29.それぞれの結末
side.ヴィクトリア
「もうっ!最悪。みんな、みんな、役立たずなんだから」
国の情報を他国に売ってまで欲しかったイヴァン様。実際に手に入れてみると、思ったのと違った。飽きたのかもしれない。だから、あんなに煌びやかに見えていたイヴァンがどんどん色褪せていった。
自国ではないけど、それでも私は王女。今は亡き国の王女であり、私が最後の王族ならばプレミアがついていることになるのでそんじょそこらの王族とは格が違う。だから、みんなが私を敬うのも、私を大切にするのも当然。そんな私が国一番の権力を望んだのならイヴァンも他の人たちもそのために動くのは当然。
わざわざ国の秘宝である薬まで使ってあげたのだから尚更。それなのに失敗した。
「夜の女神」
噂を聞いた時からどうしてか無性に気に食わなった。イヴァンが興味を持ち出したのが更に気に食わなかった。イヴァンには飽きてきた。でも、彼が私のモノである以上、私から奪うことは許されない。そうよ、この私が欲しがったのだからイヴァンの隣に立つのは私でなくてはいけないのよ。
「この償いは必ずしてもらうんだから」
イヴァンたちがしたことに私が関わっていることはバレてないはず。
「兎に角、早く国を出てしまいしょう」
イヴァンと変人女は処刑された。罪人として晒し首になった。そんな恐怖が自分にも降りかかると思うと、体の震えが止まらない。
そもそも、あの実験は彼とあの変人女が勝手にしたことで私は関係ない。そりゃあ、ちょっとは手伝ってあげだけど。だから何よ?私は何も悪くない。
「どうして、私がこんな目に合わないといけないのよ。私は王女なのよ、特別なのよ。それなのに、ただの貴族が、平民風情が」
もし捕まれば私も同じ目に合う。あり得ない。一国の王女があんな辱めを受けるなんて、たかがゴミの命を使ったというだけで。何よっ!こっちは使えない奴らの命を有効活用してあげただけなのに。
「こんばんは、王女殿下。いいえ、ヴィクトリア」
「・・・・・夜の女神、アリステア」
どうしてここに?いいえ、そんなことよりもこいつ今、なんて言った?
「たかが平民風情が、夜の女神なんて分不相応なあだ名をつけられて図に乗りすぎたようね。誰の名前を呼んでいるかその小さな頭では理解できない?王女の御名はお前風情が気安く呼んでいいものではない。身の程を弁えろ」
「お前こそ、いい加減身の程を弁えたらどうだ?《《元》》王女殿下。そろそろ現実を見る時だ。お前の夢はここまで。分かっているだろう。祖国はお前のせいで滅んだ」
「・・・・違う」
私のせいじゃない。お父様たちが、騎士たちが無能だったから。だから、主人を簡単に裏切るような使用人が王宮内に入り込むことになったのよ。そう、つまり私は被害者。ただ、騙されただけ。
私はイヴァンが欲しかっただけ。その純粋な気持ちを利用した奴らが悪い。私は何も悪くない。
「帰る国がないお前はもう王女ではない」
「・・・・違う」
「お前を守るものはもうこの世のどこにも存在しない。お前が全て滅ぼしたから」
「私のせいじゃないっ!私は何も悪くないっ!」
そうよ、私は何も悪くない。私は騙されたの。イヴァンが欲しいという気持ちを利用された。裏切られた。こんな目に遭うなんて誰も教えてくれなかった。教えてくれなかった人たちが悪い。私は何も悪くない。私のせいじゃない。お父様やお母様が亡くなったのも、国が滅んだのも、全部。私は何も悪くない。
「そう。そうやって現実から逃げ続ければいい。逃げても何も変わらないけど」
本当に腹の立つ女ね。
「ところで」と言ってアリステアは真っ暗な海に視線を向ける。
「港から国外に逃げる算段のようだったけど無理よ。港は閣下が閉鎖してるから。あなたを逃さないように、確実に消すために」
「・・・・・消す?私を?王女であるこの私を?」
「閣下にお願いしたの。私の願いを聞く取引をしてるから、案外あっさり許可してくれた。これはその一つ。ヴィクトリア、命を弄んだ罪、私を利用し、殺した罪、己の命をもって償え」
言ってる意味が分からない。それを問うことはできなかった。その前にアリステアのレイピアが振り下ろされたから。
どうして、こうなったのだろう?
何がいけなかったの?
最初は純粋にイヴァンに恋をした。彼が欲しかった。ただ、それだけ。それだけだったのに………。
***
私が公爵にお願いしたことは二つ。一つはヴィクトリアの命をもらうこと。そしてもう一つは子爵家の事業を吸収すること。
少しずつ彼らは破滅していく。私が魔力を奪われた、衰弱していったように。
残念なのは、私の死に直接関わった義兄の行方が分からなかったことだが仕方ない。
子爵家では夫婦の言い争いが絶えず巻き込まれた使用人の怪我人が続出。
さらに苛立った夫妻による八つ当たりも加わり評判はガタ落ち。エルビラは子爵を見限って次の旦那様を探そうと奔走したが評判の悪さのせいで、まともな貴族は近づいてこない。近づいて来るのは美人なエルビラの体目当ての者ばかり。
妻にしてやる、愛人にしてやるという甘い言葉に騙され、一夜を共にしては捨てられを繰り返したエルビラを子爵はついに見限った。身一つで放り出された彼女は食うに困り、今ではスラム街で身売りをしていると情報屋から聞いた。
子爵家も事業の失敗が続き、ついには没落したようだ。
「アリステア、依頼に行くぞ」
「ええ、ボルドー」
二人がどうなろうが私には関係ない。関係ない世界で生きていくと決めた。
「今日は公爵に会いに行くのか?」
「ええ。稽古はお休みだけど、小公爵にお茶に誘われているの。もうすぐ閣下は国王に就任するから、そう簡単には会えなくなるしね。その前にと。あなたは実家には戻らないの?」
「顔を出す予定ではあるけど冒険者を辞めるつもりはない。今の暮らしが気に入ってるんだ」
「そう。なら、これからもよろしくね」
「ああ」
運命は変えられる。いい方向にも悪い方向にも。イヴァンたちの実験が明るみになった今、私やボルドーがモルモットになる未来はもう二度とこないだろう。これからは、冒険者らしく本当の自由を堪能して生きていこう。




