29.いざ、神獣の森へ
29.いざ、神獣の森へ
「よし……思った通り警備が少ない」
「カァ……」
肩に乗ったクロウの深いため息が聞こえる。
城の石壁から隠れてこっそり神獣の森へと繋がる門を見ると、思った通り夜が明けた明朝の今の時間
が一番警備が手薄なようだ。
「本当ニ連レテ行カナイノカァ?」
「だって……」
ジオンは一緒にコトラを迎えに行こうと言ってくれた。
それでも、何かあったらと思うと怖くて堪らない。もしジオンが万が一死んじゃったら……このガルシアはどうなるんだろう。兵士達は、町の住人は。
ジオンは私を守ろうとする。だからこそ、やっぱり連れて行けない。
その為にはジオンに見つからず、あの門を出て森へと入る必要がある。入ってしまえば、もうこっちのもんだ。
明朝のこの時間が最大のチャンス。
今しかない!
足を一歩踏み出した、ら。
「魔女さん発っ見〜!」
「やっぱジオン様の言う通りでしたね」
「だろ?行くなら早朝だと思ったんだ」
背後からそんな声が聞こえて来た。慌てて振り向くと、双子の兵士セオとレオ。そして見慣れないマントを羽織ったジオンの姿が。
「なっ……!」
「あんな簡単にマコが納得する筈ないからな」
「魔女さん水臭いッスよ」
「そーそー俺らにも黙って行くとか」
両脇をがっしり双子に固められ、逃げ場はない。双子は甲冑の上に大きなリュックを背負っていて、どうやらついてくる気満々らしい。
サラマンダーの時、あれほど嫌がっていたくせに。今度の行き先は森の奥深く、神獣の社だ。
……セオもレオも、優しすぎる。
「さぁ、行こうか。コトラを迎えに」
そう言って笑ったジオンに、ほっとしてしまった自分がいた。
私はこの先もずっとこの人には敵わないんだろう。私は諦めたようにジオンに頷き、四人と一匹は神獣の森へと続く門を潜った。
◇
「たぶん……あっち」
道標は私の気配のみ。
そんな頼りない道標を疑うことなく双子が斥候役として、先頭を行く。後を歩く私たちが通りやすいよう、足元の草を剣で刈りながら歩いてくれるお陰で随分と楽だ。
「魔女さんじゃないけど、本当にいいんすか?森へ行ってる間仕事とか」
「大丈夫だ。ディランがいるからな」
「へェ。あの人がよく納得しましたね」
「ああ。書き置き残してきたから大丈夫だろ」
「……今頃ディランさん発狂してんな」
「また一つ恨みを買った気がする……」
また今度会ったらネチネチ言われるんだろうなぁ……。ディランから見て今の私は疫病神以外の何者でもないだろう。
――ガサッ!
突然、近くの草むらが動いた。
「カァ!魔物ダ!キケン!キケン!」
顔を出したのは、凶悪な顔つきのうさぎ……?
私が知ってるうさぎとは違って大きく、背中に大きな角が生えている。
「ラピットだ。レオセオ」
「あ、待って!」
冷静に構えに入った双子を抑えて、鞄を漁る。取り出したのは、作ったばかりのパチパチ銃だ。
「小さく弾ける弾丸なの。当たっても怪我させずに追い払えるから……」
ラピットは警戒してこちらを睨んでいる。私はラピットの眉間に狙いを定め、引き金を弾いた。
パァンッッ!!!
ラピットの近くに生えていた木に当たって実が弾ける。
「ピギャッ!?!?」
その音を聞いてラピットは飛び跳ねると一目散に逃げ出した。
「おお、すげぇ!」
「なんだそれかっこいいな!」
私の銃をキラキラした瞳で見る双子。
そしてジオンはと言うと。
「……因みに今、どこを狙ったんだ」
「……ラピットの額です」
今の一瞬で私がノーコンだと気付いてしまったらしい。ジオンに言われるがまま、銃は予備と共に双子の手に……。
双子は新しい玩具を手に入れた少年のように、銃を色んな角度から見て嬉しそうだ。
私は銃の弾丸の補充係まで格下げされた。なんか腑に落ちない。
「はぁ……疲れた……」
それからも小型の魔獣が出るわ、出るわ。
たまに出る大型の魔獣には魔女の爆竹を使った。私が作ったものを駆使して、今のところ誰一人怪我することがなくほっとする。
「もうすぐ夜になりますね。ここらで探しましょうか」
「あぁ、そうだな」
見上げた樹々の隙間から見える空は、茜色。
夜の森は今以上に危険な為、ここらで一晩越す事にした。
「いい感じの洞穴がありました。多分ウォルフの住処だったものでしょう」
セオが見つけてきたのは、ぽっかり穴の空いた洞穴だ。大人5、6人は入れそう。
「今は住んでる形跡がないな。今晩はここに泊まろう」
双子が追加の薪を拾ってくる間、ジオンと共に火おこしの準備をする。
「チッ……しけってんな」
鬱蒼と生い茂る神獣の森の樹々は陽が当たらないせいか、苔が生えていてなかなか火がつかない。
「あ!私いいの持ってるよ」
ガザゴソと鞄を漁り、私が取り出したのは瓶に入ったプクプクオイル。それを薪に垂らし、ジオンが火をつけるとすぐに燃え広がった。
「おぉ、いいなそれ」
「いつも着火剤として使ってるの。そしたら、コトラが……」
いつも火をつけてくれる。
急に黙り込んだ私をジオンが覗き込む。そしてまた安心されるように、微笑んだ。
「大丈夫だ。すぐに会えるさ」
そう言って私の頭を撫でた掌は、とても優しい。
「腹減った〜でも携帯食かぁ……」
「あれまずいんだよなぁ」
双子の賑やかな声が聞こえて来て、その手をぱっと離したジオン。少しだけ名残惜しい気がした。
「じゃあ、今日は私がご馳走しま〜す!」
「シチューダ!カァ!」
「おお!」
「やった!!」
硬そうな携帯食を齧る双子の前に大鍋に入ったシチューを出す。その双子のきらきらした瞳が、少しコトラに似てて笑ってしまった。
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