって聞いたんですけどー。」
「はーい、何か用ですか?」
「急で悪いんですが、7限の授業を手伝ってもらえませんか?」
どうやらトラブルらしい。
「今日本当は、授業のために来てるんじゃないんですが…何が起きたんですか?」
「今日来るはずだった探索者の一人が、怪我で来られなくなってしまって、指導員が足りないんです。代わりのものが来るはずだったんですが、急すぎて協会でも見つからなかったらしく…協会の方に電話したら、今日は佐藤さんがこっちに来てるってことで」
「そういうことなら、俺にも連絡が来て…あー…講習中だったから、スマホの電源OFFにしてたな。どうします岬さん?」
「あぁ、私もスマホの電源切ってたわ。こちらからも協会に確認するけど、佐藤さんに問題がなければそのまま授業の方を手伝ってもらうことになるかしらね…。仕方ないわ、佐藤さんはそのままグラウンドの方に向かってもらえる?」
「了解しました。」
佐藤さんが、席を立って教室を出ていく。岬さんがこちらを向いて続ける。
「申し訳ないけど、協会に電話をしてきます。車まで戻って電話してくるので、押し付ける形になっちゃうけど、このまま段ボールの開封続けてもらえるかしら?」
うへぇ…
「わかりました…。」
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三人で開封すれば、すぐ終わるという話だったが、何故か私一人になってしまった。佐藤さんは急遽授業のほうに呼ばれて、おそらく終わるまでは戻ってこないし、岬さんは協会の方に電話しに自分の車に。必然この空き教室に残されたのは、私一人だ。…大量の段ボールの山とともに。
最初のうちは黙々と手作業で開封していたが、通算で15個目の段ボールを開けている間に、「もうこれ、パッケージングのスキルでずるしちゃってもいいんじゃないかな?」という気がしてきた。一応そういうスキルはまだ持ってないことになっているが、今なら佐藤さんも岬さんもいない。流石に全部開けてしまったら怪しまれるだろうけど…。偽装工作をしつつ、スキルの力で開封しちゃえばラクできるよね?
スキルを隠さなければという気持ちと、めんどくさい作業から開放されたいなという気持ちが、心の中の天秤を左右に動かしている。周辺に人の気配はない。
「やっちゃうか。」
試しに、一箱に対して開封スキルを使う。盾とアタッチメントのみを取り出し、段ボールは畳まれた状態に、スチロールは横に…できるね。あ、内箱も対象に取ってくれるんだ。スキルで開封してしまえば、あとは、スチロールをゴミ袋へ。ダンボールを一箇所に重ねる。取り出した盾は、アタッチメントとセットにまとめてしまって、開封済みを固めてある机へ持って行く。…問題はない。やっぱりスキルは便利だなぁ。
うん。やっぱりスキルを使えば楽だね。特に外箱と内箱、そしてスチロールのテープをカッターで切る作業が短縮できるのが良い。やはりスキルを使って開封してしまおう。そうと決めた私は、あえて時間をかけて、一つ一つスキルで開封していく。手作業で一つ開けるのに大体かかる時間を考えつつ、スキルでズルをしていく。
40個目の段ボールを開け終わったあたりで、岬さんが戻ってきた。
「ごめんなさい、遅くなってしまったわ…えっもうこんなに?」
「そうでもないですよ?あれから30分は経ってますし。」
「あら、もうそんな時間?ごめんなさいね。」
電話にとても時間がかかっていたので、少し気になるのだが、聞くわけにもいかないだろう。段ボールの残りはあと半分。ここから先は手作業に戻して、地道に頑張ろう。




