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ヒールを鳴らす

「漫画家と出会うなら、アシスタントとか編集さんとかじゃない?私たちのような、中堅建築会社の事務員では出会うきっかけはなさそうだけど……」

「あー、もう深山~。夢の無いこと言わないでよ。はー、やっぱりそろそろ結婚相談所のお世話になるべきか!」

 山崎さんがうーんと頭を抱え、お昼のコンビニのサンドイッチをかじった。

「ちゃんとしたところが運営している出会い系アプリみたいなのもあると言ってなかった?」

 私は手作りの弁当だ。息子のお弁当を作る必要があるため、一緒に作っている。

 とはいえ、時間もないので、卵焼きと、昨晩の残りと、冷凍食品と彩野菜にご飯というのがいつものメニュー。

 今日は、昨晩は肉じゃがだ。冷凍食品はのり巻き唐揚げ。あと、彩でプチトマト。主食はふりかけごはん。

「あー、ダメダメ。ろくな男いやしないよ。やっぱさ、金をかけずに簡単に女と出会おうって男にろくな奴いないね」

 そういうもんなのかなぁ。

 私は学生結婚してすぐに子供を授かって大学卒業したらすぐに子育てに突入。育児しながら建築士の勉強を続けて、いつか真くんと一緒に工務店をと夢見ていたけれど……。結婚生活3年で真くんは死んじゃった。真くんのお世話になっていた今の会社に就職させてもらって今がある。

 建築士の勉強は中断しちゃったけれど。優斗の手が離れたら再開するのもありかもしれない。

 昼食を終えて事務室に戻ると、部長が待っていた。

「あー、よかった。二人のうちのどっちか、営業に付き合ってくれなか?」

 50歳近く、少し貫禄の出てきたお腹をしている部長のスーツ姿は珍しい。

 普段は現場を回ることも多いため、男性社員のほとんどが作業着姿だ。スーツを着て営業に向かうなんて……。

「もしかして、東御ホテルグループへの営業ですか?だったら、いくらでも行きたい人いるんじゃないですか?」

 山崎さんが、カツンとヒールを鳴らした。

 ちょっといら立ちを見せている。

 まぁね。部長は「相手も若くてかわいい女の子が一緒に行った方が嬉しいだろう」とかいう脳みその持ち主だ。営業補助として、いつも若い事務員を指名することがほとんどだ。

「いや、それが。東御の社長なぁ、女嫌いみたいで」

 山崎さんがイラっとした感情を隠さずに部長をにらんだ。

「へぇ、私たちはすでに女として終わっていると、部長はそういうつもりなんですね?」

 部長がたじたじと後ずさる。

「いや、その、そういうことではなく、社長は顔はいいし、独身で玉の輿でねらい目だから、その、若い子だと仕事よりも色目を使う人も多かったみたいで……そ、その点、君たちはベテランで仕事も良くできる」

 私は、勤務年数的には確かにベテランだけれど。仕事が特別できるというわけではない。

 だけれど、入社してすぐに、山崎さんが教えてくれたんだっけ。

 眼鏡にひっつめ髪でさえない格好をしていた私に、きっちりと化粧をしてヒールを履いた山崎さんの言葉を今でも覚えている。

「恰好だけでも、仕事ができる女、キャリアウーマンになりなさい。この業界、おとなしそうな女性を見ると酷い言葉を投げつける男が残念ながら多いから。そういう男たちに限って、できそうな女には何も言わないのよ」

 って。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 現在の漫画家のアシスタントは、昔のような師弟関係、丁稚奉公みたいなのは絶滅していて、ビジネスライクに賃金で繋がっているだけだそうです。(アシさん談) そして、古い人以外は執筆は電子化されてい…
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