14.サラマンダーの洞窟
『死の西森』から『神獣の森』へ変更しました!
「まただよ」
「また俺らだよ」
「文句ばっかり言わないで下さい。私だって本当は行きたくないんですから…」
翌日、なんともやる気のない三人が集結した。誰一人として外に行くのを望んでいないのに、双子は仕事として、私に至ってはほぼ脅されて行くようなものだ。
悩んだけど、クロウもコトラも連れて行くことにした。
嫌ダ嫌ダ!と壁の中産まれ壁の中育ちのクロウは最後までゴネていたけど。ちらり、空を見上げると小さな黒い影が見えた。どうやら危険の及ばないであろう上空からついてくることにしたらしい。
その反対に、コトラは散歩に行くと思っているのか、長い尻尾を揺らし上機嫌。コトラが一番やる気があるのかもな、とため息をついた。
「(出来る限りの準備はしてきた、けど……)」
斜めに掛けた革製の大きなガマ口の鞄は、本が教えてくれた魔女の不思議バッグだ。
限度はあるみたいだけど、重さも感じず見た目よりもたくさん収納できる優れもの。
そこに採取で使う魔女の革手袋と双子の好きなエナジードリンク、そして傷薬。あと、皮袋で出来た水筒に、ちょっとした軽食を入れてきた。
「どうやって壁の外に出るんですか?」
「そりゃ門から出るに決まってんだろ」
そう言う双子に連れられて家の前の林から抜けると街とは反対の方へと歩いて行く。すぐに大きな建物を囲う鉄柵の塀が見えた。
「わ!何ここ……!?」
広々とした庭の中心には、重厚な石造りの城。中世の城らしい形だが、……なんだろう。全体的に武骨で飾り気がなく要塞のような、軍基地のような。ちょっと入る気が起きない城だ。
その中へと入っていこうとする二人を慌てて止める。
「ちょっと!また勝手に入って……!」
「何言ってんだ。門はジオン様の敷地の奥にある」
「ジオン様の許可がなきゃ壁の外に出てけないようにな」
「え?じゃあ、ここって……」
「ジオン様の城だ」
「え……えーっ!?こんな近かったの!?」
あまりの目と鼻先すぎて、言葉が出てこない。
(私、……馬鹿なの?)
逃亡相手である領主のほぼ庭みたいなところに住んでいたなんて。私こそが不法侵入で訴えられてもおかしくないぐらいだ。
そこで初めて、ジオンが私をご近所さんと呼んだ意味をやっと理解した。
「門の近くには兵舎もあって、俺らはそこで寝泊まりしてる」
「目の前にはジオン様、背後には魔獣。ちっとも休まんねーの」
「そりゃ悪かったな」
「げ!ジオン様っ!?」
壁にもたれ、こちらを見て手を上げる。あまりのスタイルの良さに、どこぞのメンズ雑誌のスナップかと思った。昨日と似た格好で、今日はその上に質の良さそうな黒革のベスト。そしてベルトには、長剣が。
「さあ、行こうか」
「えっ!?」
「は!?ジオン様も行くんすか!?」
「当たり前だろ。ちなみに今日もお忍びだからよろしくな」
「ちゃんと忍んでから言ってください」
「またディラン様に叱られても俺知らねーッスよ」
やいのやいの。賑やかにやり取りする三人を門番の衛兵たちが微笑ましく見つめていた。どうやら賑やかなのはいつものことらしい。
「そんな軽装で壁の外に行けるのジオン様だけッスからね」
「あ、あと魔女さんもか」
そう言われてみれば、双子は重そうな鎧を身に纏っている。筋骨隆々で、アホだけど屈強の兵士である双子ですら完全装備で行く森……。
「ごめん!急にお腹が痛くなっちゃった!」
慌てて逃げ出す私のフードを何かが掴んだ。
(う、動けない………)
恐る恐る振り返ると、ジオン様の満面の笑み。そして私の耳元で囁いた。
「さあ、行こうか。神獣の森へ」
「いっいや〜〜〜ッ!!!」
▼
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「ぎゃあーーっ!!」
私の叫び声が洞窟に木霊する。隙間なくサラマンダーがへばりついた洞窟に。
「爬虫類むりぃぃぃ!!」
私から見たサラマンダーは真っ赤な色した大トカゲだ。大きさはイグアナ程度で、のそのそと洞窟の壁を這っている。
ジオンが言うにはこの洞窟にいるサラマンダーは小型な上、火を吹くだけしか芸がなくそこまで強くないらしい。
が、爬虫類が最も苦手な私にとって、この洞窟は地獄だ。
「なんつーか……自分より弱い奴がいるって」
「ちょっとホッとするな」
「うるさいですよ脳筋双子!ぎゃっ、そこ!」
「ホント。魔女だっていうから、ちょっと期待してたのにな」
ジオンに至っては、ただの異世界人だって知ってるくせに……!
「勝手に期待しないでくださいっ!無理なものは無理なんですっ!」
「まだお前のペット達の方が頑張ってるぞ、ほら」
「カァッ!ヤッ焼キ鳥ニナル!焼キ鳥ニナルッ!!!」
「ガウッ!ガウゥ!!!」
クロウはただ逃げ回っているだけだが、コトラが吠えるとサラマンダーは火の粉を散らしたように一目散に逃げ回る。どうやらコトラの敵ではないらしい。帰ったらご褒美のクッキーでも焼いてやろう。
「ジオン様、本当に尻尾切り落とすだけでいいんスか?」
「おう。無駄な殺生はしなくていい」
素材に必要なものはサラマンダーの尻尾だけだ。サラマンダーには申し訳ないが見た目トカゲだし……きっとまた生えてくるだろう。
ジオンも双子も銀色に鈍く光る剣で器用に次から次へと尻尾を切り落としていく。
「マコ。おまえは素材の回収だけしてればいい」
「わ、わかりましたっ!」
切り落とすなんて、私には無理!と思ってたから回収係に任命されて、ホッとした。と、胸を撫で下ろしたのも束の間。目の前には、なんともグロテスクなサラマンダーの尻尾。
「うっうう……尻尾やだ……」
魔女の革手袋をしっかりと装備し、なるべく見ないように尻尾をつまんで大きなガラス瓶の中へ。麻袋だと万が一発火してしまったら大変なことになるからだ。
「うぎゃあ!」
視界の端からひょっこり現れたサラマンダーに思わず悲鳴を上げて仰反る。ぽすり、誰かに抱き止められた。
「あっぶねーな」
振り返り見上げる。どうやらジオンが私を受け止めてくれたらしく、私を見下ろすと
「ハッ、おまっ、涙目っ!」
そう言って馬鹿にしたように笑った。そんなジオンに私は頬を膨らませ、むっとする。そんな私に気づいて、ジオンはもう一度宥めるように微笑んだ。
「悪い悪い。ちゃんと守ってやるから安心しろ」
私の頭を大きな掌で撫でる。頭を撫でられるなんて、子供の頃以来だ。子供扱いされているみたいで恥ずかしい。
けど、もう一度サラマンダーへと向き直したジオンの背中は、なんとなく……なんとなくだけど、少しだけ頼もしく感じた。
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