13.魔石の鉱山
「僕ね、お姉ちゃんたちみたいに強くなる。戦い方を学んで村を守るんだ」
アルトの新しい夢なのだそうだ。
「そうか、じゃあ王都に来たら戦い方を教えてやるよ」
「本当っ!絶対だよ」
大喜びするアルトの頭をボルドーは優しい手つきで撫でる。まるで親子のようだ。
私たちはアルト、村人に別れを告げて帰路についた。
「良かったの?」
「何が?」
「冒険者なんていつ死んでもおかしくない職業でしょ。それなのに、『戦い方を教える』なんて」
「良いんだよ。いつ死んでもおかしくないからこそ明日の約束をするんだ。そうしたらさ、何がなんでも生きて帰んなきゃって思うだろ。簡単に死ねなくなる」
ボルドーは言う。
「だから俺はお前とも明日の約束をする」と。
ボルドーとはそこで別れた。遠ざかる彼の背中を見ながら私は過去に一度も明日の約束などしなかったなと思う。
「私も行こう」
今回討伐したワイバーンの素材を売れば目標額に到達。魔石の鉱山が手に入る。帰ったばかりだし、ギルドへの報告もしてきたので疲れているけど善は急げという。どんな不確定要素が入るか分からないし、さっさと自分の物にしてしまった方が安心する。
「何もない、ただの岩山ですが、本当によろしいのですが」
絶対に売れないだろうと思っていた岩山で、店側も処分に困っていたようだ。だったらタダ同然で売ってくれてもいいのに。まぁ、そこは商売魂だろう。放置していて管理費などかかっていないだろうに。
「失礼ですが、夜の女神様でいらっしゃいますよね」
「・・・・はい」
肯定するの恥ずかしい。自分で『女神』なんて言いたくない。ナルシストじゃん。
「でしたらもっと条件の良い土地などがありますけど」
存外に「買えるでしょ」と言っているのだろう。そんなわけがない。
将来に備えて貯蓄しておきたいし、同じことが起きないとは限らない。いざという時のためにとっておきたい。それを踏まえるとこの鉱山を買うので精一杯だ。
まぁ、そんなことをこの店員に教える必要はないので笑顔で流す。好きに解釈してくれという思いを込めて。
「この岩山でお願いします」
「・・・・・承知しました」
せっかくの金蔓。もっと高額の土地を買わせたかったのにと顔に出てますよ。
「ではこちらの書類にサインを」
これで契約終了。まずは一つ、肩の荷が降りたな。あとは職人ギルドに行って採掘依頼をするだけ。
一番困難だった鉱山の入手ができたので魔石に関しては順調だ。次の難関は子爵令嬢の身分ですら雲の上の存在で会うことも声をかけることすらできない公爵家とどう接触するかだ。
これに関しては既に考えている。こっちから接触できないのなら向こうから接触してもらえばいい。簡単な話しだ。情報ギルドにそれとなく魔石に関する情報を流してもらう。後は値崩れしない程度の量を、ギルドを通して市場に流せばいい。
魔石は存在自体が希少で滅多に市場に出回らない。だからこその高額さだ。公爵はその困難さゆえに常に頭を悩ませていた。私が情報を流せば藁にもすがる思いで接触してくるはず。
***
「すごい、魔石の山じゃねぇか」
「ただの岩山だったのに」
「宝の山だ。これ全部売ったら死んでも使いきれないだけの金が手に入るじゃないか」
「夜の女神は分かってて買ったのかねぇ」
***
side.メナドゥック公爵
「魔石の鉱山、夜の女神か」
「はい。公爵家の情報網を使ってもやはり元々の数が少ないためいくら金銭に糸目をつけないと言っても手に入れるのが難しく、このままでは坊ちゃんが」
ただ一人の息子であるラッサールが難病指定されている魔力欠乏症を発症した。手元にある魔石は残り僅か。魔石がなくなれば息子は死ぬ。
妻が残した忘形見。どうにかして魔石を手に入れなければと毎日頭を悩ませていると喉から手が出るほど欲しがっていた情報が入り込んだ。あまりにも都合が良すぎて罠ではないかと疑ってしまうほどに。
息子の病気はまだ社交界に情報漏れはしていない。可能な限り隠し通さなければならない。少しでも隙を見せたら取り入る、利用するが当たり前の世界だから。ましてや公爵家という高位の地位なら尚更。
「夜の女神に関しての調査は?」
「終えています」
優秀な執事だ。こちらが指示を出さなくても先回りして動いてくれるので大量な執務でも滞ることがない。
「名前はアリステア様、十二歳で冒険者になりその二年後の現在で最高ランクSSSに到達した逸材であり平民でありながら魔法が使えるそうです」
「ほぅ」
「魔力操作はかなりのもので、訓練を受けた国家魔法師に相当するかと」
魔力は貴族の特権だという馬鹿な輩もいるが、正直これは神からのギフトのようなもの。色を好む貴族がいる以上、平民に貴族の血が流れている可能性もあるため平民の中にも魔力を持っている人間はそれなりにいると思われる。
ただ、使う場面がないのとまともな訓練を受けさせてもらえないので使えないというだけだ。
魔力は貴族の特権だから平民が魔力を持っている上に使えるというのが許せないのだろう。だったら自分の種の管理ぐらいしろよと怒鳴りたくなるがな。
「子供の頃から冒険者ということは孤児なのか?」
「一応、母君はご存命です」
「一応?」
「母君はローティス子爵の後妻です」
社交界で何度か見かけたことがある。常に肌やら容姿やらを管理されている、美に敏感な令嬢や婦人の中にいても飛び抜けて美人ではあった。見た目はな。しかし、その性根はまさに娼婦。見た目がよく、権力のある男なら誰にもで擦り寄る。見た目が良いから遊び相手に選んでいる貴族も中にはいるようだが。
まさに腐り切った果実のような女性だった。
「婦人には子爵との間に子供がいたな」
「はい」
「アリステア様と一歳違いであり、子爵と夫人の子供だそうです」
「前妻の子ではなく?」
「はい」
「アリステアが一緒にいないということは子爵との子ではなく前夫の子か?」
「はい」
だから捨てられたのか。前の夫、それも平民との間の子など存在自体邪魔にしかならない。この国は身分がものを言う。善悪すらも。だからって自分の子を捨てるのか?
彼女を見た時から思っていたが、やはり好きにはなれない人種だな。
「冒険者になった子供の生存率は極めて低い」
当然だ。魔物がいる森に入り、依頼されたものを採取するのだから。魔物と出会った際の対応の仕方や討伐方法などの訓練を受けたわけでもなく、まともな装備すらもない。加えて採取依頼の賃金は安価だ。装備を揃えられるには時間がかかる。その間に何人も死んでいくのだ。
「彼女が魔法を使えるのは生き残るための手段として考え抜き、試行錯誤した結果なのかもしれんな」
「はい」と執事も沈痛な面持ちで頷く。
彼女の生い立ちを考えると魔法が使えることを「すごい」と安易には言えないな。そんな簡単なことじゃなかったはずだから。
「アリステア殿に接触してくれ。丁重に我が家へお招きしたい」
「かしこまりました」




