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#47 緊急会議

「レイ!! ちょっと! ちょっと!!」


「何? 朝から騒がしいなあ」


 ある日の朝、美波はレイの住む小屋に駆け込んだ。

 サングラスと黒のキャップを外すと、それらを木で作られた小さな机に投げ置き、スウェットパンツのポケットから徐にスマートフォンを取り出す。


「ワカサギマッチョくんが天狗だったんです!! 以前ファミリーレストランで会った、白衣のお兄さんが天狗の幽霊だったんです! いや、でもあの時メロンソーダ飲んでたから幽霊じゃない? え? 動画再生できない。は!? 消えてる!?」


 戸惑いながらも焦った様子でスマホの画面をポチポチと叩く美波に、レイは冷ややかな視線を向けた。


「何が言いたいの? ……とりあえず、落ち着きなよ」


「落ち着いていられないですよ!!」


 美波は目を見開きながら、レイの顔に近づいた。

 それもそのはず。美波はとても混乱していた。

 美波は以前ファミリーレストランで白衣の男と出会ってから、定期的にワカサギマッチョくんの動画を見るようになっていた。

 彼の動画は基本的に何かに挑戦したり、物事を検証したり。バカなことをやっているな、という感じの内容がほとんであったが、それでもクスリと笑えるような、そんなものばかりであった。

 そして先日投稿された最新の動画。どうやらワカサギマッチョくんが白天狗くんという名に改名するらしい。そして、彼は動画内でギャル、大鬼、ポルターガイストという仲間と共に、GHを狩るなどという宣戦布告まがいのことを言い放ったのだ。

 彼がGHの局長の追っている『白天狗の幽霊』なのだろうか。いや、そもそもワカサギマッチョくんは幽霊ではない。以前ファミリーレストランで出会った際に、それは確認している。

 そして彼が動画内で発言した仲間たちの特徴について。それらは以前、ポルターガイストの館で対峙した幽霊の特徴と一致している。

 あの時戦った大鬼の悪霊は、かなりの強さであった。白天狗くんが局長の追っている白天狗の幽霊ではないとしても、彼らはGHにとってかなりの脅威になるのではないだろうか。

 美波は胸に手を置いて、少し呼吸を整えた。

 レイからの「落ち着いた?」という問いかけに対して、「はい」と返事をすると、美波は昨日見た動画の要点を彼女に伝えた。


「つまり、以前私たちがファミリーレストランで出会ったワカサギマッチョくんとかいうユアームーバーが、ポルターガイストの館にいた幽霊たちを引き連れてGHを襲う宣言をした。そして、GH局長が追っている白天狗が彼の正体だったかもしれないと」


「そういうことです」


 美波の言葉をさらにわかりやすく纏めてくれたレイに対して、美波は深刻な表情で頷いた。レイはそんな彼女から土埃りで汚れ、くすんだ床へと視線を逸らす。


「良いんじゃない? GHなんてなくなった方がいいよ。放っておこう」


「いや、ダメですよ! たしかにレイにとってGHなんて滅んだほうがいいんでしょうが。でもダメですよ!!」


 冷たく言うレイに、美波が声を上げる。


「GHがなくなったら、レイの生前の手がかりが一つ消えてしまうことになるんですよ! それに……それに、私が仲良くさせてもらっていた先輩と全然連絡がつかないんです。非通知でかけているので無視されているだけかもしれませんが、もし何かあったら……」


 美波が顔を俯かせながら涙目になった。そんな美波を見て、レイが軽くため息を漏らす。


「それで、君はどうしたいの? どうするつもりなの?」


「GH本部に行ってみようと思います。今、あそこがどんな状況なのか確かめたい」


「言っておくけど、私は手伝わないからね。それにGHに接触するのは危険だって、君が言っていたんだよ」


「それでも……それでも行かなきゃいけないような気がするんです。ほんの少しですけど、あそこには恩もありますから。……手伝いの必要はありません。私だけで、確かめて来ます」


