第二部 エピローグ1 瓶詰めの■■と逃げ足が早い■■
エピローグ!
時間はちょっと巻き戻り。木花が、ヒュドラの現実態を丸呑みした、少し後ぐらいにまで遡る。
『なぜ…人間ごときに…ここまで食べられてしまったのか。その上、瓶に詰められるなど…。』
「あら、まだ生きてますね。」
あれだけ暴れまわったヒュドラは、千種と木花によって瓶詰めにされていた。このまま持ち帰るつもりである。千種としては貴重な『特異点案件』のサンプルとして、そして木花としては『まだ食べられる』食料としての思惑がある。ここまで力を削いでしまえば、あとはどうにでもなるだろうという判断もある。
「というわけで、現地の救助対象の探索者で間違いないですよね?このまま、コレは、うちで持ち帰っても大丈夫ですかね?」
「…こんな事を言えた身分ではないのは重々承知ですが、できれば渡していただけると助かります。うちとしても報告をしなければならないので。」
千種からの提案に、佐藤が返答する。佐藤としては、ヒュドラ自体はどうでもいいのだが、持ち帰られるよりは、今ここで確実に潰しておいた方が良いというのが本音である。
「こっちとしては、今回の騒動の原因を討伐するのも契約のうちなので。持ち帰りたいんですよねー。名古屋に。」
「…。」
「あと、そこの特異点案件、二人もいますね?そこの倒れてるスキュラ娘も含めて、見なかった事にしますけど、どうでしょうか?呑んでいただけますよね?」
『おや、戦わないんですか?てっきり、問答無用で向かってくるかと。』
「いやー、一応救出対象の探索者守ってたみたいですし。こっちも、もう帰りたいんで。なら、もう、無理に戦わなくてもいいかなって。コレさえ持ち帰れれば。」
「…わかりました。」
「え~!?食べないの~!?」
「食べちゃ駄目です。」
ナイアの事はどうでもいいし、むしろ食べてくれたほうがありがたいが、千種の言う二人の中には、明らかに黒川が含まれている。そして、化け物の方は、黒川まで食べる気満々のようだ。ヒュドラの持ち帰りで、黒川が見逃されるのであれば、もはや呑まざるを得ない。
「…どうぞ、お好きに。」
「では、この瓶はお持ち帰りさせてもらいますね。ありがとうございます。」
「(コレが、食えない女ってやつか。まいったな。)」
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「「龍崎さん!」」
「…おう、白鳥と赤池か。死んだかと思ったぜ。胸を貫かれたかと思ったんだがな。」
『えぇ、私が幻影魔法で守って無ければ死んでましたよ?』
「なるほどねぇ。悪運強いってやつかね。」
龍崎は生きていた。『近距離閃光魔法』をヒュドラに決めたことで、一時的にヒュドラの行動を封じた龍崎だが、その直後、ヒュドラの触手で貫かれたのだ。だが実際には、直前でナイアが幻影と差し替えていた。ヒュドラが貫いたのは、龍崎の姿を移した岩の塊だ。
『近距離閃光魔法』は中級探索者なら誰でも使えるが、龍崎は、この一点を強力に磨き上げていた。相手の目眩ましの効果だけではなく、一定時間、相手の行動を阻害する。逃げに使っても、狩りに使っても良い。特に、この深海では、暗闇の中で発せられる強力な光は、上位モンスターですら、その衝撃で動きが制限される。通常の探索者が使うよりも、遥かに眩しいその光は、実際、僅かな時間ではあったが、ヒュドラの動きを制限した。それがなければ、木花と千種が間に合ったかは疑わしい。
「さーて、この気絶してる奴らを、引きずって帰らないとなぁ。久々に酷い目に会ったぜ…。白鳥と赤池も手伝えー。」
「「はい!!」」
「(また生き延びた上に、ちゃんと佐藤から話を聞いていないが、どうやら厄介事に関わってしまったらしい。地上に帰還すれば、西部支部のお偉方に呼びだされるだろうし、念入りに秘密保持契約も書かせられるだろう。まず、逃げさせてはくれないだろうなぁ。…引退はもう少し先になりそうだな。)」
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「金田ー。調子はー?」
「気持ち悪いぐらい、何事もなかったかのようだな。」
「…なるほどー。ちゃんと治療はやってくれたみたいねー。ただし、帰ったら検査ねー。」
「わかってる。そうじゃないと気持ち悪くてやってられないぜ。クソが。」
ナイアによって治療された金田は、まるで何事も無かったかのように、傷が塞がっていた。ナイアが金田を治療した理由は、一応、黒川を守るためだろうが、なんとなくしっくり来ない。そのため、霧島は、帰還後に、金田を徹底的に検査することを決める。というよりも、治りすぎだ。今すぐ、暴れまわっても問題ないぐらいには、金田の治療は完了している。
『そんなに怪しまなくても大丈夫ですが?』
「直してもらったのはありがたいが、信じられないんでね。」
『まぁ、好きにして下さい。私は、あの化け物が我慢しきれなくなる前に、逃げますので。』
「おや、てっきり、こっちを襲ってくるかと思ってたんだが?」
『まぁそれも一応計画には織り込んでましたが…。ヒュドラを食べて、上位存在になりつつあるアレと正面から戦うのは正直ごめんなんですよ。たぶん上には十文字もいるでしょうし、黒川理恵を強奪して逃げるのは、絶対に無理ですね。というわけで、大人しく退きます。さようなら。』
「…正直だねー。まぁこっちも、この上ナイアと戦うのはゴメンだったし、これでいいかなー。」
作者誕生日です。(‘、3_ヽ)_
別作あり〼
触手 in クーラーボックス(仮)
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青空設置しました。
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