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#48 イタコのばっちゃん

 会議室に入ってきた人物は、青森県在住、最後のイタコと言われる松野まつの妙子たえこだった。

 妙子が杖をつきながら、少しだけよろよろとした足取りで円卓に向かって歩いてくる。


「え? ケビンさんと渡辺さん、知り合いなんすか?」


 圭が、妙子を見て驚きの声を上げるケビンと明日香に問いかけた。


「前に怪奇現象に悩んでるっつう連絡を受けて、私とケビン、それから天馬の三人でこのばっちゃんが住む青森まで行ったことがあるんだよ」


 明日香からの返答に、圭は「ああ、なるほどっす」と理解した。


「ドウシテ貴方ガココニ?」


「そこのべっぴんさんがな、どーしても瓜生累について話を聞きたいと言うから、わざわざ来てやったんじゃ」


 妙子はそう言って麻里香の方を見た。麻里香は顔をすましたままに頷く。


「それじゃあ妙子さん。その……瓜生累という人物について、あなたが知る限りの事をお話いただきたい」


 道竹が右手を胸の前で軽く上げながら爽やかな笑顔で質問する。すると妙子はにゃむにゃむという口調で話を始めた。


「もう一年以上前のことじゃ。もうすぐ春の季節だったかの。あやつは急に来て、撮影させて欲しいと言い出したんじゃ。私は、アポも取らんとは失礼な奴じゃと思ったんじゃが、どうしてもっていうんで渋々承諾したんじゃ」


「あの、撮影させて欲しいっていうのは?」


 圭が妙子に疑問を投げかける。


「もちろん、降霊術についてじゃ。あやつは降霊をおこなっている様子を撮影させて欲しいと言ってきた。だから、私はあやつの祖母の霊を、自らの体に降霊させてやったんじゃ」


 妙子はふんすと鼻を鳴らしながら、毅然とした態度で答えてみせる。


「降霊術というのは、幽霊に取り憑かれた振りをすることかな?」


 妙子の話を聞き、笑顔から鋭い顔つきへと表情を変化させた道竹は、真っ直ぐに妙子の事を見つめながら問いかけた。


「何を言っとるんじゃ。私は本物じゃぞ!! 霊をこの体に憑依させて、生者との対話を可能にしてるんじゃ! 貴様はあの小僧と同じように私のことを侮辱するつもりか!!」


 道竹の全てを見透かすような眼差しに妙子は一瞬たじろぐも、すぐに唾を飛ばしながらに怒った。それでも道竹は、顔色を変えずに妙子のことを見つめ続ける。その眼差しに耐えられなくなった妙子は身震いした。


「うぅ……まあ、客相手をする時は霊を降ろした振りをするだけじゃ。たわいないことを話しておけば客は喜んでくれる。ただ……降霊術は本当にできる。狙った死者を呼び寄せるなんて芸当はできないけれどな」


「ほほう、降霊術は実際にできると。実に興味深い話だな。もっと詳しく聞いてみたいがそれはまた今度にしよう。今は瓜生累について聞かなければならない」


 道竹はニコニコ笑顔へと表情を戻す。

 麻里香はそんな道竹に一度目配せすると、「では、瓜生累について彼はどんな人物でしたか?」と妙子に向かって話の続きを催促する。


「あやつは貴様のように、私が客にやっている降霊術を偽物であると見破った。最近の若者は粗探しをする奴が多いからな。その類だと思った。じゃが、その後であやつはこうも言ってきたんじゃ。『君は本物の降霊術をしたことがあるな。それは死者を冒涜する行為だ』と。それからは、どこでそのやり方を知ったか、何度儀式を行ったかと根掘り葉掘り聞かれた。私も頭に来ての。『貴様の方こそイタコに対しての冒涜じゃ!!』と追い返してやったわ」


