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#53 火蓋をきる

 GH本部、モニター室の中央にカモクが立つ。前の壁一面に貼られた巨大なモニターは、いくつかの画面に分割されており、GH本部内とその周辺を映し出している。

 一つの画面に黒い影が映った。天狗の面をしたその影は、だんだんとGH本部の方へと近づいている。


「来た」




「天狗がどうやら本部の周辺にまで来ているらしい。それじゃあ、皆。残った者たちでAsterを殲滅しようじゃないか。やられてしまった仲間のためにも」


 GH本部、エントランスホールには、道竹、圭、明日香、ケビン、花蓮、そしてアサルトスーツに身を包んだ特殊部隊【GHオクシラリー】たちが集まっていた。皆、虹色の指輪を身につけ、白のトレンチコートを身に纏い、戦闘準備は整っている。

 局長である道竹が皆の前に立ち、話を続ける。


「この日を……この日をどれだけ待ったことか。天狗は私が討つ。皆は周りの雑魚どもを任せるよ。誰一人として欠けないことを心から祈る」


「あのー、副局長と宇和さんはどうしたんですかー」


 右手を高く挙げた明日香が、道竹に問いかける。この場に居るべきはずの副局長、橘麻里香の姿と、そして宇和洋二の姿がなかったからだ。


「宇和はもうすぐこちらに到着するそうだ。……副局長には、別の仕事を任せてある」


「そうですか。わっかりましたあー」


 明日香は道竹に向かって、ひょいっと敬礼してみせた。


「他に質問のある者は……いないようだね。オクシラリーの統率は君に任せるよ、御子柴くん」


「承知いたしました」


 GHオクシラリーをまとめ上げている御子柴は、道竹に向かって真面目に敬礼をした。

 皆の緊張感が高まる中、道竹は目を瞑ってひと呼吸おくと、力強く目を見開いた。


「それじゃあ皆んな、いくぞ!」




 大輝は山の中を駆けていた。GH本部に向かってひたすらに走り続ける。今頃GH本部では警報装置が鳴り響いていることだろう。元GHの大輝にとってそれを想像することは容易であった。

 Asterの作戦はこうだ。なるべく戦力を分散させるために、四方から同時にGH本部に向かって突き進む。そこで鉢合わせたGHと戦闘。行動不能になるまで追い込んで戦力を削いでいく。大輝はGH本部の北側から向かっていた。

 今作戦の最終的な目標は『正体不明の天使』を保護することであるが、無理はせず、累からの合図があった時点で全員が必ず撤退するように言われている。相手の戦力を大幅に削ぐことができれば及第点。

 GHが扱う陰陽師の結界が幽霊である大輝と星奈にとって不安要素ではあるが、それについては累とゼロが無力化できるとのことだった。


「鉢合わせるGHよりこっちの方が強い前提での作戦……。累とあいつはともかくとして、俺と星奈は大丈夫なのか? それに、正体不明の天使……まさか、彼女がそうだったなんてな」


 大輝がGHで働いていた時に近くに居たある女性のことを思い起こし、ぼやきながら走る。


「あれ? あれあれあれ? こんなとこで何してんすか如月さーん」


 突然上の方から聞こえた聞き馴染みのある声に、大輝は足を止めた。


「おう、久しぶりだな。圭」


 声の主はかつての同僚である浜辺圭であった。圭が山の斜面をゆっくりと歩いて降りて来る。そんな彼の顔を大輝は険しい顔で見つめた。

 大輝の手に黒いオーラが立ちこめると、それは大きな棘棍棒の形となっていく。


「あらら、額に立派な角まで生やしちゃって。まさか、大鬼の正体が如月さんだったなんて。感動の再会で涙が出ちゃいそうっすけど、幽霊なら仕方ない。遠慮なく、除霊させていただくっすね」


