なんかこれは売買契約なんですけど
本日は、西部支部付属『古城病院』へと来ている。名目上は、『経過観察のための通院』である。実際にはそれをカモフラージュにした、週1回の西部支部からの依頼を受けに行く。依頼といっても、半分は報酬を兼ねているし、ナイアに狙われている私の安全上の問題としても、定期的に西部支部を訪れるのは必要不可欠だ。ただし、今日は事前に言った通り、『依頼』を受けに来たのであって、探索に来たわけではない。
現在、西部支部より私が受けている依頼は次の通りだ。
●『宝箱』の開封作業
●『蜂蜜』の瓶詰め
●『蜂蜜製品』の試用
●定期的な『報告書の提出』
この他にも依頼されている事はあるが、現在、西部支部は『FPダンジョンの地上施設の建て直し』と、『西部支部施設の移転』が最優先事項となっており、今出来る依頼はこれぐらいだ。なんせ、一部探索者もコレに駆り出されている状態である。本来は霧島さんや佐藤さんを経由して提出する報告書も、両名が仕事に駆けずり回っているため、この通院時に直接提出することになっている。
古城病院に入り、受付を済ませた後、待機。名前を呼ばれると診察室に入り、中を通り過ぎる。奥に進むと風見さんが待っていた。スタッフエリアを風見さんに案内され、古城病院から西部支部施設へ移動する。そして、西部支部の会議室に到着する。
「おはようございます。」
中に入ると結城さんが待っていた。
「おはようございます。黒川さん。」
「あれ?今日は岬さんいないんですか?」
「えぇ、今日は休みね。あの日以来、諸々の対応で休み無しの状態だったから…。」
「…岬さんって、いつもいろんな仕事してる気がするんですけど、大丈夫なんですか?」
「残念ながら、大丈夫ではないわね。」
やっぱり。結城さんがこめかみを押さえうつむき、風見さんが話を続ける。
「協会職員の中で、一番信用できるのが岬さんなので、結果的に多くの仕事が彼女を経由する事になります。可能ならば、佐藤に本格的に職員になってもらいたいんですが、本人は探索者活動のほうに重点を置きたいらしく。無理強いもできません。実際問題として、佐藤は優秀な指導探索者でもあります。佐藤が職員になった場合、探索者としての佐藤の穴埋めができる人材を探すことになります。そして、そっちも難儀することになります。」
薄々気がついていたけど、西部支部は慢性的人材不足みたいだね。
「まぁそれもこれも、全部うちが所詮『支部』のせいなんですけどね。支部の大きさ以上に人員を増やせないんですよ。実際として、うちが抱える仕事はそれだけではないので、構造上の欠陥になっています。まぁそれを賄える、優秀な人材が不足しているのは否定できませんが。」
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さて、今日私がここに来たのは、西部支部の依頼を処理するためだ。前回宝箱を開けた際に、「今後も定期的に宝箱を開封して欲しい。」ということになった。これは、『私のLUKの検証を継続して行う為』もあるが、『西部支部としても高いレアリティのアイテムを確保したい』のと、『私としてもお小遣いが欲しい』という理由もある。副次的な効果として、『パッケージングの熟練度を上げる』事も狙える。
そしてとりあえず当面は、『日曜日』に定期的に通院を装うことで、西部支部に通うことになった。前回宝箱を開けてから、数日しか経っていないが、偽装の関係上、初回の通院日が今日だったので仕方がない。
目の前では風見さんが、宝箱をマジックバッグから取り出して机に並べているところだ。
さて、じゃぁ、「宝箱を開けて前回みたいに半分貰えるのか?」と言うと、そういう訳ではない。まぁあれは本当に検証だったし、半分もらえたのは別の報酬も兼ねてたからの大盤振る舞いだ。定期的な依頼になるということで、その内容については次のように決められている。
①西部支部は黒川理恵に、宝箱の在庫を売却する。価格は『西部支部が公示する宝箱の買取価格』に1割を足したものとする。なお、西部支部は黒川理恵に優先して宝箱を売却する義務を負う。(宝箱の優先売買契約)
②その際、黒川理恵は自身が保有するアイテムを、西部支部に売却することができる。この『アイテムの買取価格』は、後述の金額の『8割から9割程度』とする。なお、黒川理恵は西部支部に対してアイテムを優先的に売却する義務を負う。(アイテムの優先売買契約)
③上記の宝箱とアイテムの売買代金は、相殺することが可能である。(相殺条項)
④相殺しきれない場合は、次回の売買時に繰り越す事ができる。ただし、金額が大きくなるようであれば、別途協議する。(繰越条項)
⑤『アイテムの買取価格』は、『西部支部の査定額』と『日本探索者協会が公示する買取価格』のどちらか高い方を採用する。両者でも金額が決められない場合は、別途協議する。
⑥両者が希望する場合、上記に加えて『オークションの落札額』を適応する。
⑦『オークションの落札額』は、『落札予想価額』『過去の落札履歴からの算定額』『実際にオークションでの落札額』の選択肢から、両者の協議で決められたものを採用する。
⑧黒川理恵が保有するアイテムの内に、『戦略物資に指定されているアイテム』等の物品がある場合、黒川理恵はこれを西部支部に売却する義務を負う。
概ねとしてこんな感じだ。これはアルバイトではなく、売買契約だ。何故かって?「私が西部支部から宝箱を買って、出てきたアイテムを自分で使う」のに、何の問題はない。そこに税金は発生しない。その後、宝箱の購入代金を賄う為に、一部アイテムを西部支部へ売っても、『宝箱の購入という経費』と『アイテムの売却という収益』がトントンであれば、そこに税金は発生しない。
そう、私は探索者なので、『宝箱の購入費用は経費として認められる。』のだ。そこに何の問題もありはしない。ちゃんと収益と経費は申告してるから大丈夫!
いざというときは西部支部がなんとかしてくれる。たぶん。
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