20.薪割りのコツ
「よい……っしょっ……と!」
べキャッ!と不細工な音を立てて割れた木材。片方は太っとく、片方は変な形……。
我が家で何より消費が激しいのが、薪だ。
料理も調合もお風呂も、美月さんの化粧水作りにも、薪が無ければ始まらない。今まではお師匠様が残してくれた薪を使っていたけど、いよいよ底をついてきた。私は観念して斧を持ち、大きな切り株の上で薪割りを始める、が。
「はぁ……もう一回〜……」
これがまた斧が重いの、何のって。
振り上げようにもそこまで持ち上がらないし、踏ん張って持ち上げても思ったところに振り下ろせず、全然上手に割れない。
大きな切り株の上に、太い木を立てて置く。そしてその中心目掛けて斧を、
「振…り…下ろすっっっ!」
ひゅん!私の手からすり抜けた斧。猛スピードで回転し飛んでいくと向こう側の木に刺さった。すぐ側には、
「あっ……ぶねぇな。領主を殺す気か」
ビィィィン!と揺れる斧を横目で見て震えるジオン。相変わらずのゆったりとした白いシャツに、黒のスラックス。一応腰に帯剣はしているが、明らかにサボりモードだ。
「もう。またお忍び?」
「おー」
「っていうか、今どこから来たの?」
街へと繋がる道は家の正面だ。ここは正面からみて左裏手側。林の中からひょっこり現れたジオンに首を傾げる。
「どこからって、そこ」
「は……?」
ジオンが指差した場所をよく見ると林の中に草の剥げた土の道が。そこを辿っていくと城の裏口に出るそうだ。城まで徒歩5分。知ってたけど、城近っか!!!
「どうりでしょっちゅう来ると思った……」
「ハッ、安心だろ?」
「まあ兵士たちが近くにいるなら何かあった時頼りになるだろうけど」
「兵士じゃなく、この俺がいるんだ」
「ソ、ソウデスネ」
斧を持ちニッコリ笑うジオンに私は必死になって頷いた。
「薪割りにはコツがいるんだ」
「したことあるの?お貴族様なのに」
「ハッ、舐めるなよ。見てろ」
手に木を取って斧を食い込ませるように切り株にコンコンと叩く。そして、軽く一振りすれば、パキンッ!と綺麗に二つに割れた。
「すごい!上手!」
「だろ」
「じゃあこれお願い!」
得意げなジオンの側にどっさり置いた山盛りの木々達。
「全く……不敬なやつ」
「だって今はお忍び中なんでしょ」
ぐっと綺麗な顔を顰めつつ、次の木に手を伸ばしたということはどうやらやってくれるらしい。お忍び中とはいえ、貴族で領主なのに。
「こんなに何に使うんだ」
「何って釜戸に暖炉に、あとお風呂」
「風呂?そんな贅沢なものが、こんなボロ小屋にあるのか?」
「入ってないと思ってたの?あそこにあるでしょう。あれがお風呂」
私が指差した大釜を見たジオンは唖然として私を見た。
「おま、はぁ?いや、外?」
「見ての通り外だけど」
「はあ!?何考えてんだ!若い女が外で裸になるなんて!不用心にも程があるだろ!」
何故か物凄い勢いで叱られる。そうは言っても外にお風呂があるし、ぜったい湯船には浸かりたいし……。
「おまえたち異世界人が風呂釜を愛しているのは知っている。だが、これはだめだ」
「いや、私たちの世界には露天風呂というものがあって外でお風呂に入ることもあるのよ」
「これはただの野晒しだろ」
痛いところを突かれ言われ思わず口籠る。
「はぁ、もういい。わかった」
呆れ返ってやれやれと首を振るジオン。外で裸になるなんて、この世界のご令嬢たちでは考えられないんだろう。
そして、ゆっくりと私に向き直すと言った。
「俺の風呂に入りに来い」