「そうか……瓜生累はやはり降霊術に興味があったのか?」


 麻里香が顎に手を添えて考え込む。


「本当に瓜生って奴は動画を撮ることだけが目的だったのか? 他に何かを聞かれなかったか? ばっちゃん」


 明日香が妙子に問いかけた。


「特に、それ以上何かを探られたりとかは無かったわい。最後に『君はこのままだと呪われ続けることになる』なんて捨て台詞を吐いていったくらいじゃ。確かにずっと、どこかから視線を感じたり、体に不調があったりだったから、とんだ嫌がらせじゃったわい。……そういえばその頃じゃったな、お前たちが私のところに来たのは」


「確かに、そうですね」


 花蓮が静かに受け答えをする。花蓮、ケビン、明日香が妙子の元を訪れて悪霊退治をしたのは、累が妙子の元に訪れてから数日後のことであった。


「昔から感じていた体の不調が、あの()()()()悪霊の所為だったとは。貴様らのおかげで体の調子もすっかり良くなったわい」


 妙子は大きく笑ってみせた。花蓮はそんな妙子に優しい笑顔を見せて返す。


「もう本当に降霊術なんてやったらだめですよ。いい? ……ばっちゃん」


 花蓮の言葉に、今まで微動だにしていなかったカモクがピクリと反応する。妙子は「まあ……もう、本当に降霊術なんてする必要はないからな」と少し悲しい表情をした。


「早死してしまった夫に会いたくて、昔、一度だけ禁忌の術とされている降霊術を行った。新鮮な動物を供物として捧げ、天から一つの魂を呼び寄せた。それが夫のものだったかどうかはわからない。黒く濁った恐ろしいものだった。その黒い魂もすぐにどこかに行ってしまった。……降霊術なんてみんなが思っているようなものではない。二度とやらんよあんな術」


 妙子は少し俯きながらそう言った後、顔をあげて「私が累について知っていることは以上じゃ。帰っていいか?」と首を傾げた。


「わかりました。ご協力感謝いたします。妙子さん」


 最初から最後まで凛とした表情を崩さずにいた麻里香は、妙子に向かって深々と頭を下げた。




「結局、累についてわかったことは、降霊術について探っていたかもしれない。ってことっすかね」


 圭が円卓に肘をついて、手のひらを上に向けた。


「いや、むしろ彼は降霊術について何かを知っていて妙子に忠告していたようにも聞こえた。……花蓮。あなたも降霊術が危険なものであると知っていたようだが、何かわかるのか?」


 麻里香が花蓮に鋭い視線を向ける。花蓮はふわふわとした表情で動揺することなく答えた。


「わからない。降霊なんてなんとなく危険な術っぽいじゃないですか。実際、ばっちゃんは悪霊に取り憑かれていたし、きっとそれは降霊術が関係してる……気がする。これ以上、ばっちゃんに危険な目にはあって欲しくない」


 花蓮の言葉を聞いて麻里香は「そうか……」と何かを考えるように視線を右下へ落とす。しかし、すぐに視線を正面へと直した。


「瓜生累は降霊術を使い、何かをしようとしているのかもしれない。これからは瓜生累を含む、ギャル、大鬼、ポルターガイストに警戒しながら、彼らのことを徹底的に調べること。もちろん、通常業務も怠ってはいけない。ここまでで何か質問のあるものは?」


「あの、宇和さんはこっちに戻ってこないんですか?」


 不満げに明日香が麻里香に質問する。


「安心しろ。彼にはもう連絡をつけた。時期に東京に戻ってくるだろう」


「ヨカッタ! コレデ少シハ人手不足モ解消スル。タンマリ溜マッタ事務仕事ヲ押シ付ケテヤル」


 麻里香からの答えにミゲルは歓喜した。


「他に質問のあるものは……いないな。では、局長」


「ああ、これにて会議を終了する。解散」




 その頃、白のトレンチコートを羽織った四十代ほどの男が電車から駅のホームに降り立った。改札を通り、東京駅から出て景色を眺めると、がっくしと肩を落としていた。


「できれば戻って来たくはなかったなあ。あいつには遭遇したくはないからなあ」


 男は五人の幽霊の似顔絵が描かれた紙を片手に持って、それに憂いの眼差しを向ける。


「今お前は、どこで何をやってんだ。涼夜りょうや

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