39.魔女の棲む家
「なぁ〜いつこっちに越して来るんだ?」
いじけた様なジオンの口ぶりに、私は少しだけ笑うと答えを返す。
「越さないわよ」
「なんだって!?」
あれから、もう一度ロマンチックなジオンのプロポーズを受け、春の温かい日に結婚式をしようと約束をした私たち。
私の指には、またも金額を間違えたジオンから贈られた婚約指輪が嵌められている。
「だって私、魔女だもの。ほら、薪割りの手が止まっているわ」
「魔女だけど、俺の妻になるんだろ」
「そうだけど」
「だったらここはアトリエにすればいいじゃないか」
「でも一晩煮込みたいものもあるし……そーねぇなら週に四日はそっちに行くわ」
「六日!俺は絶対譲らない!」
パキッとジオンが力ませに割った木材が音を立てる。相変わらずお貴族の辺境伯爵のくせに手伝ってくれるジオンが愛しい。
「魔女さ〜ん」
「エナジードリンクいっぽ……!?」
「げっ!?ジオン様ッ!」
「テメーら双子!またサボりに来やがったな!」
「それはあなたもですよ。ジオン様」
「げっ!ディラン!」
城の裏門からやって来るのはお隣の双子兵士とジオン命のディラン補佐官。私が領主の婚約者だということをいつも都合よく忘れる三人だ。
双子は相変わらずジオンの目を盗んでる私の家の窓際をぶん取り、エナジードリンクで乾杯するし、ディランも相変わらず帳簿に目を光らせている。
「コトラちゃ〜ん!遊びにきたよ〜!」
「がぅっ!」
「お嬢様っいや!女神、いや!奥様!そろそろ淑女教室のお時間ですだ!今日の講師はロザリー先生ですだ!」
「もうミーナ!淑女教室は週二回にしてって言ったでしょ!あと奥様は気が早いわ」
「奥様か、いいな……」
コトラと遊びにきたモカちゃんに、わたしをもっと素晴らしいレディへと登らせようと息を巻くミーナ。奥様呼びに満足そうなジオン。
最近は気がつくと来客があり、ずっとこんな感じで本当に仕事がちっとも進まない。
ジオンとの婚約効果も相まって仕事の注文も山程きてるっていうのに。
はぁ、とため息を溢すと庭の一角に見慣れた白のサークルが現れたのがみえて、もう一度ため息。
「アテンションプリーズ!ガルシア辺境ボロ小屋へ到着致しま〜す!」
「わぁ、ここがかの有名な?」
「いやはや、もはや芸術的なもんですなぁ」
「ちょっと勝手に観光地にしないでよ!!!」
美月さんは最近ノリに乗っているようで、特異もパワーアップしているのか、来るたび観光客の数が増えている気がする。
「騒ガシィカァ……」
「本当よ」
「デモ魔女ハ寂シガリ」
「まぁ、そう、だけど……」
ふと思い出した、初めて魔女の家に辿り着いた時のこと。
クロウと涙して、寂しくないように一緒にいようと言った夜のこと。まさかこんなに賑やかになるとは思ってもなかった夜のこと。
「もう……ちっとも寂しくないね」
もしかしたら、これが私の幸せなのかもしれない。
「でも……」
ディランに叱られるジオンと脳筋双子。それをみて笑うミーナとモカちゃん、そしてコトラ。至る所を繁々と見学して周る美月さん御一行。
「ちょーっと賑やか過ぎるわね……」
そう呟いた途端、パッと本が開いた。
『魔女の賑やかなお客様のおもてなし方法〜まずはクサ草のティータイムで全員黙らせましょう〜』
どつやらお師匠様も悪戯好きだったらしい。
その文字を読んで思わず浮かんだニヤリとした表情を隠し、お集まり頂いた皆んなに声をかけた。
「さあ、お茶にしましょう!」
でも、みんな。安心しないでね。
だって此処は、とんがり帽子に、継ぎはぎのエプロン、真っ黒のローブのレディが棲む家。
――魔女の棲む家なんだから。
これにて完結!
最後は、かなり駆け足になってしまいましたが……お付き合い頂き、ありがとうございました!
また新しい連載を始めましたのでそちらもよろしくお願いします!
ベラドンナの魔女工房〜落ちこぼれ魔女ですが王子様を救ってみせます!〜
またも魔女っ子がお店を切り盛りし、仲間達と秘薬を創り出す為にてんやわんやするお話です!
よろしくお願いします!