「それじゃあ、これでさよならかもしれないね」


 レイがそう呟いた。美波には、レイが少し寂しい表情をしているように見えた。


「そんなことは絶対にあり得ません。……私は必ず戻ってきますから。ここで待っていてください」


 美波は優しく笑ってそう言うと、サングラスとキャップを手に取り小屋から出て行った。

 美波の言葉と表情からレイが想起したのは、とある青年との最後。

『レイ、それじゃあ。必ず陰陽に戻るから。先に帰っててよ』

 レイの記憶に張り付いた彼の笑顔が、胸を締め付ける。


「『必ず』って何? そんな言葉……もう聞き飽きたよ」


 レイが涙ぐみながら、ポツリと呟いた。




 GH本部では、緊急会議が行われていた。

 芦屋道竹、橘麻里香、渡辺明日香、ケビン・舘脇、天馬花蓮、浜辺圭、カモクの七人が会議室に集まる。彼らが囲む円卓は、いつも以上に人と人との間隔が開いていて、少し寂しさを感じさせる。


「なぜ集まってもらったか。皆はもうわかっていると思うが、先日、動画配信サービス『ユアームーブ』にて、我々GHに対する脅迫まがいの動画が投稿された」


 局長である芦屋道竹が、真面目な顔で口を開く。


「投稿者はワカサギマッチョくん改め白天狗くん。……そう、彼は我々が追っている『白天狗の幽霊』と関わりの深い人物だと思っている。麻里香、彼の説明を」


「はい。白天狗くんについて、彼の所在を調べるために今まで彼が作成した動画の送信元を調査した。その結果、二箇所から動画が配信されていたことがわかったんだ。一つは北海道にあるアパート『ウイングハイツ』。ここの設備は一年ほど前まで使われていたようだ。そして、最近では此処、東京にある『ハートコア』というアパートの設備を経由して動画が投稿されていた」


「北海道付近で天狗の幽霊の目撃情報があった時期と東京に天狗の幽霊が現れた時期、動画が投稿された場所とピッタリ一致しているっすね」


 圭が薄ら笑いを浮かべながら、鋭い補足を入れた。


「その通り。そこで、その時期に『ウイングハイツ』、『ハートコア』に住んでいた共通の人物を割り出した。人物の名は瓜生うりゅうるい。見た目はどこにでもいる小洒落た青年のようだ。……しかし、入居時に書かれた書類の経歴は全て出鱈目だった。それどころか、瓜生累なんていう人物は戸籍上存在すらしていない。彼のことを探ろうと今朝、ハートコアにも出向いてみたが、彼の住んでいた一〇三号室はすでにもぬけの殻だった」


 麻里香の話を聞いて、ケビン、明日香、圭は眉を顰める。


「動画で彼の姿も確認したよ。彼の被っていた天狗の面は、間違いなく私の追っている白天狗そのものだった。彼は白天狗に操られているのかもしれないね」


「彼自身ガ白天狗ダトイウ可能性ハ?」


「それはない。私が対峙した白天狗の幽霊は、人間離れした動きをしていた。その動きはまさに悪霊そのものだ。白天狗の正体が生者などということはあり得ない」


 ケビンからの疑問に道竹は即答した。ケビンは「ソウデスカ……」と肩を窄める。


「まあ、動画投稿者が白天狗本人か幽霊に操られてる他人かは一旦置いといて、そいつはギャル、大鬼、ポルターガイストというメンバーと共に私らを襲おうとしてるんだよな。その点はどう対策するおつもりで?」


 明日香は圧力をかけるような言葉遣いで問いかけた。その問いに麻里香が答える。


「その点については、ポルターガイストの館で彼らと対峙している花蓮、そしてオクシラリーたちの情報を元に資料を作成した。しっかりと読み込んで対策しておくように。……あとは、唯一誰とも接触のない瓜生累についてだが……彼についてももう少し情報が欲しい。そこで、瓜生累に会ったことがあるという人物を、今日ここに招いている」


 すると、会議室の扉が開いた。

 オクシラリーの御子柴と共に、巫女服姿の小さな老婆が杖をつきながら部屋に入ってくる。その姿を見てケビンと明日香は目を丸くした。


「「イタコのばっちゃん!!」」


「ばっちゃんじゃと! 私はまだピチピチの八十歳じゃい! 妙子さんとお呼び!!」


 イタコのばっちゃんこと、松野妙子まつのたえこは怒りながらに叫ぶと、「ふん!」と鼻を鳴らしてみせた。

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