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32.舞踏会への招待状


「舞踏会への招待状〜?」

「そうだ。マコも必ず連れてくるように記載されている」


 午後の昼下がり。作業を終えて休憩中だったところに尋ねて来たのはジオンだった。手に持っていたのは、黄土色の羊皮紙を主流とするこの世界で見たこともないくらい美しい真っ白な封筒。

 内容は、王都にある王宮で開かれる舞踏会の催しだ。それに参加するように書かれているらしい。


「そんなところ行ったら恥かくのがオチでしょ」

「なぜだ」

「なぜって……令嬢のマナーも知らないし、そもそも舞踏会に参加出来るようなドレスなんか持ってないもの」

「ふむ、ドレスか……わかった。用意しよう」


 用意するって、そんな簡単に……。

 ドレス一着いくらすると思ってるんだ。

 断ろうと口を開いた時、


「……っ!?」

「なんだ!?」


 床からぬぅ〜んと生えてきた見慣れた顔に心臓がとまるかと思った。ほんと、音もなく突然やって来る来客にいつまでも慣れない。


「あらっ?お邪魔しちゃった?」

 

 うふ、と私とジオンを見て笑う美月さん。

 相変わらず綺麗なお姉さんだが、今日は見慣れた真っ白な衣装ではなく、ネイビーの制服らしきものを着ている。膝が見える丈のスカート、真っ白な手袋。首元にはお洒落な柄のスカーフまで。

 なんというか、あれだ……キャビンアテンダントみたいな格好だ。


「ジオン。この方は美月さん。私と一緒に召喚された異世界人よ」

「初めまして!あなたがガルシア辺境伯様ね!お噂は予々、でも噂以上にめちゃくちゃハンサム!!!」

「あぁ……そりゃどうも」


 鼻息荒い美月さんに対して、ちょっと引き気味のジオン。初めて見るジオンの表情が面白くてクスっと笑うとジオンに睨まれる。

 やっぱりレディの扱いは得意じゃないらしい。


「ところで美月さん。今日はどうしたの?」

「それが!今度の舞踏会の話聞いた!?」

「王宮で開かれるってやつ?ちょうど今聞いたところ」


 ジオンの持っている封筒を指差し言った。美月さんは呆れたように息を吐く。


「実は私も招待されてるんだけどね……マコちゃん、行かない方がいいわよ」

「……どうして?」

「私、王子様と婚約破棄したの」

「うん。それはこないだ色々聞いて近いうちにするだろうな、とは思ってたけど」


 妾なんて絶対嫌だって言ってたし、王子に対して好きという感情もなさそうだったから。

 

「それでね、私の特異を利用できる旅行会社を立ち上げたの」

「特異……どういった特異だ?」

「私の特異はテレポート。私が行ったことある場所、会ったことのある人の場所に瞬間移動出来るの。今はまだ十人ぐらいしか一気に運べないけど」

「すごい……!それって移動手段が馬車しかないこの世界に需要ありまくりですよ!」


 私が王都からここガルシア辺境伯までかかった道のりは馬車で三日間。酷く疲れる旅路だった。それを美月さんなら一瞬で来れる。


「でしょう?かなり稼げるはずよ!ガルシア辺境伯様もぜひフルムーン航空をよろしく、ね!」

「よかったですね〜王子と結婚しなくて」

「そう!私は良かったのだけど……私が婚約を破棄しちゃったもんだから、次はマコちゃんに白羽の矢が立っちゃって」

「わ、わたし……?」

「王宮としては、女神を娶るのが絶対らしくて」


 その為の舞踏会らしいの。

 美月さんは呆れたように言った。


「行けば王子様に求婚されるわよ」


 ぐしゃり、潰れた音が聞こえたのはジオンの手の中だ。美しい白の封筒が握りつぶされている。


「……行かないって出来るの?」

「一応王命だし、反いたら反逆罪になるのかしら……」


 助けを求めるような目でジオンを見る。そんな私の視線に気づいてジオンは握り潰した封筒をゴミ箱へ叩きつけると、安心させるように笑った。


「大丈夫だ。俺と一緒にいればアイツは何も言えないさ」


 アイツ、って王子様のことだろうか。


「もし馬鹿なことを言ってくるようなら、いい機会だ。はっきりさせてやる」

 

 なぜか禍々しいオーラを発するジオン。

 でも……一応辺境伯より、上の立場よね?王子様って。


「きゃあ!素敵〜っ!」


 ジオンを見て目をハートに輝かせたのは美月さんだ。


「マコちゃんには騎士がいて安心ね!舞踏会には一緒に行きましょう」


 その日になったら迎えに来るわ!

 そう言って、とぷんっ!と床の中へ消えて行った美月さん。相変わらず嵐のような人だ。


「でも……やっぱり行きたくないなぁ……」


 美月さんの消えた静かな部屋に私の声は思ったより大きく響いた。俯いた私をジオンが覗き込む。


「どうして?」

「私に似合うのは、こういう服だよ。平凡で地味な顔。そんな私にドレスが似合うとは思えない」

「なんだ、そんなことか」

「そんなこと?」

「あぁ、違う悪い」


 思わずむっとした私をジオンが慌てて宥める。

 大きな手が私の髪を撫で、ひと束指先に取る。

 

「でも、やっぱり俺は似合うと思う。ドレスを着たマコに、世界で一番綺麗だって言える自信があるからな」


 そう言うと、その髪にそっと口付けた。


「……っ!?!?」


 真っ赤になった私を満足げに笑い「マコのドレス姿、楽しみにしてる」それだけの残すと部屋を出て行った。



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