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16.魔女屋、開店!


 カンカンカンカン。家中に響く五月蝿い音で目が覚めた。金槌で何かを叩いてるような音だ。


「なに……ほんとうるさい……」


  寝ぼけた目を擦り、身体を起こす。隣で腹を出して寝ている番猫にもならないコトラを叩き起こすと慌ててロフトを降りた。


「いったい何事!?」


勢いよく扉を開ける。すると、そこには。


「おう、ひっでー顔だな。寝起きか?」

「ジ、ジオン……」


 眩しい朝日を背負ったジオンと数々の職人たち。まるで我が家の庭を工事現場かのように皆忙しなく働いていた。


 頭の上で、またカンカン!と金槌の音がして慌てて見上げる。そこには梯子に乗ってナニカの看板を取り付ける職人が。


「こ、これは……なに?」

「なにって店をやるには看板が必要不可欠だろ?」

「店……?」

「ああ。『魔女屋』だ」


 ぶら下がった丸い看板に描かれた異国の文字を見てジオンは言った。そう言われてみれば文字の上には、魔女の帽子。文字の下には、魔女の箒。これが魔女屋の看板……って。


「は?」

「薬屋でも武器屋でもない。街の人間の悩みや不満を聞き、それに合わせた物を売る。マコがやってるのは、そんな店だろ」

「それっていわゆる便利な何でも屋……」

「いーや、魔女屋だ」


 有無を言わさない美形の笑顔を私に向ける。私がこの顔に弱いってことを絶対知ってのことだ。


 ジオンの考えは大体読めた。領主である自分が最近落ち着きがない森のことで忙しく、街の人間の不安や悩みを聞いてやってる暇がない。

 そこで、私に便利な何でも屋をやらせ街の人々の小さな不満や悩みを解決させていこうという腹に違いない。


「ほーれ、出来たぞぃ」


アンティーク調の突出看板を打ち終わり、梯子から降りたひとりの職人。

驚いたことに背は私の腰上程しかなかった。ずんぐりむっくりな体型に、モジャモジャの髪と繋がった長い髭。髭の先には小さなリボンが結ばれていて。


「わぁ!ドワーフ!?」

「だぁーれがドワーフじゃい!!!」

「ククッ、モリーはちゃんと人間だ」

「そ、そうなの……ごめんなさい」


 魔物とかいるファンタジーな異世界だし、てっきりドワーフとかエルフとかいるのかも!と期待してしまった。残念ながらモリーさんはただのモジャモジャした小柄のお爺さんだったらしい。街で鍛冶屋を営んでいるそうだ。


「ぬぅ、此奴が噂の魔女か」

「マコと言います」

「お主、ここに書いたことは本当なのか」

「え?」

 

 家の扉のすぐ側に打ち込まれた細長い楕円形の看板。家主が寝てる間に二つも看板取り付けるってどうなのと思ったけど、今はそれどころじゃない。その看板にはぶら下がりの看板と同じ文字が大きく描かれており、その下に文章と思われる文字があった。


「"あなたの悩み、()()()()ご相談ください"って本当か?」

「えぇ……」


 いつでもなんてとんでもない!それってつまり24時間営業じゃん!とは、言えなかった。なぜなら私の隣でジオンが微笑んでいるからだ。無言の圧力、怖い。


「そ、そうですね。でも背を高くする薬とか無理ですよ」

「だーれがそんなこと頼むか!」

「ほかに悩みが?」

「うむぅ……髪がな……これじゃろ?だから、鳥がな……」

「えっ?」

「だから、この……こう、サラッと」

「髪と鳥と、サラッと……なんだろ」

「っだーかーら!このモジャモジャの髪を鳥が巣だと間違えるんじゃ!サラサラヘアーにする薬をくれ!と言ったんだ!」

「っ……!」

「ぐっ……!」


 わたしとジオン。思わず息を止めて吹き出してしまいそうな笑いを堪えた。ジオンに至っては我慢の出来ないのか肩まで揺らしている。

 真剣に悩んでいるであろう相談事を笑うわけにはいかない、けど……。


「カァ!マコこれは何事カァ!?」


 空から飛んできたクロウが()()に座った時、私たちは堪えきれず「「ぶふぁっ!」」と、吹き出した。


「お主ら……」


 じろりと私たちを睨むモリーさんの視線から逃げるように、こっそり本を読む。


(確か身だしなみを整えようのページに……あ、あった!ヘアオイルの作り方!)


