7.自分のもの
「さすがはシーサーペント」
報酬は口座に振り込まれ、ドッグタグと指紋認証で引き出し可能。お店でもドッグタグを提示して特殊な機械に指紋認証をすれば金額分だけ引き落とされるのでわざわざ財布を持ち歩く必要がないのだ。
「まとまった収入が入ったな。これなら貯金分と当面の生活費を差し引いてもいい武器が買えそうだ」
武器でケチはしたくない。命を預ける相棒になるからだ。
死ぬ前に嫌というほど実感した。あの時の私は無一文で、持っているのは魔力のみ。手にした武器は敵から奪った刃こぼれだらけの剣ばかりだった。当然、人なんか斬れない鈍だ。そのおかげで何度死にかけたことか。
まぁ、あの人たちは死ぬことを願って武器の一つも与えなかったのでしょうけど。
「そういえば、仕事用とはいえ自分の物を買うのは初めてかも」
貴族になる前はお金に余裕なんてなかったから買ったことなかったし、貴族になってからは厄介者の私が自分のために子爵家のお金を使えるはずもない。
だから貴族令嬢にも関わらず、私の部屋は良く言えばシンプル、言葉を選ばずに言うのなら生活感の欠片もないほど物がない。閑散としていた。
「何だかワクワクする」
年頃の娘の初めての買い物が武器というのもどうかと思うけど。
でも、これから先自分の買い物なんていくらでもできる。可愛い服や装飾品だってそうだ。焦る必要はない。
そう思うと初めて自由を手にしたのだと実感できた。
「いらっしゃい」
武器の購入者は大人が主だが、子供の冒険者はも薬草採取のためにダガーなどを購入したりするので珍しくはない。そのため、お店に入ってもさして注目を浴びることはなかった。
変に緊張しちゃった。
「いろんな武器があるのね」
剣にメイスに、ヤリ。この三つだけでも形や長さが異なった物が多く置かれている。さらには防御用の盾まである。
「・・・・あれは飾り剣ね。そんなものまで置いてあるんだ」
実用性はない。貴族のプレゼント用の物で、綺麗な装飾品や高価な宝石をつけて、見て楽しむだけのもの。義兄も幾つか持っていた。
「短剣も種類が豊富ね」
私の主な戦闘スタイルは魔法になる。ただ、魔力が切れたり、何らかの原因で魔法が使えない状況でも対応できるように補助的な意味を込めて使う武器なので短剣系がいいかも・・・・・・迷うわね。
「・・・・・レイピア、か」
ふと目に止まったのは短剣の隣にあったレイピアだ。こちらも数多く取り揃えられている。さすがは王都の武器屋ね。
レイピアを手に取って軽く振ってみる。かなり軽くて驚いた。それに手に馴染む。
戦場には男ばかりだった。そんな奴らが使っている武器を奪って使っていたので使いづらいのは当然か。
「お嬢さん、幼いのに随分と武器を扱い慣れているな」
採取用の武器ではなく討伐用の武器を見ていたので店内で目立っていたようだ。客の対応をしていたはずの店員が声をかけてきた。多くの冒険者を見てきたからだろう。子供のくせにという偏見はなく、見ただけで武器が使える者かどうかが分かるようだ。
ただ、今の私は見た目通り武器を使ったことがない子供だけど、死ぬ前の経験はそのまま引き継がれている。
「レイピアと短剣を数本をお願いします」
「短剣とは言え採取用ならともかく、本格的な武器となると値段はぐんっと上がる。ましてや、それに加えてレイピアとなると」
見た目は子供だから・・・・・いや、実際に子供なのは事実か。死ぬ前の記憶があるから現実と感覚で齟齬が生まれそうだな。気をつけないと。
とにかく、この店員は払えるのか心配をしているのだろう。見た目通りの子供なら値段の確認ができていない、あるいは金額の読み方が分からない可能性も視野に入れているはずだ。仕方がない。最初にドッグタグを提示するか。
「問題ありません。不安ならこの中身を見てくださっても構いません」
「・・・・・じゃあ、すまんが確認させてもらうぞ」
「はい」
レジに戻った店員は半信半疑の様子で確認を始めるが、すぐに驚愕の顔とともにこちらにやって来た。
「た、大変失礼しました。では、すぐにお会計に移らせてもらいます」
いきなり丁寧な言葉遣いになってる。先ほどからの様子を見るに客で対応を変えているわけではないようだった。これは驚きすぎて自分で何をしているのか分かっていない感じだな。
何はともあれ、無事に買い物ができて良かった。初めての自分の持ち物か。何だか、嬉しいな。
「森に行って試し斬りをしてみよう」
自分だけのもの。ただ、それだけで凄く幸せだ。こうやって、一つずつ自分だけの物を増やせていけたらいいな。
「そしたら、私も他の人のように幸せになれるかな」
幸せになってみたい。
幸せに生きてみたい。
そのためには・・・・・・
「もっと、もっと頑張ろう。自分の意思を強く持って。もう二度と利用なんてされない。私は私の人生を歩むんだ」
それが今の自分にはできる。
何だか最強の英雄になった気分だ。
「フフフッ、私だけの武器か」
腰に下げているレイピアを何度も見てしまう。まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように。精神年齢的には大人だけど、特殊な人生を歩んできたせいで大人になりきれていなかった部分もあったのかもしれないな。
今世ではそういうところも一緒に成長していこう。




