深海より哀を込めて
ズズン…ズズン…。
あちこちから、この階層に新たに出現した新種のモンスター達が移動する、地響きが聞こえる。辛くも逃げ込んだ、隠れセーフゾーンから、新種達の様子を伺う探索者の影がある。
「雫、魔力どんだけ残ってる?」
「平常時の4割程度ですわね。」
「…きついね。」
「切り札を使うなら2割は要るわ。つまり、この後2割も使うようならば、あとは救助を待つだけの持久戦になる。生還できるかは微妙になるわ。」
「雫…。」
「海、そのときは私を捨てて、貴方だけでも上層に逃げなさい。」
「嫌だ!出来るわけがない!」
「魔力を使い切った魔法使いほどのお荷物はないわ。情報を持ち帰りなさい。」
「…ヤダ。」
「お二人さん、乳繰り合ってる所悪いけど、まだ諦めんからな?」
偵察部隊として、『海の貴婦人ダンジョン』の24階層まで降りてきていた、赤池海と白鳥雫、そして偵察部隊のリーダー、龍崎銀二の三名である。
「龍崎さん…ですが。もうこのチームはチームとして機能してません。対抗手段が無いです。私達の目的は『偵察』です。この24階層の情報を、上に持ち帰る義務があります。であれば、足手纏いは切り捨てるべきですわ。」
「大変合理的な見解だし、チーム目的に合致しているが、却下だ。我々は仲間を見捨てない。探索者である限りな。」
「小より大を生かすべきです。」
「小も大も生かせずして、なにが『自由の探索者』か。俺は我儘なんでね。」
「…既にメンバーを5人失い、残ったのはわずか3人です。それでもですか?」
「それでもだ。」
偵察部隊は壊滅的奇襲を受けながらも、奇跡的に3名が生き残ることに成功していた。奇襲とそこから続く新種のモンスターたちの追撃によって、一人、また一人とメンバーは脱落した。そして、ようやくその追跡を振り切り、ボロボロになりながらもセーフゾーンに飛び込めたのがこの3名だ。
「とりあえず白鳥はコレを飲め。多少マシになるはずだ。」
「…なんですかコレ?」
「蜂蜜だ。それも最近発見された新種のな。MP回復効果がある。」
「…いただきますわ。」
「とりあえず今ココは安全だ、周りを警戒しつつ、体力と魔力を回復する。異論は?」
「ありませんね。どのみち動けませんし。」
「無線機が動けばSOSでも出せるんだがな、おそらく上層の無線機は軒並み壊滅だろ。」
「…孤立無援ってやつですか?」
現状は、悪い情報しか無い。
「いや、偵察部隊が12時間経過しても未帰還、あるいは連絡が無ければ、第二陣が突入する手筈になっている。問題は、早いことソイツらと合流しないと、俺らの二の舞いってことだな。」
「…昨日の午後7時に突入したから、早めに準備・対応することを考えると、今日の朝6時ぐらいには異常に気が付き、突入開始って所ですわね。」
「あぁ、だが、見ての通り、深層からモンスターが上がってきている。おそらくは、その朝6時よりも前に、上層にモンスターの大行進が出現しているはずだ。…そこからダンジョン封鎖及び防衛体制への移行が発動されたとすれば、追加6時間は見ておいた方がいい。さらに、このモンスターの行進をかき分けて、ここまでたどり着くまで相当の時間がかかるはずだ。おおよそ7時間かね?」
「…となれば、午後7時頃ですか、第二陣の到着は。」
「普通ならばな。もし、この緊急事態の重要性を鑑みて、即断即決できるようなやつが強行を決断すれば、もうちょっと早まる。だが、誰が来るかわかんねぇからな。まぁそんなもんだ。」
「S級の出撃はあるのでしょうか?」
「無いだろうな。今は主要都市のダンジョンが手放さん。」
「笑えますね。」
「笑えるうちに笑っとけ。嫌でもこの後は笑えん。」
「冗談ですよ。」
「とりあえず赤池も白鳥も今は寝とけ。体力を温存しろ。警戒は俺がやる。」
「…了解しました。」
龍崎は懐から、蜂蜜酒を出して飲む。
「(…この二人だけでも逃さんとなぁ。)」
書いてる途中にChromeのアップデートが入って、Chromeが真っ黒になりました。
グループポリシーからグラフィックアクセラレーションをOFFにすることでなんとかなりましたが。
数時間無駄になりました(‘、3_ヽ)_
新作あり〼
触手 in クーラーボックス(仮)
https://ncode.syosetu.com/n1200kj/




