なんか全部ばれてるんですけど
突撃!兄の部屋!
お兄ちゃんは「憶測」と言ってたけど、ここまで断定して聞いてくるというころは、クロが神話生物であるとおもいっきりバレてると思っていい。いや、ワンチャンだけどクーちゃんを指している可能性はあるか?とりあえずここでは話せないな。申し訳ないが、少なくともお母さんにはまだ聞かれたくない。
「チョットナニイッテルカワカラナイナー。」
『…。』
一応、悪あがきで誤魔化しておく。クロについて話をすると、他にもいろいろと秘密にしていることがバレる可能性があるし、私の部屋にあるアレについても、露呈しかねない。確信が無いと言ってたんだから、そのまま「いや、忘れてくれ。」みたいにならないかな。ならなさそう。クロの方も、先刻までゴロゴロ鳴らしていた喉が止まっている。
「まぁ先ほど言った通り、言えないなら言えないでいいんだけど、この一見は黒猫に見える、不定形生物のことだな。」
あ、駄目だ、これガッツリ、バレてるわ。なんでバレてる?いや、モンスターであることは周知の事実だけど、なんでか『不定形生物』ってところまでバッチリバレてる。これもう、明言してないけど『ニャゴス』ってところまでバレてる可能性が高い。つまり詰んでる。っていうか、最近この「気がついたら詰み」のパターンが多いな私。嘘を付くのが下手なのは認めるけど、一発で核心までバレてるのはどうかと思う。
「…俺の部屋行くか?」
「それでお願いします。」
「そこのスキュラ娘も来るか?黒猫も一緒に連れてきてくれ。」
『行きますのー!』
まぁここまで聞いてくるってことは、お兄ちゃんもなにかあるんだろう。大人しく投了して、お兄ちゃんの部屋で続きといこう。
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「はい、というわけで、そこのニャゴスについてだが。」
「なんで知ってるの?というか、確信無いって嘘でしょ?」
「嘘ではない。7割方ってところだった。」
「それもう、確信に近いでしょ。」
思いっきり、もう『ニャゴス』って断定してんだよなぁ。っていうか、まじでそもそもなんで『ニャゴス』の存在を知ってるの?ねぇ。
「あと、嘘を突き通すなら、あこでお茶を吹き出すな。黒猫の方も、フリーズはまずい。あのまま猫の振りをし続けるべきだったな。」
『ごめんよ理恵…。』
「(いや、まぁ、あれは無理でしょ。クロ。)」
確かにお兄ちゃんの言う通りだが、こっちはこれほどの速度で、クロの正体がバレるとは想定していない。しかも普段はあまり顔を合わせることがないお兄ちゃんとなれば、なおさらだ。むしろ、お兄ちゃんがニャゴスを把握している方がおかしい。
「で、なんでニャゴスかって分かったのは、まず。連れ帰ってきた経緯だな。ダンジョンで拾ったってあったけど、近辺のダンジョンではこんな黒猫型モンスターは出現しない。となれば、もっと遠くのダンジョンで拾われたものが、この地域まで連れてこられたか、何からしらのモンスターが擬態しているかだ。今回は、事前に『本来はモンスター』との説明があったから、後者にしかならん。」
「…決めつけがすぎるんじゃない?」
「前者の場合、モンスターの譲渡・移動記録と手続きに時間がかかる。突発事故等の偶発的事象で、でたまたま理恵の元に流れてきた場合はこの限りではないが、その場合、探索者協会が保護するのが筋だ。つまりそのモンスターは、理恵がテイムしている以上、元は野良だった所をテイムしたと結論付けたほうが自然でいい。」
「…。」
「つまりは、『海の貴婦人ダンジョン』から連れ帰ってきた公算が大だ。何故ならば、理恵が拉致されたのは『海の貴婦人ダンジョン』だし、そこで俺の漫画を読んでいるスキュラ娘が保護されたのも『海の貴婦人ダンジョン』だった。理恵がクロを拾ったときに、他のダンジョンに入ってないのは明らかだ。つまり、そこのクロとクーちゃんは、同じ出身である可能性が高い。」
『ですのー?』
…うっかりだね。これは早めに岬さんに連絡して、クロを拾った背景を設定した方がいいな。まさか入ったダンジョンから、ここまで特定されるなんて想定外だ。まさかクロとクーちゃんの出身が、こんなにもはやく同定されるとは。
「そうなると、クーちゃんだが、モンスターであるが、知能が高い。そして違和感なく、我が家の生活に溶け込み、漫画まで読める。つまり日本語の習得ができており、識字能力があり、普段から服を着用するだけの文化教養を持ち合わせている。つまりは、ダンジョンで文明的な生活をしていたと断言できる。これはすなわち、公式記録である到達限界『海の貴婦人ダンジョンの42階層』よりも下に、最低でもスキュラ型をしたモンスターの種が繁栄した、文明都市があることを意味しており、今まで公になってない以上、地上との交流が秘密裏に行われていることを意味している。あくまで仮説だが。」
待って、お兄ちゃんの頭の回転早すぎない?クロとクーちゃんだけで、なんで『リーリエ』が存在がバレるとかそんなことある?クーちゃんにはリーリエの存在は言わないように言い含めてあるし、クロは今のところ黒猫っぽく振る舞うように言ってある。つまりは、お兄ちゃんには誰も『リーリエ』の話はしていない。
「まぁ言うことがあるとすれば、クーちゃんは漫画が読めないふりをさせるべきだったな。ま、といっても、この感じだと、止められなかっただろうし、そこまで深刻に考えてなかったんだろうな。我が家で匿ってるのも、概ねその辺の事情だろ。違うか?」
「…降参!」
無理だ。ここまで当たりつけられてるなら誤魔化しが利かない。クーちゃんが漫画を読めるってだけで、ここまで推理されるなんて思ってなかった。まじか。
「降参したところ悪いけど、何故『ニャゴス』ってまで分かったのかの、核心部分をまだ説明してないぞ?」
「いや、そこまでバレてるなら、もう隠す意味ないよね?」
「まぁそれもそうか。じゃぁ間すっとばして、なんで『ニャゴス』って分かったかっていうと、俺が『ルルイエ異本』と『ニャゴス労働争議戦史』と『リーリエ交易録』の断片の、日本語訳をもっているからだな。読むか?」
「…はぁ!?」
『えっ!?』
『ですの!?』
お兄ちゃん!?お兄ちゃんなんで!?
忍「はいこれが、『ニャゴス労働争議戦史』な。」
クロ『まってください、私も知らない本です。』
理恵「クロがそう言うってことは、そうなんだろうな…。」
別作あり〼
触手 in クーラーボックス(仮)
https://ncode.syosetu.com/n1200kj/
青空設置しました。
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