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#21 封印の祠防衛戦— 肆—

「うぎゃあああああああああああ!!」


 洞窟内に断末魔の叫びが響き渡り、ピエロの体がホロホロと消えていく。

 力を出し切った春明はその場に膝から崩れ落ちた。白虎は「グルル」と小さく唸るとゆっくりと姿を消して、ただの形代となって地面に落ちた。


「やった。やっとピエロと倒した」


 そう言ってレイが安心した顔をした。マッチョ、アクタもほっとした表情を見せた。

 春明がゆっくりと顔を上げてピエロが消えた方を見る。そして、彼の顔は次第に怪訝な表情へと変貌していった。


「……おい、なんで霊魂が落ちてねぇんだ」


 どんな幽霊でも霊魂は持っている。否、持っているというよりはそれが幽霊の本体であり、彼らのエネルギー源である。故に霊体が消えた際に霊魂が現れないのは異常であるのだ。その異常事態が春明の目の前で起こっている。

 するとお嬢の叫ぶ声が聞こえてきた。


「ちょっと! どうして本体を倒したはずなのにこいつは消えてないんですの!!」


 皆がお嬢の方へ顔を向けると、お嬢が泣顔ピエロと戦い続けている。そう、泣顔ピエロは消えていなかった。

 泣顔ピエロが片腕でお嬢のことを突き飛ばすと、奴は皆んなから距離をとった。


「バーーカ!! 実は本体は俺でした。しくしくしくしく、さようなら」


「何!?」


 アクタとマッチョが泣顔ピエロに向かって走り出した。美波も泣顔ピエロに向かって矢の照準を合わせる。

 しかし、泣顔ピエロはすでに肩の辺りまで地面に潜り込んでいた。


「かの者の封印を結びたまえ。急急如律令! …………白虎!!」


 呪文を唱えていた晴明が立ち上がり、最上位の式神の名を叫んだ。封印の儀式が終了した晴明が、すぐにピエロを打ち取るため攻撃に転じたのだ。


「晴明さん!!」


 晴明に呼び出された白虎は豪速で泣顔ピエロの元へと辿り着き、大きな前足で地面を叩きつけた。


「ぐえっ!」


 その衝撃で泣顔ピエロの体が地面から離れて浮き上がる。仰向けで、大きく体をのけ反らせながら。

 白虎はそのまま晴明がいる方に向かって泣顔ピエロのことを前足で叩き飛ばした。泣顔ピエロが飛んだ先には呪符を構える晴明が居る。


「急急如律令呪符退……」


 泣顔ピエロは体をくねっと丸めさせると、両足で晴明の腕を蹴り、思わぬ方向へ跳ね飛んだ。


「!! なかなかしぶとい悪霊だな」


 晴明が目を丸くする。

 しかし、泣顔ピエロが飛んだ先にはレイの姿があった。彼女の鋭い眼光がしっかりと泣顔ピエロを捕える。


「どいてください! どけ! どけ! 危ないね。危ないです! そこをどけえええええええ!!」


「嫌だね。これで本当に終わりだよ。ピエロ!」


 レイが踏ん張る動作をすると、顔から飛んできた泣顔ピエロの顎を勢いよく蹴り上げた。


「逝ったああああああああああい! ウェエエええええええええん」


 泣顔ピエロが真上に高く飛び上がる。


「美波!!」


「仕留めます」


 レイの掛け声に返事をした美波は矢を射った。放たれた矢は一直線に飛んでいき、そして、


「いあいおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 耳を劈くような叫び声がして、泣顔ピエロがホロホロと消えていく。


