後藤君
「おはよう深山」
「おはよう山崎さん」
「今日は化粧ばっちりだね」
山崎さんの化粧チェックが入った。
ロッカーで着替えながら会話をする。
「山崎さんはいつも通り完璧ね。私は昨日の時間不足を反省して、15分早く起きたんで。あ、これよかったら使って。超世紀ライディオンの宇宙連合軍のマーク」
今日はスマホケースなどに貼ることのできるステッカーを持ってきた。
「グッチィやシャネルゥの仲間みたいなマークね。こりゃ、本当に知ってる人しか分からないわ……」
山崎さんが黒い丸の中に銀色で描かれた輪っかが2つくっついたような形の超世紀ライディオンの宇宙連合軍のマークのステッカーをさっそくスマホケースに張り付けている。
もともと使っていたスマホケースは黒色のシンプルな物だっただけに、違和感はない。
「なんかちょっとおしゃれになった。ありがとう深山」
気に入ってもらえてよかった。アニメグッズなんてもらっても困ると言われたらどうしようかと思っていたんだよね。
もしかしたら山崎さんも本気で使うつもりはなかったのに、私が空気が読めなくて持ってきちゃったみたいになっても……。
「今日明日来たら、しばらくは出向で深山にも会えないのねぇ。寂しくなる。……同年代の女子社員少ないからさぁ、話題に乗り切れなくて」
ロッカーにカギをかけながら、山崎さんがはぁーっとため息をついた。
「確かに。厄年を過ぎるとがたっと体力落ちるっていう話を聞いても、若いころはぴんと来なかったけれど、実際本当に厄年を境目に疲れの取れ方が違うよね」
「それな!本当、女の厄年を33歳って設定した人、見事としか言いようがない。あれ、なんなんだろうね?あのあたりでぐっとシフトチェンジしたみたいにガクっと体力落ちるの」
ロッカールームを出て話しながら歩いていると、後輩の男性社員が笑いながら話しかけてきた。
「何言ってるんですか。深山さんも山崎さんも、お二人ともまだまだ若いじゃないですか」
背の高くてちょっと目じりの下がった優しそうな顔をした後藤君だ。ふんわりした落ち着いた雰囲気を醸し出す癒し系だと、私は思っている。
ふと、東御社長の姿を思い出す。
うん、ああいうイケメンは目の保養にはいいけれど、近くにいると緊張するから、後藤君みたいな人の方が無害でいいよね。
「なぁに?嫌味?後藤は何歳だっけ?まだ30代だったっけ?」
「やだなぁ山崎さん。僕ももう、33ですよ。結婚適齢期と言っても過言ではない年齢です」
ああ。もう、後藤君……。
山崎さんがぴしっとこめかみに青筋が。
「後藤、それは、嫌味かと、聞いている」
後藤君が私を見た。
「え?深山さん、僕、何かおかしなこと言いました?あの、全然嫌味なんて言っていないんですけど……」
天然なのかな。悪気はないんだろうなぁ。
「後藤君、私も山崎さんも後藤君よりも年上で、独身だからね?年下のしかも男性に結婚適齢期なんて言われたら、私たちの立場は?」
後藤君がひゅっと息をのんだ。
「と、年上って言っても、ちょっとしか変わらないじゃないですか。それより、僕も結構いい歳で、その、子供扱いされるような年齢じゃないですと、認めてほしかっただけで……えっと、気に障ったらごめんなさい。あの、その……」
男として見てほしいって言ってるように聞こえてきた。
これは、もしかして、山崎さんのこと……?




