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38.真実の指輪

「初回だから今回はサービスね。それではムーン航空をご利用頂きましてありがとうございました!またのご搭乗をお待ちしております〜!」


 美月さんはウィンクして言うと、とぷんと音を立てあっという間に床下へと消えた。

 

 目に映る、いつも見慣れた部屋の中。魔女の大釜を見たらほっとして、大きな息を吐いた。なんだかどっと疲れた気がする。

 

「確かこの辺に……」

「なにしてるの?」


 ふと気がつけば何かを探すように、石造りの壁を手探りで探すジオン。一体なにしてるんだろう、と首を傾げその様子を見ていると。

 

「……あった」


 ジオンが壁のレンガをひとつ抜く。思いの外、すっぽりと簡単に抜けたレンガ。その中からジオンが取り出したのは、銀色に輝く何か。

 

「指輪……?」

「言っておくが、これは婚約指輪じゃない」

「え、あ……うん」


 ジオンの言葉に、どきりとした胸が落ちる。

 そんな私の気持ちを知ってか、知らずか。ジオンはゆっくりと部屋を見回し、言った。

 

「ここは……祖母のアトリエだった」

「ええ!?おば、えっお師匠様が!?」

「百年前、マコと同じように召喚された二人のうちの一人で、物静かで優しく学ぶことが好きだった。その性格のせいか正妃になったもう一人の女神に、妾だった祖母は王宮を追いやられ、ここに」


 私の時と全く同じだ。

 違うのは、私は結婚をする前に辺境へと送られたところだろう。もしかしてお師匠さま達のことがあったから、私はすぐに辺境へと送られたのかもしれない。

 

「正妃の子供が叔父である現国王。妾だった祖母が産んだのが、もう亡くなったが……俺の父だ。武に長けていた親父が辺境伯になり、祖母はここにアトリエを作った」


 そう聞くと、なんとなく彼女の人柄が分かるような気がした。

 

 きっと彼女は分かっていたんだと思う。

 

 また自分と同じように異世界から少女が召喚されることを。

 そして、自分と同じように居場所をなくした少女の逃げ場を作り、その少女だけが分かるように、水晶に一番最初に現れる言葉を元の世界のもので刻んだんだろう。


「……私の恩人だよ。ありがとう」


 思わず感謝の言葉が溢れる。そんな私にジオンは首を横に振った。


「俺が産まれた時にはもう老いていた祖母との思い出はあまりない。が、これだけは覚えていた」


 少し燻んでいるが銀色に光る指輪。トップには小さな丸い水晶が飾られている。

 

「これは真実を見抜く魔道具だ」


 真実を見抜く魔道具。

 どうしてそんなものをお師匠様が作ったのか分からない。

 便利だけど、とても怖い魔道具だと思う。

 ジオンはその指輪を私の人差し指に優しく嵌めた。そして私をもう一度見つめる。


「俺はマコが嫌いだ」


 指輪は何の反応もしない。

 輝きもせず、濁りもしない。

 それは、嘘だからだ。

 

 ジオンは息をひとつ飲み込む。


「……俺は、」


 私のぎゅっと両手を握り、ジオンの熱が伝わる。あまりの真剣な瞳に、私は目眩をおこしそうになる。どくどくと響く心臓の音がうるさい。


 ジオンは意を決したように、ゆっくりと唇を開いた。


「マコを愛してる」


 その瞬間、水晶が眩しく金色に輝いた。

 それはまさに――真実の証明だというように。

 

「……答えてくれるか?」


 いつもの自信たっぷりのジオンじゃない、不安そうな表情。その表情に私の心臓はきゅうっと音を立てて締め付けられる。

 

 答えは、もう自分の中にあった。


 初めて会った時に見惚れてしまった金色の瞳も、お貴族様の辺境伯爵様のくせに薪割りが上手なところも、コトラを共に危険な場所まで迎えに行ってくれるところも、私のことを守ろうと必死に抱きしめるところも。

 

 

「私も、あなたを愛してる」

 


 ジオンに微笑むと、頬に流れたのは涙だった。

 その涙ですら愛おしそうにジオンは見つめて、優しく指で拭う。

 

 そして、その指を顎にかけて顔を上げさせると、私の唇に触れた、柔らかく優しいもの。

 それは、ジオンの唇だ。


「マコ、愛してる」

 

 彼の声と唇の感覚に酔いしれるように瞼をゆっくりおろした私は気づかない。


 

 ――私の後ろでゆっくりと開いたお師匠様の本。そこに書かれていた文字に。


『魔女の結婚方法〜まずは真実の指輪で愛を確かめよう〜※王子様には気をつけろ!』



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