「しく死苦しく…………」


 そして、その場に真っ黒な霊魂が静かに落ちていった。



「今度こそ……本当に……」


 レイは足をふらつかせると、その場に座り込んだ。


「ピエロを倒したぞ!! うおおおおおおおおお!!!!」


 マッチョの大声が響き渡る。


「やりましたわね」


「仇はとったよショタ。明宏さん」


 お嬢とアクタは満足したような笑みを溢した。ついに……ついにピエロに打ち勝ったのだと、皆が歓喜した。一人を除いては。


「君の言うとおり強力な悪霊だったね。だけど無事儀式も終了し、奴を退治することもできて良かったよ。……どうした春明? 浮かない顔して」


 晴明が座り込んでいる春明に問いかけた。


「……なんか一瞬変な気配がしたような気がして…………いや、気のせいだったかもしれない」


「……実は、私もさっき弱い悪霊の気配を感じたんだ。でも今は全く霊の気配を感じない。ここにもう悪霊はいない。きっと大丈夫だろう」


 晴明が春明に手を差し伸べた。春明が晴明の手を掴んで立ち上がる。


「とりあえず、仇の一人は倒した。……それでいいんですよね」


「ああ。でも、まだ油断はできないな。桔梗の持ち駒の一体を倒したに過ぎないかもしれない」


 晴明の言葉を聞いて春明は再度、顔を曇らせた。そう、ピエロを倒したとしてもまだ明宏の本仇である、桔梗の存在があるのだ。

 桔梗はピエロよりも数倍は強力な悪霊だろう。何せ親父と祖父を殺した悪霊だ。それにまだ気になることが——

 そんなことを考えながら春明はレイたちのいる方を見た。


「やるな! GHの少女!!」

「視覚の共有を見破るなんて、結構頭もきれるんですのね」

「美波ちゃんっていうんだっけ? これからも君のこと頼りにしてもいいのかな」


 美波の周りに幽霊たちが集まって騒ぎ立てている。そんな美波は困り顔で狼狽えていた。


「えーと、そのー」


 すると、美波にレイが近づいてきた。


「その……ありがとう。色々助かったよ。君のおかげでピエロを倒すことができた」


 レイが目を伏せながら恥ずかしそうに美波に言う。そのもじもじとした姿は、まるで告白前の女の子のようだ。


「いえ! みんなの力があったからこそ、あの凶悪な幽霊を倒せたんです。……そういえばレイ、私がピエロにトドメを刺す直前、私の名前を……」


 それを、聞いてレイが目を見開きながら顔を赤らめた。そして美波からすぐに顔を背けてしまった。


「言ってない! 名前なんて呼んでない!! 私、まだ君のこと認めてないんだから!」


「えぇ!? 絶対に言いましたよ! ねえ、もう一回呼んでみてください。『美波』って呼んでくださいよ!! 皆さんも聞いてましたよね!」


「嫌だ! 呼ばない! っていうか呼んでない!!」


 騒ぐ皆の姿を見て、春明からは自然と笑みが溢れた。その様子を見て晴明も口をほころばせる。


「私は封印をより強固なものにするためにもう少しだけここに残るよ。君たちは帰るといい。ゆっくり休め」


「ああ、わかりました。それじゃ、俺らは帰るとしますか」




 レイ、美波、お嬢、アクタ、マッチョ、そして春明はカフェ陰陽へと帰ってきた。


「懐かしいな」


「全然変わってないな。ハハハ」


 店内に入ってアクタとマッチョは懐かしんだ。壁には呪符や形代など陰陽師に関する品が飾られている。ただ、店内のカウンター近くには、GHによる襲撃の際にできたであろう傷や凹みが散見された。


「半年ちょっとしか経ってないし、その間誰も居なかったからな」


 春明がキッチンで手を洗いながらアクタとマッチョに言った。続けて春明が話しかける。


「あんたら、この半年とちょっとの間、何してたのか後で教えてくれよ」


「もちろん。君たちのことも教えてよね」


 すると、お嬢がそわそわした様子で皆んなに話しかけた。


「少し二階に行きますわね。すぐに戻ってきますわ」


「おう、わかったよ」


 お嬢は階段を足早に登った。

 ついにピエロを倒したのだ。ショタの仇をとることができたのだ。早く、早くショタに知らせてやろう。

 お嬢は手を合わせてようと、仏壇のある部屋へと急いだ。階段を上がりきり、短い廊下を進み、部屋の扉をすり抜ける。

 すると部屋の隅に小さな人影があった。驚いたお嬢がビクッとして声をあげる。


「……誰ですの!!」


「……お嬢? 俺……俺はどうしてここに」


「…………ショタさん……!?」

 

 そこには、以前ピエロによって消されてしまったはずの、坊ちゃんヘアーで青色のパジャマを着た男の子が座っていた。

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