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#29 動画投稿者の一日は忙しい

 私の名前は瓜生うりゅうるい。しがない動画投稿者だ。

 八年ほど前に人気動画サイト『ユアームーブ』にアカウントを開設して、細々と動画を投稿している。現在のクリエイター登録者は約二百三十人。まあ、月に数本しかあげていないのだからそんなものだろう。

 え? 毎日しっかり投稿しろって? すまない、動画投稿が本業な訳ではないのでね。まあ、趣味? みたいなものだ。半分は。それに、どうせ投稿するなら時間をかけてでもクオリティの高いものにしたい。

 一年ほど前までは、北海道に住んでいた。食べ物も美味しくて居心地は良かったのだけれど、仕事の関係で今は東京に移り住んでいる。ここ、都内にあるアパートの一〇三号室が私の今の住処だ。


「累さん、動画撮らないんですか? 撮らないなら、僕、出かけちゃいますよ」


 気だるそうに話しかけてきた彼は、私の相棒——ゼロだ。私がこちらに越して来てから、間もない頃に彼を拾った。

 クリクリな大きな目に、少し伸び散らかしたボサボサの髪の毛。可愛い奴だろう? 極め付けは、目の下にくっきりとある“くま”だ。ダウナーな感じが好きな人には刺さるだろう。でも彼は寝不足という訳では無い。染み付いて取れなくなってしまったのだ。

 彼には動画撮影の助手的なことをお願いしている。カメラマンや編集などなど。私のそんなお願いを彼は嫌々ではあるが聞いてくれている。ただ前に一度、動画に出てみてくれないかとお願いしてみたのだが、すぐに断られてしまった。絶対に女子から人気が出ると思ったのに。


「待て待て、今撮るから。今日はやっぱり大食いの企画じゃなくて、鉄球を千度に熱してみないか?」


「は? いつの流行りですかそれ」


「いや、一周回って面白いんじゃないかと思ってさ!」


「いえ、クソつまらないですよ、それ。というか、累さん。お昼ご飯普通に食べましたね?」


 バレてしまった。相棒は妙に鋭いところがある。ここは少し誤魔化してみるか。


「食べてないよ。全然食べてない。大食いの企画をやめるのは、決してお腹がいっぱいだからという訳ではないよ」


「ここ」


「ん?」


「ほっぺ、ケチャップついてますよ」


 確固たる証拠を見つけられてしまった。まさか、コンビニで買ってきたオムライスのケチャップを頬に残してしまっていたとは。

 私は、「てへぺろ」と言いながら頬についているケチャップを舐めとった。その時の相棒の私を蔑むような目は、生涯忘れることはないだろう。



 結局その日、『近所のパン屋の商品を全て食べてみた』というタイトルで、動画撮影を進めた。もう既に相棒が商品を購入していたからね。大量のパンを死に物狂いで食べたよ。

 この動画はパン屋の紹介にもなるだろうから、この動画を観た人がそのパン屋に行ってみてくれたら、少し嬉しい。

 ただ、口元の開いた魚のお面でいつもよりさらにクリーチャー味が増したビジュアルになってしまったので、もしそのせいでお客さんが減ってしまったら、パン屋のおばちゃん、申し訳ない。まあ、そんな影響力は私にはないだろうが。



 動画の撮影が終われば、次は編集の作業だ。編集は私と相棒で分担して行っている。一人でやるとなかなか大変だからね。不必要な部分はカットして、字幕やテロップ、効果音、時には特定の一人に伝わる暗号などを差し込んでいく。それが完了すれば動画は完成だ。

 そしたら、サイトに動画のタイトル、投稿時間を設定する。これで皆んなの元にクリエイター動画が届くって訳だ。皆んなが動画をみてくれることが実に楽しみだ。登録者は少ないけれど。


「ちょっと出かけますね、ポルコちゃんたちの様子をみてきます」


 そう相棒が私に話しかけてきた。

 ポルコは最近相棒が目をかけている子だ。相棒は心優しい、いい奴だと思う。いい奴すぎて心配になる程だ。


「わかった。私はじゃあ、次の動画の内容でも考えておくよ」


 私も優しく相棒を送り出す。うん、できる同居人。


「面白いもので頼みますよ。あと、夕飯の準備もお願いします」


「え? 私、お腹いっぱいなのだけれど」


「僕はお腹を空かせて帰って来ますから。よろしく頼みます」


 前言撤回。相棒は実は優しくなんてないのかもしれない。鬼だ。鬼。

 

 さて、次の動画は何にしようか。


「ワカサギマッチョくんの相棒に寝起きドッキリ仕掛けてみた……なんて、あははは」


 そんな動画を撮ったら、私は相棒にぶっ飛ばされてしまうな。

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