01.三番線ホームにて召喚
「では最後にこれぞ自分だというものを教えてください」
「じ、自分だ…というもの…」
ーーー結局、答えられなかった。
(たぶん、だめだ。たぶん、おちた。)
面接からの帰り道。駅のホームで、がっくりと項垂れる。
就活なんて、もうやめたい。やっと面接までこぎつけたのに…なんなの、あの質問。
長所と短所じゃだめなの?それだったら上手く答えられる用意はしてきた。自己PRだって上手く出来ていた筈だ。
「これぞ、私…なんだろ…」
藤見真子、二十二歳。所謂、普通の人。特記事項なし。こんな自己紹介たった三秒で終わってしまう。
特別美人でも、可愛くもない。背だって高くも低くもない。体重だって、重くも軽くもない。賢くも悪くもなく、愛嬌だってある時とない時がある。
趣味だってちょろっとアニメ見たり、ちょろっとファンタジー小説読んだり、ちょろっと音楽聞いたり、ちょろっと雑貨屋めぐったり。
ごくごく普通で、ごくごく平均の、ちょろっとばっかりの。そんな私のこれぞなんて考えても思いつかない。逆に教えて欲しいぐらいだ。
『まもなく三番線に電車が参ります、ご注意下さい』
駅のアナウンスが聞こえて顔を上げた。
もうすぐ電車が来る。さっさと家に帰って、ご飯を食べてお母さんに「今回もだめそう」って愚痴って。何も考えないように頑張って、もうさっさと布団に入って寝よう。
「この嘘つき男!さっさと離してよっ!」
背後から響いてきたピンヒールの音と叫び声に思わず振り返る。
「待ってくれ!美月っ!」
「奥さんがいるなんて一言も言わなかったじゃないっ!」
う、うわぁ…修羅場だ。しかも不倫っぽい。
怒り狂う女の人と、その人の腕を掴んで離すまいとしている男性。女性の方はすごく綺麗な人だ。男性の方は…うーん、微妙。
女性の方と目が合い、慌てて前へと向き直す。
「黙ってたのは悪かった!でも俺は本気なんだ!」
「気持ち悪いっ!アンタの会社だって本当は奥さんが経営してるって聞いたわ!」
「それはっ」
「不倫で、しかもお金持ってるのは奥さんの方…ハッ!アンタ、ただのクズね」
「なっ…!」
次第にヒートアップしていく痴話喧嘩。話の内容を聞いてる限り男も最低だけど、女も最低だ。
しかし、なんでまた私の真後ろでやるかな…。
(やっときた…!電車…!)
電車のクラクションが響く。車両も見えてきた。早く、早くここから私を解放してくれ。
「私が好きだったのは、アンタのお金だけよ」
「クッ!このクソアマっ!!!」
「きゃあっ!!!」
瞬間、ドンッと背中に衝撃が。あっという間に線路へと投げ出された私の身体。
そこからは全てがスローモーションに見えた。迫ってくる電車も、響く車輪の音も、誰かの悲鳴も。
(うそ、私、電車に轢かれーー)
電車の警笛が耳鳴り、視界を真っ白に埋め尽くす眩しい電車のライトにぎゅっと目を瞑る。
――そして、ゆっくりと開いた。
「…………え?」
いや、おかしい。絶対におかしい。
「女神様が召喚されましたぞ〜!!!」
目を覚ましたら、そこは異世界でした。
なんて、暇つぶしに読んだファンタジー小説の中だけの話だと思ってた。