「たぶん大丈夫です。作れますよ」

「ほ、本当か!?」

「ただ時間を頂きたいので出来上がり次第私の方からモリーさんのお店にお持ちしますね」

「そりゃ助かる!」


 見たことがない材料があったけど、基本的には魔女の栄養剤の応用だ。なんとかなるだろうと引き受けることにした。

 仕事に戻ってゆくモリーさんの足取りが少し浮かれているようで、ちょっと笑ってしまう。


「嬉しそうだな、モリー」

「ええ、ほんと」

「モリーは街の腕利きの職人だ。大事にしてくれると助かる」


 その言葉に領主の片鱗が見える。ジオンが街の人間から好かれている理由が少し分かった気がして私は頷いた。


「そういえばサラマンダーの爆竹な。昨日早速使わせてもらったよ」

「え!どうやって?」

「ジャイアント・ボアが壁に突進して来てよ今までだったら対峙してなんとか追い払ってたんだが……兵士たちに壁の上から爆竹を投げさせたんだ」

「ど、どうでした?ちゃんと爆発しました?」

「すげー威力だったよ。ジャイアント・ボアが腰抜かした姿見なんて初めて見たさ!」


 そう言って笑ったジオンの表情をみて、私は胸を撫で下ろした。万が一不発弾だったり、変に暴発したりしなくて本当によかった。


「おかげでジャイアント・ボア相手に無傷で追い払うことが出来た。ありがとうな」

「あ……いえ」


 いつもの意地悪な笑みではなく、柔らかな微笑みを私に向けた。その笑顔に妙にドギマギして、慌てて顔を背ける。


「そこでだ。サラマンダーの爆竹を定期的にウチとモリーがやっている鍛冶屋に卸して欲しい。もちろん出来る数で構わない」

「鍛冶屋にも?」

「ああ。どうしても空の魔獣や元々壁の中にいた魔獣が近隣の農場や家屋を襲ったりするんだ。その時の護身用として鍛冶屋で販売する」

「なるほど。ちなみに販売するとして、私に利益はあるの?」

「そうだな……俺に渡した爆竹が威力【大】で銀貨一枚。それよりちょっと威力を落とした物を威力【小】で銅貨五枚でどうだ?」

「そりゃあ定期収入になっていいけど……」

「ちなみに昨日受け取った五十個はこの店の改装費用でチャラだ」

「チャラ!?徹夜して頑張ったのに……!」

「何言ってる。足りない分は俺のポケットマネーだぞ。有り難く思え」

「まあ、いつか店はやろうと思ってたし……でも、尻尾がなぁ……」

「なんだ、そんなことか。尻尾は定期的に双子に届けさせるさ」

「「え!また俺ら!?」」


 重なった二つの声に視線を向けると、そこには樽を持った双子の姿が。


「ジオン様、そりゃないっすよ……」

「酷すぎるッス!」

「お前らサラマンダーかジャイアント・ボア。戦うなら、どっちがいい?」

「「サラマンダーでお願いしますっ!」」

「よし。決まりだ」

「とほほ。俺ら魔女さんの開店祝い持ってきただけなのに……」

「開店祝い?」

「ああ。いつも傷薬やらエナジードリンクやらで世話になってる兵士たちで出し合って買ってきたんだ」


 家の扉の近くにふたつの樽を置いた。どうやらその樽はプランターだったらしく中で白い花が揺れていた。


「百合……?」

「ユリ?花屋が言うには、これはリリー・ホワイトって花らしい」

「魔女さんいつも真っ黒だから、たまには真っ白なモンをって、レオが言った」

「あと、なんだかんだ可愛い顔してるしな魔女さん……ってセオが言った」

「いや、それはレオが言った」

「いや、絶対セオが言ったんだ」


 ジオンを見て変な汗をかきつつ互いに言った言ってないを繰り返す双子。そんな二人に呆れて首を振るとプランターの前にしゃがみ込んだ。

 真っ白で、百合みたいな花。リリー・ホワイト。


「わぁ、いい匂い……ありがと。レオ、セオ。他の兵士さんたちにもお礼を伝えておいてね」

「う、」

「お、」


 私がにっこり笑うと、ポッ!と顔を赤らめた二人。それをジオンが睨むと次は顔を青くしてなんだか忙しそうだ。


(……そうだ、いいこと考えた!)


 モリーさんのヘアトリートメントに、この花のエキスを入れて香り付けをしたら……モリーさんの分と、自分用にひとつ作ってみよう。


「街への道も午後には完成するそうだ」

「街への道?」

「そうだ。これで子供達が林の中からじゃなく、安全な道から遊びに来れるだろ?」


 ジオンが指差したのは、木々を切り倒した場所に出来た赤茶のレンガ道。街へ行く道と繋がっているらしく、道の入り口にはお洒落な看板を立てるそう。

 家主の許可なく好き勝手するな……と思ったけど、そもそもここはジオンの城の庭みたいなもんだ。


「さて、ここからは大人の話をしよう」


 にこりと笑ったジオンにいやーな汗が伝う。きっと、いや、絶対、いい話じゃない。


「商人が収める税金の話だ」

「げぇ……」


 やっぱり、いい話じゃなかった……。

 

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