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23.お祖母様の大浴場


「夢みたいですだ。お嬢様のお召替えをお手伝いできるなんて……」


 セバスさんに案内された浴場の入り口で私を待っていたのはミーナというメイド服を着た女の子だった。

 癖のある髪を三つ編みにし、そばかすだらけの頬、言葉の節々に田舎出身が見て取れる。そんな彼女は私の姿を見るなり、きらきらと目を輝かせた。

 メイドよりもボロ着を着た私をお嬢様と言うなんて、一体どういう了見なんだろう。


「私、お嬢様なんかじゃ……」

「いいえ、お嬢様ですだ。ご主人様がお招きになった初めてのお嬢様」


 セバスさんにも言われたけど信じられない気持ちの方が大きい。

 だって、あのジオンだ。

 私の元いた世界でいう所謂イケメンというやつで、広大な土地を持つガルシア領主様で、黙っていても女の方が寄ってきそうなのに。

 

「それって本当なの?貴族なんだから、ほら婚約者とか……」

「私がお屋敷に来るうんと前にいらっしゃったと聞いたことがありますだ」


 やっぱり婚約者、いたんだ。

 なぜかショックを受けている自分が受け入れられなくて、慌てて首を振る。


「ガウ……?」

「ハヤク!マコ、ハヤク!」

「あぁ、ごめん、ごめん」


 コトラとクロウに急かされて脱衣所へ入る。

 慌てて服を脱ごうとすると、ミーナから手が伸びてきた。その手を制し、自分で脱げると言えばミーナの目には涙が……。どうしても手伝いたいらしい。


「城には女主人がいないんでワタシがいつもやってる仕事と言えば掃除か洗濯か、ザック料理長の雑用ぐらいなもんで」


 そう言いながら楽しそうに服を脱がせていくミーナ。

 庶民生まれ庶民育ちの私には他人に服を脱がせてもらうなんて少し恥ずかしい。でも、ボロ着一枚脱がせるだけでこんなに感激してもらえるとは……。

 

「こちらがガルシア城自慢の大浴場ですだ」


 大きな曇りガラスの扉を開くと見えたのは、湯気の立ちこめる広々とした大浴場。

 大理石造りの浴場内は、温泉というよりテルマエの言葉がよく似合う。


「わぁ……すごい……」


 陶器の美しい女神の壺から溢れていくお湯。高級リゾートホテルみたい。

 思わずうっとりとした溜め息が溢れた。


「ガウッ!ガーウッ!」

「キャッホー!」


 初めての大きなお風呂に大はしゃぎのコトラとクロウ。湯気の中を飛び回るクロウはまだいいとして。


「ガウッ!?」


 案の定、大理石の床ですっ転がるコトラ。


「お風呂ではしゃぐのは怪我するからだーめ」

「がぅぅ……」

「では、お嬢様は先にお風呂へ。コトラ様は私が心を込めて洗って差し上げますだ」

「……つ!?」


 つ、ついて来てたのか、ミーナ……。

 慌てて前を手で隠しつつ、掛け湯をしてからお湯に浸かる。


「あ〜きもちぃ〜」

「お湯加減、大丈夫ですだ?」

「うん、ありがとう」


 どちらかと言えばいつも自分で炊くお風呂より低いくらいの温度で、この大浴場を長めに楽しめそう。


「魔獣、怖くないの?」

「ワタシは農村の産まれなんで平気ですだ。畑を荒らす魔物なんかは子供の時からクワ持って追いかけ回してきました。んだもんで、ここでお仕事させて貰えてるんです」

「そっかぁ」

「コトラ様みたいなこげな可愛い魔物初めてだぁ」


 気持ち良さげに尻尾を揺らすコトラを目をハートにしながらも懸命に洗うミーナ。

 どうやら、この城勤めの採用条件は、魔物を怖がらない事が何よりも重要らしい。


「コトラ様が終わりましたら、次はお嬢様の番ですだ」


 満面の笑みを浮かべて私へと振り向いた彼女に、やはりノーとは言えなかった。


 


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