おせっかい
「じゃぁ、あまり周りが騒がしいのもあれでしょう。会議室にどうぞ」
部長の言葉に、東御社長がいったんお昼を買いに会社を出る。ちょうど、買い物を終えた山崎さんが戻ってきた。
東御社長が、山崎さんに何か話しかけ、山崎さんが笑って返事を返している。
「深山、東御社長とランチミーティングするんだって?」
「あ、うん」
「それにしても、深山は東御社長にずいぶん気に入られたみたいだね。私が深山と仲がいいっていうだけで、他の女性社員に向けるような目向けられずに済んでるんだもん」
山崎さんの言葉に、そうなのかなと首をかしげる。
「山崎さんが、東御社長に気に入られたんじゃないかな?」
山崎さんがいやそうな顔をする。
「イケメン嫌いオーラ出てたかな。嫌われると話しかけやすいっていうなら、相当なマゾだよ。もはや女嫌いとは別の次元の話になってくるよ」
「あ、会議室でランチミーティングになっちゃったから、今日は一緒に食べれないみたい」
「ああ、うんいいよー」
並んで食堂に入り、お弁当を置いたテーブルに戻る。
「これ、まだ口付けてないから、よければ飲んで」
カップのコーヒーを山崎さんに差し出す。
「え?いいの?」
「うん。来客用のお茶とか出した方がいいかなぁって思うと、私だけこれ持ってくのもね……」
「なるほど、頑張って」
山崎さんに小さく頷いて見せてから食堂を出る。
「あ、後藤君」
ちょうどコンビニの袋を手にした後藤君の姿が目に入り声をかける。
「深山さん、もうお昼終わったんですか?」
「ううん、これから。ちょっと急にランチミーティングで会議室に行くことになって移動中」
「へぇ、そうなんですか?山崎さんも?」
ほらね。山崎さんのこと気にしてる。後藤君は山崎さんに気があると思うんだよね。余計なおせっかいしていいかな。
ちょっと年下だけれど、気にするほどの年齢差でもないよね?
「ううん、私一人。そのせいで、山崎さんが一人で食事することになっちゃったから、よければ後藤君一緒に食べてあげてくれる?ああ、それから、スマホのステッカーは私があげたんだけど、私も山崎さんも実はあんまり詳しくないから、教えてあげてくれる?誰かに聞かれたときにこたえられる程度には。後藤君は詳しいんでしょ?」
後藤君がはっとして視線をそらした。
「いえ、その……」
「私の息子は詳しいんだけどね。あのステッカーも息子からもらったの」
わかりにくいグッズでオタク主張をしている人は、オタクを隠したいいう思いもある人もいるだろう。
「山崎さんも偏見はないから大丈夫。結構かっこよくて気に入ってるみたいだから、あの形の由来とか何かプチ情報知ったら喜ぶと思う」
頑張ってっていう意味を込めて、ポンポンと、後藤君の肩をたたいた。
叩いて気が付いたけど、ああ、これ部長と同じじゃん?すっかりこの会社の風土に染まってると自分の無意識の行動にびっくりした。
それとも、おばさん化してきたのかな?
顔を上げると、コンビニの袋を下げた東御社長と目があった。コンビニでお昼を買ってきたんだ。
あんな立派な車に乗っていて、社長という地位もあって、俳優のようにかっこよくて、でも、コンビニ使うんだということに妙に親近感がわいた。まぁ、コンビニを使うのなんて今では当たり前なのかもしれないけれど。
「今の男性は?」
東御社長と会議室に移動しようと近づくと、開口一番言われた言葉。声のあまりに冷たさに背筋が凍り付いた。




