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 攻略キャラ2、宮廷楽師長クラウディオ。

 私もそのピアノを取り巻く人々に混ざって彼の弾くピアノを聞くことになった。

 つーか、人がいっぱいいすぎてヤバい。ハロウィン期間中のデズニーを思い出すヤバさだ。でもまあ娯楽のない時代設定である以上、これだけ達者な音楽家が居れば、そこに皆が殺到するのはよくわかる。


 私は鍵盤を叩く彼を見つめる。

すらりとしていて緑を基調とした服を着ており、長髪だ。あかるい栗色の毛と爽やかなエメラルド色の目。まだ二十代後半で、その他確かな地位を築いているとすれば並みの音楽家ではないのだろうな。

 そう思って、私は部屋の中を目立たないように覗き込んでいた。私に音楽はさっぱりわからいけどマルグリット知識が「こやつできる!」とビリビリしている。


 やがて、曲は終わり、聞いていた人々が褒め称えている。愛想よく彼はそれに応えているが、従者らしい男性があたりさわりなく断り始めた。まあ放置して置いたら永遠に終わらなさそうだ。しぶしぶ人がひけていく中で私は立ち去りがたく残っていた。 


 クラウディオがこの国に王子と一緒に来たのは、長旅の王子をねぎらうと同時に、ルイーズ王女に自国の優れている点……彼の場合は音楽だけど、それを見せつけて憧れを持ってもらうためだ。

 やはり外交的な仕事を受け持っているのだろう。多分疲れているだろうし、私の目的としてはアデル探しなので、まだ出会っていない彼に聞くこともあまりないかもしれない。


 立ち去ろうと考えた時だった。

「美しい方。そんなところで立ち止まっていないで、よろしければこちらへいかがですか?」

 流暢なクラロ語で彼は柔らかく微笑みながら言った。


「あなたのために弾きますよ」

 あっ、そう、そうだった!クラウディオはチャラ男だった。そうそうそうそうこーゆー感じ!


 私が扉から姿を見せるとクラウディオはすでにピアノの前に立ち上がっていた。こちらへ、と優雅な動作で指し示す。

 従者が「この人また美人に声かけて……」と微妙な顔をしている。


 クラウディオはチャラ男だから、最初から愛想よくて、アデルとの好感度は上がりやすい。しかし、ある一定以上になるといわゆる高止まり状態となって上げにくくなるのだ。めちゃくちゃ愛想よく、親切だが、心は見せない男。


 お若い女子に大人気なのもわからんではない。特にそのチャラい言動の奥に隠された可哀そうな過去を持っているので、裏表のギャップがあるキャラ萌えを含め、いろんな性癖に突き刺さるタイプのキャラである。チャラいけど、礼節はわきまえているところが好きだって言いう子もいるし。


 しかし彼の真価は、好意度がMAXになった時だろう。そつなく女性と相対している彼が、突然変容するのだ。

 へたれ野郎に。


 周りには、彼が共にこの国にやって来た室内楽団の楽師全員が生温い瞳で成り行きを見守り、なんなら尻まで叩くのに、そしてプレイヤーには好意ダダ洩れなのに、告白すらまともにできないヘタレ野郎になる。

「そこが可愛い!たまらんペロペロ」な好事家も多いため、そういうわけでキャラ人気は高い。

 

 実際見てみれば、確かに美しい。まあ、なんていうか、エルキュールと同じでマルグリットにも私にも若すぎて、今、向き合っても実際、自分自身の恋愛としては成り立たないのだけど。でも見た目がいいのはお得ですからな。 


 ……ん?

 彼の設定を思い出していた私は、ふと、クラウディオに尋ねてみたいことがあることに気が付いた。もしかしたらアデル探しに役に立つことかもしれない。


 私はピアノの横に立つ彼に近づいて行った。

 洗練された笑みを見せるクラウディオは優し気だが、ちょっと踏みこめば軽妙に誤魔化してするりと身をかわしてしまうのだ。ちなみに彼との友情エンドは悪くない。お互いの好感度が、友情方面にぶれていて、同程度の場合は兄妹の約束を結ぶ。


「初めまして。マルグリット様」

 隙の無い笑顔で片膝をつくと、下からとった私の手に、クラウディオは口づけた。マジかよ優雅の極みだな。

 そこで私は違和感に気が付いた。


「わたくしの名をご存知でいてくださったなんて」

「宮廷で修道女の姿は目立ちますから。しかもお見かけした瞬間に忘れることが叶わぬ美しさ。無礼を承知で、あなたがどなたかを伺って回ったのです」

 なるほど、私がエルキュールと特訓している間に「元愛妾マルグリットの帰還」はすでに王宮内で知らぬ人の無い噂になっているということか。


「それでは、悪い噂も沢山聞かれましたでしょうね」

「悪い噂?華麗なご経歴ならお伺いしましたが?」

 うめえ~!!相手を不快にさせない返しがうめえ~!!!


 立ち上がって、クラウディオは私に椅子を勧めた。自分も先ほどまで座っていたピアノ前の椅子に腰を下ろす。

「クラロ語がお上手ですこと」

「ありがたいことに、あちこちの国から招かれることもございまして。言語を学んでおくことは必要かと思いました」


 ルーベンスとかベラスケスが画家にして外交官だったように、クラウディオは音楽家にして、外交官という役目を担うのかもしれない。ご自愛ください、先の二人の死因は過労死かもいしれないと言われているからね。


「それではあちこちでわたくし程度の美しい女人には見慣れているでしょうに」

 そして加える。

「それに、マドリウ国にもおられるでしょう。今回ご同行されている中にも、お一人。……そう、デシデリア様とおっしゃったかしら。クラロ国でも評判ですよ」

 私の言葉にクラウディオは一瞬間を開けてから軽く片方の眉を上げた。


「なるほど。見方によっては」

 そう。デシデリアも疑わしい存在だ。

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