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「もし、なにかお悩みのことがあれば、ご相談ください。微力ではありますが神聖ペトラフィタ教の苦難にお力添えすることが出来ますのなら、修道女としてそれに勝る光栄はございません(ざまあ)」

 内心で高笑いしながら私は謙虚に申し上げる。


「なんとお優しい」

 アルマンは立ち上がった。

「マルグリット様は、これからどちらへ?」

「王宮に戻ります。ここに来たのは先ほどまで所用がございましただけのことゆえ」

「あなた様の馬車はこちらの御者が王宮までご一緒しますので、私の馬車にお乗りいただけませんか?」

「構いません」

 私は彼に連れられ、馬車を乗り換えた。


 フィリップ王子から借りてビビアーヌとクラリスを送り届けた馬車もデラックスだったが、アルマンの馬車はそれの上を生きそうなくらい豪華な内装だ。政教分離!!!

 そして私はゆっくりと走る馬車の中で、アルマンと一対一で対峙した。


「重ねてお詫び申し上げます」

 アルマンは静かに言った。私は首を横に振る。

「このような、暴力的な手段を用いるのには、なにかのご事情があったのでしょう」

 アルマンは小さくため息をついた。窓の外を眺め、しばし考えている。しかし横顔も大層美しいな。


「実は、王宮内に悪魔憑きが跋扈しているという話がございました」

 私は軽く眉を上げるに留めた。知っているけどね。何回も殺されているから。しかしそんなことを言ったらまたアルマンの疑いを買ってしまう。


「私はルイーズ王女とベルナルド王子の婚礼のためにこちらに神聖ペトラフィタ領国の代表としてこちらに参っておりますが、そんな話を聞きましたらば、黙ってはおれません。ましてや婚礼という神聖な行事を目前としております最中であります」


「さようでございますね。それでは悪魔憑きの正体を探っておられたのですか?」

「はい。王宮内に怪しい人物がいないかどうか」

「……それは」

 私は口ごもりつつ控えめに言う。


「それは国王や皇太后のご許可を得たとは思えないのですが?」

「おっしゃる通りです」

 おいおい、自国以外で隠密活動とかマジヤベーだろ。神聖ペトラフィタ両国はうちのクラロ王国だけじゃなくて下手すりゃマドリウ国も怒らせる気か。

 ……いや。もしかして。


「まさか、教皇のご許可は?」

 アルマンは答えなかった。お前の独断か。

 そういえば確かにアルマンは俺様キャラだったな……。公式展開ではそれがちゃんとよく働いて王国の危機を救うけど。上司に報告、報連相が無いのはまずいですな。


「わたくしは、先王の死により寵愛を失い、すでに隠遁しております愛妾ですので、国家のあれこれに口をはさむつもりはございません。この話も聞かなかったことにいたします」

 その言葉でアルマンはほっとしたようだった。いやこっちもほっとするけどね。出方次第ではアルマンに口を塞がれる(=死)という可能性もあるから……。お互い大人で良かったぜ。


「ですが、悪魔憑きが王宮内にいるとすれば、それは大変な事態ですね……心配です」

「実はすでに、怪しい人物は浮かび上がっております」

 私はその先の言葉をうっすら察していた気がする。

「ルイーズ王女付き女官のアデルという伯爵令嬢です」


 やっぱりな。

 今まで何回もこの世界を経験し、アデルの不在を探って来た。他のキャラクターも少しづつ違っているこの世界、アデルが思いもよらないことになっているのではないかということは想像していた。それの最悪なパターンって何だろうと思えば二つ。


 アデル嬢が死んでいるか悪魔憑きになっているということ。


 前者である可能性もまだあるけど、あまりそれは考えたくない。だってこれは彼女の物語なのだ。まだ始まっていないけど、彼女にはこの物語を通して何らかの形で幸せになって欲しい。

 悪魔憑きならゲームのルールとして悪魔祓いで助けられる可能性がある。


「アデル嬢は行方不明と聞いております。もしかしてアルマン様が保護をされているのですか?」

「いいえ。私達もまだ探しているところです」

 とか言って腹黒アルマンの事だから、実は隠している可能性もあるかと思ったが、それならマルグリットを斬首するほど神経質になってはいないだろう。彼も今懸命に探しているのだ。


 それならば彼と組んだ方が得策かもしれないと思案する。

「もしよろしければ、こうして成り行きを知りましたのものご縁。わたくしにも何か協力をさせていただけないでしょうか」

 アルマンはその淡い色の瞳でこちらを真っすぐに見てきた。そこに了解の意は読めない。


「わたくしを警戒しておいでで?」

「そもそも、なぜあなたが本日王宮にいらっしゃったのかと」

「イザボー皇太后に呼ばれたのです」


 それから私はちょっとだけ考えた。どう繕ってもマルグリットが王宮に居ることは奇妙だ。それならば、ある程度真実を伝えてしまった方がいいかもしれない。


「……イザボー皇太后がどこまで考えているかはわかりませんが、ルイーズ王女の侍女であるアデル嬢がいないということには懸念をお示しでした。そのためにわたくしを呼んだようです。婚礼を控えた現在では非常に神経質な問題ですので、なにかあってもいかようにも取り繕えるわたくしが都合が良いのでしょう」


「とすると、イザボー皇太后もこの問題は軽率に取り扱うべきではないと考えておられると」

「悪魔憑きの可能性まで至っているかは存じ上げません。ただ見つけるようにと申し付かりました」

 なるほど、とアルマンは頷く。


「イザボー皇太后のことですから、思い至っていると考えます」

「わたくしも。いかがでしょう、アデル嬢の捜索にわたくしも加えてはいただけませんか?わたくしも悪魔祓いには心得がございます」

「ふむ」

 アルマンも当然悪魔祓いはできるわけで、ここで私の助力必要と判断すべきかはわからなかったが、彼は頷いた。


「お互いに、ここでの情報交換は他言無用ということで」

「承知いたしました」

 よし。アルマンGETだぜ!


 アルマンは隠しキャラなだけあってステータスはとても高い。アデルの悪魔祓いもうまくいくに違いない。

 問題は、私をいつもぶっ殺しあそばすあの悪魔憑きが、アデルかどうかだ。ほぼ確定で良いと思うが思い込みは危険でもある。もしアデルがあの悪魔憑きであれば、おびき寄せるのは容易い。私が単独で王宮内をちょろちょろすればエンカウントできるはずだ。


 一応それを前提としてトライする価値はあるから罠を張ろう。

「最初は貴女が悪魔憑きかと思っていたが、このような協力関係を結べてよかった」

 アルマンが言った言葉に、私はふと、彼が神聖ペトラフィタ語で言ったことを思い出した。


「そういえば、王宮内に悪魔憑きがいるという話を『彼女』から聞いたとおっしゃいましたね。それはどなたなのですか?」


 アルマンはそれは秘密にするかと思ったがこともなげに言う。

「そんなことが出来るのは聖女よりほかありません。警護の心労はありますが今回のクラロ国訪問にご同行いただいてよかった」


 ……今、なんて?

 聖女?

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