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28.魔女のパチパチ銃



 グツグツ、グツグツ。鍋の中で泡立つ薬草をぼうっと見つめ、ため息をついた。


 何をしていても頭の中にあるのは、最後に見たコトラの顔。

 もちろん昨晩のあれから寝付けるはずもなく、きっと今私は酷い顔をしてるに違いない。いつもうるさいクロウも元気がないように見える。

 

 それに……私の従魔だからだろうか。まるで自分の体の一部が森にいるような、変な感覚。


「ねえ、クロウ。もしかして主人である私は従魔が今どこにいるか、って分かったりする?」

「ソレハ知ラナイ。デモ魔獣ハ主人ノ居場所ドコニ居テモ気配デ分カル」

「……気配」


 やっぱりそうだ。

 髪を引っ張られるような、あっちにいけと言われているような、そんな気がする。それを気配というのか分からないけど、なんとなく分かる。

 この気配の先にコトラがいるってこと。


「……準備しよう」


 小さく呟いて、拳を握る。そう決めたら、やることはたくさんだ。


「お師匠さま、魔女の冒険道具を開いて」

『魔女の冒険道具〜しっかり準備を整えて、安全に冒険しよう〜』

 

 空間に現れた本をじっと見つめる。

 魔女の不思議バックに、傷薬。エナジードリンク、サラマンダーの爆竹。

 次から次へと商品棚から取り出し、机に並べる。

 コトラがいるのはきっと森の奥。行って帰ってくるのにどれだけ時間が掛かるか分からない。食料と飲料は多めに持っていこう。

 魔女の秘密バックは中に入れると時間経過しない。大鍋にたっぷり作ったコトラの大好きなシチューと、サンドウィッチ、ロールパン。ソーセージ。冷蔵庫に入っていたものをあるだけ突っ込んだ。


「あとは、パチパチ銃……?」


 本が教えてくれたのは、弾ける実を弾丸にした銃だ。本体は竹とゴムの垂れ草で作っているらしい。

 ゴムの垂れ草は家の周りの林に群生している。草のように見えて、弾力がありよく伸びる草だ。

 魔獣に向かって打つと当たった瞬間実が弾ける。大型の魔獣には効果がないが、小型の魔獣ならこれで充分だと書いてあった。


「クロウ、外からゴムの垂れ草持って来て」

「ヘイヘイ……」


 竹筒を割って銃の形を作っていく。弾倉には魔女のグローブを使って弾ける実を詰めた。

 出来上がったのは、小学生が工作クラブで作るような玩具の銃。


「こんなので本当に大丈夫なのかな……?」


 小型モンスターはこれで充分と本には書いてあったけど……。

 試しに壁に向かって引き金を引いてみる。


 パァンッッ!!!


「カァ!?ナンッ!ナンダッッ!?」


 さして派手でも大きくもない音だったが、クロウは羽根を広げて大騒ぎ。壁に傷もなく、魔獣を無駄に怪我させる心配もない。

 これは使えそうだ。


 私は銃を壊れた時の為にもう一丁作ると鞄に入れた。弾薬である弾ける実も瓶に詰め、魔女のグローブと一緒に鞄の中へ。

 こうして慌ただしく準備をしていると、店の扉が開いた。


「よぉ」


 顔を見せたのはジオン。


「もう体調は平気なの?」

「あぁ、マコの薬のおかげだ」

 

 昨日、最後に見た酷い顔色はだいぶ良くなっているようで安心する。


「なんだか忙しそうだな」


 散らかった作業台、テーブルに広げられた数々の品を見て、ジオンが言った。


「そう、コトラを探しに行こうと思って準備してるの」

「コトラを探しに行くだって……?」


 一瞬にしてジオンの表情が変わる。

 私はその顔を見て、言うんじゃなかったと後悔するがもう遅い。

 

「神獣の棲家は森の奥深くにある。それがどれだけ危険なことなのかわかっているのか」


森へ入ること。それは檻のない動物園に入るのと同じこと。動物よりももっと獰猛な魔獣達の棲家。それが神獣の森だ。

 それでも、やっぱり。

 

「……分かってる。怖いし、本当は行きたくない。でも、このままコトラを放っておくなんてできない」

「何言ってる。アイツは母親の元に帰ったんだ。ここにいる方が間違っている」

「コトラと出会った時……ひどい怪我をして死にかけてたの。お腹にあった三本の傷。ジオンが受けた傷と同じだった。あの子を殺そうとしたのはきっとあの子の兄弟よ」


 何よりも気にかかるのは、それだった。

 あの子はきっと兄虎から逃げて、ここへ辿りついた。そんは場所に戻るなんて、怖いに決まってる。


「もしかしたら今度は殺されるかもしれない」

「だからって……」

「大丈夫。なんとなく居場所が分かるの。コトラは私の従魔だからね。あの額の紋章が消える前になんとかしてコトラに会いたい」


従魔契約というものを詳しく知っている訳じゃない。昨晩は消えなかったけど、私が離れた今どうなるか分からない。

 だからこそ、一刻も早くコトラを迎えにいく必要がある。

 私の強い意志を感じ取ったのか、ジオンを諦めたように深いため息をつくと言った。

 

「……分かった。俺も共に行こう」

「ダメに決まってるでしょう。ジオンはここを守る大事な領主様なんだから。ジオンに万が一何かあったら」


 昨晩だってそうだった。

 ジオンが倒れてしまえば兵達は一気に統率を失う。このガルシアにとって何よりも大事なのはジオンの存在だ。それを私の我儘で失わせることは出来ない。

 

「領主は民を守る存在だ。マコだってガルシアの領民だろ」

「……私は、ただの異世界人。イレギュラーな存在なの。いなくなったところで」


 私はみんなとは違う。異質の存在だ。

 そう言えば、ジオンの瞳がきつく私を睨んだ。そして私へ一歩詰め寄る。

 

「……許さない。そんな風に言うことを俺が許さない。いなくなったところで、なんだ。マコがいなくなった後の俺の悲しみがマコに分かるのか」

「ジオン……」

「必ず守る。二人でコトラを迎えに行こう」


 私を安心させるような優しい笑顔を見せて、大きな熱い掌で私の手を包んだ。

 思わず涙が溢れそうになり、必死に堪えていると宙をバサバサとクロウが飛び回る。

 

「誰カ忘レテネェーカァ?二人ト一匹ダカァ!」

「クロウ!あなたついて……来れるの?」

「舐メルナァ!コトラハ俺ノ弟分ダカラナ!」


 あれだけ森へ行くのを嫌がっていたのに。

 鼻息荒く叫ぶクロウを見て、ジオンと顔を見合わせて笑った。


 最弱の魔物スピークビークのクロウ、神獣のコトラ、そして異世界人の私。色々で凸凹な私たちだけど、やっぱり家族だってコトラに伝えたい。

 あなたの帰る場所はここにある、と。

 

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