なんかこれからよろしくねなんですけど
『テケリ・リ』
レストランでの食事中も、ニャゴスはずっと私の足元に一緒にいた。一応ダガンさんに何を食べるのか聞いてみたが、「なんでも食べる」とのこと。案の定、レストランから出ようとすると一緒に付いてきた。そこで、レストランから出る前に、「レストラン住みのニャゴスじゃないのか?」と、シェフの人にニャゴスについて聞いてみると、特定の主人がいる訳では無いとのこと。
そもそもニャゴスとは、20万年前に沈んだ大陸から一緒に移住してきて、それ以来ずっと共生と言うか、隣人と言うか、そんな関係を続けてきているらしい。そのため、ペットでも奴隷でもなく、『食事やお世話と引き換えに、お手伝いをしてもらう関係』というのが一番良い説明みたいだ。
というのは、かつて、このニャゴスを奴隷とした種族があったそうだが、あまりにもあんまりにもな扱いをされたらしい。その結果ニャゴス達が一斉に蜂起。長い戦争の末、いろいろとあったらしいが…。あと、一部個体には、地上でメイドをやっているものがいるとかなんとか。まって地上にもいるの?メイド?大丈夫それ?
「あの、なんか懐いちゃったみたいなんですけど。どうすればいいですか?」
「ずっと付いてきそうやな。ニャゴス。」
「かなり懐かれているみたいっすね。」
私は一応、レストランのシェフに確認をとる。
「あぁ、大丈夫だよ。そのまま連れて行っても。」
本当に大丈夫??
「そうですか。」
「それに、ニャゴスは知能も高いからね。口頭で指示してもちゃんと言うことを聞いてくれるよ。今はスライムみたいな状態だけど、望めば、いろいろな形をとれるし、普通に喋ることもできるよ。」
えっ
「特に、ソイツは、この辺の元締め的な個体じゃなかったかな。要するにここら一帯のニャゴスのボスだね。だからことさら頭もいいし、喋ろうと思ったら、日本語だって喋れるはずだよ。」
『ちょっと、バラさないでよ。』
「ほらね。」
『あっ、しまった。』
まじか。っていうか普通に喋るんかい。…いや、今のうちに知ることができてよかった。ずっと時間がたった後に、唐突に喋り始めるような事があれば、「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」って悲鳴が出る自信がある。危ないところだった。いろんな意味で。
「ニャゴス。お前が外から来た人物に懐くなんて珍しいですね。そんなに黒川さんのことが気に入ったのですか?」
イドラさんがニャゴスに質問をする。
『強いから。』
「正気ですか?」
『正気。私達ニャゴスは、彼女には絶対勝てない。他のニャゴス達も彼女を見て、殺されるんじゃないかと、みんな逃げてしまった。』
「お客人には失礼になるけど、ニャゴスが地上の人間ごときに負けるとは思えませんが。」
『無理だね。彼女がその気になったら、ちょっとした攻撃で死ぬ。』
「そんなに強いのですか?」
『肯定。』
「…そうですか。」
『だから、連れて行って。ご飯と引き換えに、なんでもするから。私は貴方と一緒に行きたい。』
称号さん曰く、『神話生物』に正気って言われてもなぁ。そっちのほうが、正気を失いそうな見た目しているんだけど。それに、こうやって会話をしていると、確かに高い知性を感じる。ぶよぶよとした不定形の見た目とは裏腹に、かなり優しい性格をしている事も分かる。見た目はとっても怖いのに…。
『ねぇ、貴方の名前は?』
「…黒川、黒川理恵。」
『よろしくね理恵。』
「逆に、貴方の名前は。」
『存在しない、ニャゴスはニャゴス。特定の固有名称は持たない。』
なるほど。通知機能も名前を付けろと言っているし、付いていくるようならば、付けたほうがいいかもしれない。
「どんな名前がいいですかね?」
「えっ黒川さん、本気で一緒に連れて行く気なん?」
「西園寺さん、言いたいことは分かりますが。テイマーの職業が生えてきたんですよ。」
「えっ?嘘やろ?」
「本当です。おそらく、この『ニャゴス』をテイムしたことになってると思います。」
「黒川さん、テイマーの職業って珍しいんっすよ?」
「そうなんですか?」
「取得条件も未だに解明されてないんっすよ。」
「そうなんだ…。」
「…名前。名前かぁ。」
名状しがたいからこそ、ちゃんと名前は必要だと思う。
「沙耶とかどうっすか?」
「駄目や!それだけは絶対にアカン!やめとき!」
「テケリさんはどうっす?」
「それもアカン!怒られる!」
鈴木さんと西園寺さんの漫才を見ながら、名前を考える。…そう言えば、堺さん、やけに静かだな?と思って堺さんを見てみたら、ダガンさんとイドラさんから目線を外していなかった。そうか、私達の代わりに、警戒してくれているのか。…最初にあった時は嫌な感じな人だったけど、今は私のことを守ってくれていた。
…あ、そうだ。この名前はどうだろうか?
「…そうだ、『クロ』はどうだろう。ニャゴスの色は黒色だし、私の名前も黒川、そこからとって、『クロ=ニャゴス』。」
『クロ=ニャゴス』
「どう?」
『私はクロ、クロ=ニャゴス。』
「ニャゴスが名前を…信じられない。」
「珍しいんっすか?」
「非常に珍しいです。基本は、特定の主人もとらないので…。んこれは一体!?」
名前を与えられた『クロ』が、虹色の光に包まれる。数秒程光り続けた後、光が治まる。光が消えた後にいたのは、一匹の黒猫であった。
にゃーん!
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触手 in クーラーボックス(仮)
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