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09.威力爆発


 家に帰るとさっそくパン作り。思った通り本がレシピブックのように作り方を丁寧に教えてくれた。ちょっと焦げてしまったけど、初めてにしては上出来だ。

 ついでにシチューも作ってみた。具はベーコンのみ。


「コレ……シチュージャナイ……スープ……」

「私がシチューだって言ったらシチューなの!」


 モヘジマーケットで野菜も買っておけばよかった……。それでも昨日の私では考えられない程充実した晩ごはんだ。


 綺麗に掃除した部屋と、口煩くも可愛いクロウ。ランタン虫が今日も来てくれて部屋を明るく照らしてくれる。お布団を取り込めば、お花のいい匂いがして。あと、足りないものといえばーー、


「お風呂に入りたいっ!!!!!」

「カァ!?」


 いきなり大きな声で叫んだ私に驚いてシチューへと顔を突っ込んだクロウ。顔を上げるとアヒルみたいに真っ白で、ちょっと笑ってしまった。


「ゲフッ……風呂釜ナラ裏手ニアル」

「え!あるの!?お風呂!」

「魔女様モ好キダッタ」

「さっすが魔女様!」


 居ても立っても居られず家の裏へと向かって飛び出す。苔の生えた木製の仕切りの向こう側にお目当ての物があった。


「思ったより大きな風呂釜!」


 陶器でできた五右衛門風呂みたい。下に火を焚べてお湯を沸かすようだ。手押しポンプを何度か押せば、水が流れる。よし、壊れてない。


「極楽目指してがんばるぞ〜!」


 そっからの私は早かった。猛スピードで掃除し、火を焚べて湯を沸かす。薪はまだ薪置き場に使えそうなものがあって助かった。

 火力を間違えてグツグツと煮立ったお湯を見て、どちらが手を(羽を)突っ込んで湯加減を確かめるかクロウと喧嘩しながらも、なんとか人間が入っても火傷しない温度に調節できた。


「あ〜……天国〜……じゃなくて異世界〜」


 ざぶ〜んっ!とお湯に浸かれば、なんとも生き返った気持ちになる(ちゃんと髪も体もフラワーソープで洗って入りました)空を見上げれば満点の星空。解放感のしかない露天風呂だ……さいっこう!


「あ〜……癒される〜……」

「フーッフーッ!従魔ノ使イ方ガ違ウ!」


 その声で下を見ると竹筒で釜戸へと息を送るクロウ。


「こーいう時はこう聞く!湯加減はどうですか〜?って」

「湯加減ハ、ドーデスカァ〜?」

「う〜ん!ばっちり!」

「カァ……」

「そろそろクロウも入っておい……!」


 ガサッ!茂みの方から大きな音がした。慌ててそちらを見遣れば暗がりの中で赤く光る目がふたつ、こちらを見ていた。


「キケン!キケン!魔物ダ!!!」


 慌ててクロウが飛び上がる。そしてそのままぴゅんっと空へ一目散に逃げ出した。


(クロウの裏切り者ーっ!!!)


 茂みの中からゆっくりと現れたのはーー


「白猫…?」


 もふもふした可愛らしい姿に、一気に肩の力が抜ける。

 可愛らしい大きな猫。せっかくの真っ白で綺麗な毛並みをべったりと赤茶色の泥が汚してる。


「ねこちゃんも綺麗にしてあげる。おいで」


 お風呂から出て、こちらへ呼ぶ。


「ガウゥッ!!!!」

 

 私が近づくと大きな唸り声を上げて気を逆立てた。


「ト、トラ……!?」


 慌ててお風呂にもう一度飛び込む。そこから恐る恐る顔出して覗き込んだ。

 やっぱり虎の模様はない。けど、ここは異世界だ。虎ではなくてもソレに近い魔獣がいてもおかしくない。不用心に近づくべきではなかった。


「ガゥッ!ガウウッ!!!」


 魔獣はとても気が立っている。息も荒く、どこか苦しそうにも見えた。


「あ……!」


 ふらり、ふらり。魔獣の体が左右に揺れて、次の瞬間には地面に倒れていた。慌てて駆け寄ると魔獣に意識はなく荒い息を繰り返している。


「この子、怪我してる……!」


 胴体に、まるで大きな獣に爪で引っ掻かれたような三つの深い傷。酷い怪我だ。生きてるのが不思議なぐらい。


「どうしよう……、手当を……」


 目の前に本が現れた。ページが捲られる。


『魔女の調合〜ひゃっくり薬から秘薬までなんでもござれ〜』


 書いてあったのは魔女の傷薬の作り方だ。調合なんて理科の実験ぐらいしかしたことないし、ちゃんと出来るか分からないけど。


 魔獣を抱き上げる。がぅ……、弱った呻き声がした。


「……っ、絶対治してあげるからね!ってまだ素っ裸だった!!!」







 材料は三つ。鈴りん草と弟切草、アロエ汁だけ。ご丁寧に全て庭で採れるとのこと。それらを薬研で細かく砕き、乳鉢で擦す。それを大釜で少量の水と煮て、ドロドロがぷるんぷるんになれば、成功らしい。


 鈴りん草は鈴蘭のような花で、弟切草はただの草に見た目が近く、暗い庭で見つけるのに苦労した。調合器具を慣れない手つきで使う。暖炉に火を焚べ、底が焦げないように魔法使いのような長い杖で掻き混ぜる。


(あっつい…… )


 せっかくお風呂に入ったのに汗だくだ。


「あと少しだから、がんばって……」


 木箱に洗ったばかりの清潔なブランケットを敷いて、そこ寝かせた魔獣の息は荒いまま、ブランケットに染みて行く血がとても痛々しかった。でも傷が固まっていないということは、まだ怪我をして間もない筈だ。


「出来た……!」


 本に書いてあった通りぷるぷるとしたスライムのような弾力のある薬。


「カァッ!?」

「あっ!裏切り者!帰ってきたわね!」

「ナッ何シテル!?」

「薬よ!」

「薬!?コイツヲ助ケルノカァ!?」

「そーよ!可哀想じゃない」


 気がついたらもう明け方。出来上がった薬を器に盛り冷ましてから指で掬う。傷に塗ってやると溶けるように染み込んでいきーー、あっという間に傷が塞がった。


「すごい……!これが魔女の傷薬……!」

「違ウ!威力爆発ダ!!!」

「えっ?」

「魔女様デモソンナ風ニハ作レナイ……!」


 そうだ。ショボいと思ってすっかり忘れてたけどクロウが言っていた私の特異。

 私が作ったモノに大きな威力が付く。


「これが私の、特異……」


 ゆっくりと呼吸を楽した魔獣を見て、ほっと一息。肩の力を抜いた。

まあ……うん、悪くないんじゃないの、威力爆発。私の特異。

 

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