なんかまるでBBQ会場なんですけど
ジュゥジュゥと音を立てて、あちこちから、カニが焼ける良い匂いがただよってくる。あちこちで、カニの丸焼きが調理されていると言っても、もはや過言ではない。活けのまま丸焼きにされた蟹が、あちこちでキュゥキュゥと音を立てている。それだけならば、ここはただの『海の高級バーベキュー会場』だ。
ただし、その蟹の大きさが1匹、1メートルはある上に好戦的である。
大きなハサミに、太い足、そして硬い甲羅。探索者によって殻が叩き割られると、中から赤と白のぷりぷりとした美味しそうな身が出てくる。実際美味しい蟹なんだが今は、それを呑気に食べている訳にはいかない。今現在もその大きな蟹が、数百匹単位で大行進して海から上がって来ているのだ。いや正確には、深層から上がって来ている。
あっちでは蟹が感電し、あっちでは蟹が両断され、あっちでは蟹が焼かれ、あっちでは蟹が氷漬けになっている。…お金を出しても今後一生見る事ができなさそうな光景だ。あっちこっちで高級食材が、食べるわけでもなく討伐されている。…あ、でも、あっちでは討伐した蟹で炊き出しをやってるのか。蟹雑炊が前線の探索者に、無料で振る舞われている。
――ここは、『海の貴婦人ダンジョン』第1階層、最終防衛ライン。入口から進んで、第2階層へと繋がる"ズレ"の狭間だ。基本的に、ダンジョンの、第1階層と第2階層は(一部例外があるが)、ほぼ地続きなことが多い。故に大抵の場合は「第1・2階層」とセットで呼ばれることがほとんどだ。第1階層にも蟹がいくらか歩いているが、それは、巡回する探索者が討伐している。
だが、より深層から上がってくる蟹は、この第1・2階層の狭間を防衛ラインとして撃退している。そして、その蟹の大行進は止める気配を見せないどころか、続々と上がってきている。
「お疲れ様です。佐藤さん。霧島さん。」
最終防衛ラインを守っている、探索者の一人から声がかかる。
「お疲れ様です。柿崎さん。」
「あ~。ともともー。久しぶりー。」
柿崎さんは、炎魔法を行使して、大量の蟹を焼きながら、佐藤さんと霧島さんと喋り始める。
「ともともー。現況はー?」
「現在、第5・6階層の蟹が上がってきてる感じですね。終わりが見えません。交代交代で防衛しており、まだ余裕がありますが、13・14階層あたりの蟹共が上がってくると、脱落者が出始めるでしょうね。」
「先発探索者から連絡はー?」
「ありません。音信不通です。」
「無線はー?」
「7・8階層のはまだ生きてるっぽいですが、それ以降のは全部壊れてますね。おそらく中層手前の10層にある管理施設もぱぁでしょうね。長い事、時間かけて作ったんですけどね…。」
「あららー。」
「ところで、そこのフードの人は?顔を隠しているみたいですけど。」
「すまない、紹介はできない。」
「あら…。触れちゃまずそうね。」
今私は、霧島さんが用意してくれた、フードをかぶっている。ただのフードではなく、ダンジョン産のアイテムだ。これにより、顔と声を隠している。
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隠密魔道士のフード
・レア
・装備品
・『魔力消費軽減I』『隠密I』
・MP消費無し
・このフードを装備すると、魔力消費を軽減する。
・このフードを装備すると、顔と声が認識されづらくなる。
・ただし『人物識別I』あるいは同等のスキルにより無効化される。
・例 上位の『鑑定』スキル等。
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「せめて、増援がもっと来れば、第2階層にまで前線を押し上げたいところですが、無理はできません。ロスを少なくして、部隊をローテーションさせることで損耗を回避します。」
「正道だな。」
「ところでともともー。結婚してからダンジョン潜るの控えてたじゃんー。緊急動員かもしれないけどー。よく、出てきたねー?」
「出るわよ。先発部隊に妹がいるのよ。なんなら私が今すぐにでも、奥に行きたいぐらいよ。前線維持するために、これでも我慢しているのよ。」
「…マジ?」
「本当よ。偵察チームに、海の名前があるわ。」
「佐藤、名簿。」
「持ってる。これだ。」
霧島さんは佐藤さんから名簿をひったくるようにして受け取ると、それに目を通す。
「…本当だ。赤池と白鳥の名前がある。」
…どっかで聞いた名前だなぁ。
「…赤池先輩と白鳥先輩ですか?」
「おや、貴方、知ってるの?」
「あー…そうね。この娘は、知ってるわね。」
「そう…。先輩ね。」
やっべ。やらかした。
「柿崎、すまんそれ以上は。」
「はいはい、詮索はしないわよ。ただ、佐藤、独り言ぐらいはいいでしょ。」
「独り言?」
「私の代わり、…任せたわよ!」
「…はい!」
ダンジョンを潜ります。
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触手 in クーラーボックス(仮)
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