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18.ディラン補佐官


「ーーして、これを脱税と見做(みな)す。」


 ぴしゃり、と私に向かって言い放ったのは、自称ジオン様の片腕ディラン補佐官だ。


「まぁまぁ。何も故意に脱税した訳じゃない。こいつはまだベルガ金貨に慣れてないんだ」

「ジオン様は甘過ぎです。こーいう輩は狡賢く法を欠いてくるんですよ」


 シルバーブロンドの美しい長髪を一つに結び、眼鏡の奥には切長のアメジスト色の瞳。その瞳でギロリと私を睨む。


「ガルシア領は王都に比べて五パーセントも商人の税率が低いんですよ。一体、なんの文句があるんです」

「だから文句じゃなく……苦手なんです……計算が」


 開店してあっという間に一ヶ月。店は思った以上に繁盛していた。


 兵士たちに人気の傷薬にエナジードリンク。そして、農家の皆さんに大人気となったのが魔女の栄養剤だ。


 今年は不作の年だと言われ、作物の育ちが悪く実も小さい。最悪、枯れてしまうことあり困りに困った彼らは何処からか噂を聞きつけ私の元へとやってきた。


 それならば、と自分が菜園に使っていた栄養剤を渡せば、効果絶大。効果爆発だ。


 あまりの売れ行きの為、慌てて価格を上げ水で薄めて使うように指示した。それでも充分な効果は得られたようで、次から次へと農民達がこぞって店を訪れた。


「一応、売り上げはここに記入したのが全てなんですけど……」


 日本円に慣れている為、紙に書いたのは500という数字。それを銅貨五枚に直して、原価を引いて、税を出す。それがいくつも連なっていて元々数字に弱い私は、見るだけで頭が痛くなってくる。


「その上、計算機がこれじゃあ……」


 小さな玉で出来た変な形の、所謂そろばん。この世界もタイピング式のレジスターというものはあるらしいが、かなり高価な代物らしい。そこまでの贅沢は言わないから、せめて電卓、電卓が欲しいっ!!!


「魔女さん、ちょっとそれ貸して!」

「あら、モカちゃんいつの間に?」

「コトラちゃんと遊びに来たの。そしたらこの人魔女さんに酷いこと言ってるんだもん!」

「ガゥッ!」


 小さなモカちゃんに指をさされたディラン補佐官の眉がぴくりと動く。そんなことを気にせずモカちゃんはそろばんを持つとビィーッ!っと音を立てて弾いた。


「わあ!すごいモカちゃん!」


 数字の並んだ紙を見てパチパチ次から次へと玉を弾く。


「お父さんも計算苦手でいつも私が手伝ってるの」

「へえ、お父さんも……」

「どこかで見たことあると思っていたら、君はモヘジマーケットの子か」

「え!モヘジさんの娘!?なんか……納得」


 何が納得かって私と同様、計算が苦手なタイプというのがしっくりくる。私の頭の中で、モヘジさんが「出来た娘だろ!」とお得意のウィンクをして親指を立てた。


「出来た……!」

「ガゥ!」


 最後に数字を紙に記入し、汗を拭う。かっこいい……!かっこいいよ、モカちゃん……!


「か、完璧だ……!」

「ほお。優秀だな」

「お褒めに預かり光栄です。ガルシア辺境伯様」


 ジオンに対しても怯むことなく、にっこり笑ってスカートを広げる。


「よく遊びに来るのか?」

「はい!魔女さんのお仕事見たり、コトラちゃんと遊んだりしてます!」

「がーうっ!」


 ジオンの質問に嬉しそうにモカちゃんは答えた。ついでにコトラまで。


「そうか。そりゃ楽しいな」


 一匹と一人を大きな掌で撫でるジオン。その目はとても優しい。そんなジオンを慈しむように光悦した表情で見つめる自称ジオン様の片腕ディラン。正直、仕事山積みだからさっさと帰って欲しい。


 顔面蒼白で気を失ってた、か弱い女の子だったモカちゃん。最近あのやんちゃな男の子二人と遊ぶのをやめコトラと遊ぶようになってから、モカちゃんの変化を感じた。


 そもそもこんなに賢いモカちゃんと、近所の悪ガキでは遊び方も合わず、合わせようとして無理をしていたんじゃないかな、と思う。


 最近のモカちゃんは、自由でとても楽しそうだ。


「では、この差分のベルガを月末までに納めて下さい」

「わかりました」

「月末までですからね。夕方には財務部は閉まってしまいますから必ずそれまでに」

「わかりましたってば」


 私のことが気に入らないのか、性格なのか。変な人に目をつけられてしまった気がする。今後、銅貨一枚の差額ですらチクチク言われそう……。


「よし、決めた!」


 私は両手を叩いて、モカちゃんへと向き直す。そして、小さな手を取って。


「あなたを魔女屋の会計士に任命します!」


 もちろん報酬は出すし、モヘジマーケット優先で来れる時に来てくれたらいい。それに、コトラと一緒に遊び放題!


「いいよ!魔女さんのお仕事見るの、好きだから」


 可愛らしい笑顔で頷いたモカちゃん(七歳児)が、本物の女神様である美月さんよりも女神に見えた。 


 

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