 圭は不敵に笑みを浮かべると、槍の神器を顕現させて大輝に向かって構えた。


「お前、訓練で一回も俺に勝ったことねーだろ」


「でも、今ならどうっすかね」


 大輝と圭は互いに武器を振りかぶり、相手に向かって駆け出した。そして、棘棍棒と槍が激しくぶつかり合う。




 GH本部の南側では、星奈とGHオクシラリーたちが遭遇していた。


「また会ったな、式神使いの女」


「君は……ああ! ポルコちゃんの館に居たおじさん! 君がウチの相手か。ごめんね、今回も君たちには大人しくしていてもらうよ」


 星奈が御子柴に向かって、小さく舌を出してウインクしながら手を合わせる。


「悪いがそれはこちらのセリフだ。今回は、あんたに大人しくしていてもらう。……お前ら、悪霊じゃないからって気を抜くな。引き締めていくぞ!!」


 御子柴が数十人のオクシラリーたちを鼓舞すると、彼らは「おおおおおおおおおおお!」と叫び声をあげた。


「うんうん、元気がいいね。うちも負けてられないな。それじゃ行くよ! 鷹!」


 星奈がオクシラリーたちに向けて右腕を伸ばすと、彼女の背後から十羽の鷹が現れて、翼をはためかせながらオクシラリー目掛けて突進していった。


「「神器発動!」」


 オクシラリーたちはサバイバルナイフの神器を顕現させて、鷹の式神たちを切りつけていった。鷹の体は真っ二つに裂かれ、ほろほろと消えていく。


「ああー!! 私の鷹ちゃんがー!!」


 全ての式神を瞬く間に敗られ、ショックを受けた表情の星奈を御子柴は睨みつけた。


「この前のようにはいかないぞ、式神使い!」


「へー、やるじゃん。それじゃあ、ウチも本気見せちゃおうかな!」


 星奈の前には、武器を構えアサルトスーツを身につけた完全武装の男たち。そんな彼らに怯むことなく、星奈は腕を構えて戦闘体制を取りながら、ニヤリとしてみせた。




 GH本部の西側ではゼロが、明日香、ケビンのコンビと相見えていた。


「あっちゃー、局長じゃなくて私らが天狗に遭遇しちゃったかあー。どうする? 局長に連絡する?」


 黒い天狗の面を被り、黒布の継ぎ接ぎを着た怪人のような風貌を見た明日香が、ケビンに問いかける。


「イヤ、アッチハアッチデ忙シイダロウ。アイツハ俺タチデ相手スルノガ吉ダ」


「それもそうだな。向こうから連絡が来たら教えてあげることにしよう。じゃあ、いっちょやりますか!!」


 明日香が鞭の神器を、ケビンが大剣の神器を、それぞれ顕現させる。


「すみません。僕はそんなに時間をかけたく無いので……。なるべく短時間で決着をつけます。来い、八咫烏」


 すると、枝葉の間から差し込んでいた陽の光が、何かに遮られて、辺りは薄暗くなった。


「ナンダナンダ!?」


「一体、何が。……なっ」


 不思議に思った明日香とケビンが空を見上げると、真上から体長二メートルほどの物体が大きな翼を広げてこちらに向かって降下していた。その三本足の黒い物体は、くっりっとした目玉で明日香のことをじっと見つめている。


「あまり乱暴はしちゃダメだよ。八咫烏」


「なんで、私はこんなにも巨大生物に襲われるのかなぁ?」


 驚きのあまり目を見開く明日香とケビンは、降下してくる巨大なカラスに向かって神器を構えた。




 GH本部の東側では、累と道竹が邂逅していた。

 白い天狗の面を被り、そして白いケープコートのような服を着た全身白色の累を道竹は睨みつけた。


「ようやく会えたな白天狗! 今日こそ決着をつけてやる!」


「ん? 君、私に会ったことがあるのかい? 全然覚えがないな」


「覚えがないだと……ならば!」


 そう言って、道竹は鎖鎌の神器を発動させた。鎖に繋がれた分銅を投げて、鎖部分を累の体に巻き付ける。


「おっと」


「体で思い出させてやるよ!!」


 道竹は鎖を思い切り引っ張って累の体を引き寄せると、右手で持つ鎌で彼に切り掛かった。




 GH本部の西南側では、美波が本部入口に向かってアスファルトで舗装された道を歩いていた。懐かしい白色のトレンチコートを着て。ここを訪れるからには、この格好をしなければ、なんだかむず痒い気がするようだった。

 今、GHはどうなっているのだろうか。もし、私が顔を出したらすぐに捕えられて拷問されてしまうんじゃないだろうか。そんな不安を抱えながら突き進んでいく。

 すると、美波は本部に辿り着く前の道中で、ある人物と鉢合わせた。白くて綺麗な髪を腰辺りまで伸ばした、小柄な同僚。


「カモクちゃん……」


 美波の存在に気がついたカモクはゆっくりと彼女に近づいていった。

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