31.ガルシアの領民たち
「何事も順調な時って、こーいうことがあるのよね……」
「そんな呑気なこと言ってる場合!?」
「どぉすんだよっ!めっちゃ囲まれてる!」
帰り道。行きと同じように一晩ウォルフの洞穴で過ごし、ようやく壁が見えて来た頃。
ジャイアント・ボアの群れに遭遇してしまった私たち。あっという間に囲まれてしまった。
「だって!二人が遠慮なく銃撃ってたせいで弾切れだし爆竹だってもうないんだもん!」
ジャイアント・ボアは元の世界で言う熊によく似ている。違うところと言えば動物園で見た熊より更に大きく巨体で、ごわごわとした赤毛に大きな牙が生えているところだろう。
そんな大きな熊が四体、涎を垂らしながらじりじりと近づいてくる。
「仕方ない……」
ジオンが腰に差した長剣を竿から抜く。それを見た双子も剣を抜いた。
その時、腕の中で寝ていたコトラがパチリと目を覚ます。
「コトラ……?」
私の腕から飛び降りると、ジャイアント・ボアに向かって、
「ガウウゥッ!!!」
威嚇するように吼えた。
「「「「グァッ!?!?」」」」
するとジャイアント・ボアは大きな巨体を跳ねさせ一目散に逃げ出した。
「おぉ……」
「すげぇ……」
双子が尊敬の眼差しでコトラを見る。
神獣の子だからだろうか。サラマンダーもひと吠えで火の粉を散らしたように逃げていった事を思い出した。
「なぁ、マコ。コトラに兵士の採用試験受けさせてみないか?」
「受けません」
それからもずっとジオンが食い下がってくる為、コトラが行きたいと言った時に限りという条件つきで兵士たちのお手伝いをすることになった。
今のジャイアント・ボアでも分かるように、殺生せずに追い払う。実はそれが一番難しいと双子は言う。
しかし、森との共存を大事にしているガルシアでは、とても重要なことだ。
「たまに手伝ってあげてね」
「ガウッ!」
右前足を挙げて答えたコトラ。その頭にクロウが留まる。
「仕方ナイ俺モ手伝ッテヤルカァー」
「あ、スピークビークはいらない」
「最弱の魔物だもんな」
「カァ!舐メヤガッテ!カァ!カァッ!」
「「痛っ!」」
クロウに突かれる双子を見て、みんな笑った。
もちろんコトラも楽しそうな表情に見えて、私はようやくホッとしたように息を吐いたのだった。
◇
「いったい、いったい……何をお考えなのですか、ジオン様」
一難去って、また一難。
ようやく戻って来たジオンの城の門。そこで私たちを待ち構えていたのはディランだ。
「私がどれほどっ、どれほど心配したかっ!」
怒りの余り震えており、瞳からは涙が溢れている。ジオンはバツの悪そうな顔でディランに揺さぶられ、双子はディランと目を合わせないように遥か彼方を見つめていた。
そして、私というと巻き込まれないようにコトラを抱えて、そろり、そろりと忍足でその場を離れようとする、が。
「待て、貴様」
ぎろり。呪い殺されそうな視線だ。
「あれほど男らしかったジオン様が花を愛でるようになったのも、職務を放棄し私に黙って森へと行ったのも……全部、全部っ貴様のせいだ……!」
「私は一人で行くって言ったのに」
「そう言ってお優しいジオン様の良心に漬け込んだのでしょう。なんて浅ましいっ!」
「おいディラン。マコが言ったのは本当のことだし、別に俺は職務を放棄して行ったわけじゃない。森の管理こそが俺の仕事だ」
ジオンに嗜められるディランをよくよく見れば、いつも綺麗に一つで結ばれているシルバーブランドは振り乱れ、目の下には濃い隈が見える。余程、ジオンが心配だったんだろう。
たった三日程のことだか、それ程までに心配してもらえるというのは、なんだかんだ嬉しいことだと思う。
ディランが大騒ぎしたお陰で周りに兵士たちも集まってきた。
「魔女さんもお帰りなさい!」
「あ!魔女さんおかえりっ!」
「うん!ただいま」
私は声を掛けてくれる兵士たちに応えつつ、家へと繋がる裏門へと向かった。
なんとなく足早になるのは、やっぱり我が家が一番安心するからなんだろうか。
「あっ!魔女さん帰ってきたっ!」
家の前まで来ると、家の前に人集り。
私の姿を見てモカちゃんが大きく手を振った。
「よかった帰って来れたんだねぇ」
「怪我もねぇみてぇで安心だぁ」
家の前にいたのは、よくお店に来るお客さん達だ。
「兵士さんたちから魔女さんも一緒に森に行ったって聞いてよぉ、心配しとったんだわ」
「顔が見れて安心したよ」
そう言って笑うと私の肩を叩き、ぞろぞろと帰っていく。
「どうして……みんな……」
「そんなの心配するに決まってるでしょ〜!」
腰に手を当て、ぷんぷんと怒るモカちゃん。
「でもコトラちゃんも一緒に帰って来てくれて、本当によかったっ!」
ぎゅうっと抱き合う可愛らしい二人。
そんな二人を丸ごと抱きしめて、私は言った。
「ごめんね、ありがとう!」
その後、家の中に入ってもモカちゃんから延々と説教されることになるが、疲れ切って途中で眠ってしまう私たち。
起きた時、目の前には美味しそうなベーコンサンドが置かれており、モヘジさんからの差し入れだと気付いた。
「おいしい……っ」
私は自分がイレギュラーな存在だと思っていた。この世界のどこにも必要がなくて、いてもいなくても同じで。
でも、違う。
一緒に来てくれる仲間がいて、心配してくれる帰る場所がある。
私もここ、ガルシアの領民なんだと、やっと気づくことが出来た。
神獣の森編、色々端折ってしまったせいで、淡々としてしまいました……いつか書き直したい……




