瓶詰め肉の行方
「はい、という訳で、戦利品がこちらですね。」
「という訳でじゃない。何を持ち帰ってくれてんだバカヤロー!」
「あら?てっきり喜ばれるかと?」
「いや、確かに特異点案件の解明には、よく持ち帰ってきてくれたが!瓶詰めで持ち込むな!」
「もう殆ど力ないんで、なにもできませんし、常時私の腐食魔術が覆っているので、無駄な抵抗をしようとすれば、次の瞬間どろどろです。」
「そんな物騒なもん!持ち込むな!」
千種は、名古屋支部に戻り、支部長に今回のレポートを提出した。いろいろと正直には書いているが、今回報告するのは『スタンピードの原因』についてだけだ。報告するのも、そこの瓶詰め肉についてだけである。嘘は言ってない。…言ってないことはあるが。
ここは、名古屋支部支部長室。支部長室とは名ばかりの、小さくて狭い部屋だ。中にあるのは最低限の設備のみ。厳重な防音と、探知魔術により徹底した傍聴対策が取られた部屋で、千種は名古屋支部の支部長に今回のことを報告していた。
本来、二人一組で行動している木花と千種だが、この部屋には木花の姿は無い。
「で、結局は、その瓶詰めされてるのが、スタンピードの元凶にして、探索者を大量にころした、特異点案件そのものってことか。…はー。まさか実物を持ち帰ってくるとは。てっきり、木花の胃袋にでも収まったかと思ったぞ。」
「9割以上はその通りですね。今まで以上に強くなってますよ。」
「だから木花は出したくなかったんだ。制御できるのか?」
「問題ありません。今はまだ。」
「…場合によっては殺せよ?」
「えぇ、問題ありません。」
「…ま、T県西部支部と日本探索者協会本部の依頼には応えられたし、木花についても新しいことがわかった。今回はそれで良しか。腐食魔術を使ったことも問題ない。」
「それではこれで。」
「まて、問題が残っている。」
名古屋支部の支部長は、千種を引き止める。
「なんでしょうか?」
「1つは、その瓶詰めだが、始末しておけ。」
「何故です?うちで使えませんか?」
「リスクが怖いのと、本部長から始末しろと命令がきている。バレるとは思えんが、それを口実に監査でもされたくは無い。逆らえんわ。」
「…本部長から?日本探索者協会の?」
「その通りだ。我々の情報が漏れていると思え。その瓶は、報告が終わったら、副支部長の前で木花に食わせておけ。」
「…わかりました。始末します。」
「よろしい、さて、2つ目だが。」
「なんでしょう?」
「何故帰還が遅れた?T県西部支部と何か交渉でもしたか?」
「木花さんが、海鮮とラーメンを食べないと帰れないと言って、さんざん引っ張り回されましたので。あ、こちら、領収証です。経費で落として下さい。」
「…。確かに本物だな。こっちは寿司、こっちはラーメン、こっちは…ものの見事に全部食い物だな。高級店から、道の駅まで、よくもまぁ、何軒巡ったんだこの量は。」
「えぇ、H市とT市の飲食店巡りに付き合わされました。T市の舞鳳のブラックラーメンは確かにおいしかったですね。チャーシューもお土産に買わされまして。」
「…はぁー。分かった分かった。経費にしておく。下がっていい。」
「了解しました。」
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「おまたせしました、副支部長、木花さん。」
「おかえり千種ちゃーん。」
「遅かったな。報告にそんなにかかったのか?」
「えぇ、副支部長。具体的な内容は話せませんが。あ、一つだけ見ててもらいたいものが。結果を支部長に報告しておいてもらいたく。」
「なんだ?」
「木花さん、これ、副支部長の前で食べとけって。」
「えっ?ええのん!?」
「えぇ、どうぞ。」
「いっただっきまーす!」
<<バリバリジャリジャリ>>
「ごちそうさまー!」
「これでいいですね?副支部長?」
「なんかわからんが、確かに瓶詰めを食べていたな。支部長に報告しておく。」
「では私達はこれで。」
「おう。気を付けて帰れよ。」
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「…ま、あれだけとは言ってないんですけどね。私が勝手に飼育する分には問題ないですよね?戦利品ですし。木花さん。飼育するんで、定期的に食べれますよ。もちろん内緒にしてくださいね。」
「わーい!千種ちゃん大好きー!楽しみにしとく!」
『出せ…出せ…。』
「嫌ですよ。無限に食べれる食材って貴重ですから。今流行りのSDGsってやつですよ。」
『殺す…いつか…絶対!』
「無駄ですよ。お仕置きです。めっ!」
『ギャアア!』
「逆らったら殺しますので。死ぬまで私に従ってくださいね、ペットさん。」
『ギギギ…。』
「ねぇ千種ちゃん。」
「どうしました?木花さん。」
「いつになったら、アレ、全部食べてええん?」
「今はまだ我慢して下さい、時が来れば、いくらでも食べれますよ。」
「ういうい!…にしても、馬鹿のフリは疲れるね。疲れるわ。」
「人前では絶対に、ボロを出さないでくださいね。」
「分かっちょるよ。ココまで来てヘマしてたくないし。」
「満腹になったら理性が戻るのは想定外でした。別の意味で、始末書を書かなきゃいけなくなるところでしたよ。」
「後で知能低下、かけなおしておいてね。普段から徹底しておかないと。」
「えぇ。」
別作あり〼
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