22.執務室
「わぁ……映画の中みたい……」
高い天井から吊された豪華なシャンデリアに、上質な絨毯。濃い赤色がジオンらしい。ここにも花の飾りはないが、階段上がってすぐの踊り場には大きな肖像画がある。どこかジオンに似てハンサムだけど、もう少し年は上見える。……ジオンの父だろうか。
「まずは執務室にお連れするように申し付かっておりますので、そちらにご案内致します」
「あ、もしかして仕事中ですか?でしたら、日を改めますよ」
「そんなことさせてしまったら私が坊ちゃ……主人に叱られてしまいます。マコ様が来ると言ってとても浮かれていましたから」
「ジオンが?」
「ええ。私どもに嬉しそうに指示を出しておりました」
「なんか、すみません。忙しくさせてしまったみたいで」
家の庭を改装する時も家主の私より楽しそうだったからな。案外世話焼きなところがあるんだろう。
「いえ、私共も嬉しいのです。坊ちゃんが自ら女性を城に招くのは初めてのことなので」
「えっ」
「これはもう私共も張り切らずにはいられません。誠心誠意おもてなしさせて頂きたく思います」
柔らかな視線の中に何か、とんでもない強い圧を感じて思わず縮こまる。
「いやいや、私はお風呂を借りに来ただけで……」
「それは困りましたな。料理長のザックが張り切ってご用意してるというのに……」
異世界に来て、数ヶ月。未だ和の心が捨てきれない私はノーとは言えず……
「じゃ、じゃあ、頂いちゃおうかな……」
「それは良かった。ザックもマコ様に手料理を振る舞うことが出来て大変喜ぶことでしょう」
私なんかに手料理振る舞ってもな……と、思ったけど。
正直、この歓迎ムード不気味だ。私のことをどこかの貴族の令嬢と間違えているんじゃないかと不安になってくる。
それか、珍しい異世界人だからか。でも、以前聞いたジオンの口ぶりからして、ただの特異を持った異世界人こんな風に歓迎されるんだろうか。どちらかと言うと、ちょっと面倒な存在という感じだったのに。
「こちらがジオン様の執務室でございます」
石造の壁に囲まれたダークウッドの扉の前でセバスさんは立ち止まり、言った。
そのまま三回ノックする。すると、中からくぐもった声で返事が返ってくる。
「ご主人様、マコ様をお連れいたしました」
「分かった。入れ」
セバスさんが金の獅子の飾りがついたドアノブに手を掛け、扉を開く。
執務室というから書類に囲まれた小さな部屋を想像していたのに、中は思ってた以上に広々としていた。大きく上品な布貼りのソファーが向かい合う、その向こうにジオンの姿はあった。
「おお、来たか」
大きなデスクの上の書類に向けていた視線をこちらに寄越し、笑う。
「ほぉ……」
後ろにいたセバスさんの関心したような、少し驚いたようなため息が聞こえた。
「お邪魔してます……あの、仕事中?」
「見てお分かりになるでしょう。ジオン様は大変忙しいお方ですから」
げ!ディラン補佐官だ……。
今日も今日とてジオンの背後霊のようにピッタリとくっついているディランを見て思わず顔を顰めた私に、ディラン補佐官も顔を歪ませる。
「第一、城のお風呂を借りに来るなど図々しいにも程があります。あのお風呂はジオン様のお祖母様が大変拘って造られたものですよ。あなたのような、」
「ディラン」
「……申し訳ございません」
ジオンに低い声で制されたディラン補佐官が小さく頭を下げた。
その姿を見て思わず「ざまぁ」という言葉が脳裏を過ぎった私に気づいたのか、ジオンにバレないように私を睨みつける。小学生か。
「先に浴場へご案内差し上げてもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む。ディランの言った通り自慢の風呂だ。ゆっくり浸かってこい」
「あの……この子達もいい?」
そんな立派な風呂に魔獣連れて入っていいものなのか、恐る恐る聞けば。
「いいぞ。広い風呂だからな、お前達も楽しんでこい」
「ガウッ!」
「ジオンサマ、フトッパラ!」
コトラとクロウの喜ぶ様子にジオンは笑みを浮かべ、ディラン補佐官は白目を剥いて項垂れる。
「あの浴場に魔獣を入れる?信じられない……」




