しゅ
「台本あるし、生放送っていっても、台本通りに進めれば全然問題ないよ」
って言ったって。
「さっきも、ちょっとかんじゃったし」
というと、優斗がえへっと笑った。
「あー、うん、大丈夫」
と、優斗が視線をそらした。何、それ、全然大丈夫な感じがしないけど……。
SNSの画面がスクロールしていき、動画が自動再生される。
優斗の作ったVTuberのキャラクターが動く動画だ。
うわ、私が夕飯作ってる間に、もう動画にしてアップしたんだ。
『今、オリジナル曲を練習していましゅ……って、あ、緊張してかんじゃった。もう1回、言いなおすね。今、オリジナル曲を練習しています』
……は?
「ちょ、優斗!噛んだやつ、そのまま、そのまま使ったの?」
うわぁーっ。
恥ずかしい、恥ずかしい。
と、真っ赤になっていると、水色の髪の天使のようなキャラクターも私のようにほほを染めている。
ぐっ、キャラクターとすればかわいいのかな?でも、中身の私は素で間違えたんだし、恥ずかしいんですけれど……。
「大丈夫だよ、うん、大丈夫、ほら」
優斗が動画に対する反応を見せてくれる。
『僕は土曜日の生放送正座待機していましゅ』
『同じく、正座待機していましゅ』
……。
「からかわれている?」
「違うよ、喜んでるの!」
喜ばれてるの?
「ああ、ドジっ子みたいなキャラなのかな……」
ドジっ子キャラクターって、確かに人気ありそうだけど。
「素で間違えてるのって……40歳近くにもなって……」
額を抑える。
「若い子ならドジっ子もかわいいんだろうけど……声が私なんて知られたら、年齢のせいで舌が回らないとか思われそうだわ……」
私の言葉に、優斗がびっくりする事実を口にする。
「ああ、問題ないよ。この子は、アラフォーキャラ設定だから」
にこっと笑ってPCをスリープ操作する優斗。
は、い?
「今、アラフォーって聞こえたけど?」
「そう。アラフォー。だから、発言が若者らしくないとか全然気にしなくてガンガンしゃべっていいから」
優斗が部屋を出てキッチンに向かう。
「ちょっと、優斗、な、なんでアラフォーなんて、そんなの人気出ないでしょう?せっかく作ったのに、そんな設定付けちゃったら……」
優斗がキッチンテーブルに腰掛けて、私を手招きする。
「あー今日はカレーだ。うれしいなぁ」
ニコニコとかわいい笑顔を見せる優斗。いや、かわいいはそろそろ卒業する16歳男子ですが。私にとればずっとかわいい息子なんですよ。親ばかですから。
だって、カレーが嬉しいなんてかわいいこと言ってくれるでしょう?
「早く早く!」
我が家のルールだ。
私が家にいるときは、必ず2人が席についてからいただきますをする。
シングルマザーで何かと忙しいけれど、洗濯をしながらとか洗い物をしながらとかながら食べはしない。優斗を食卓で一人にしない。
残業などでどうしても一人で食べてもらわなければいけないときは、手紙と音声レコーダーを残すようにした。
例えば「今日の夕飯はお好み焼きです。冷蔵庫に入っています。電子レンジで5分加熱してください。加熱したら皿が熱くなってますから、必ずミトンをはめて両手で取り出すようにね」といった感じ。
席について、二人で手を合わせる。
「今日の夕飯はカレーとコロッケです」
私がメニューを言うと、優斗が「いただきます」と言い、私が「はい、いただきます」と返す。
いつもの光景。
「VTuberってさ、今何人くらいいるか知ってる?」
優斗ががつがつとカレーを1杯たべ、お代わりをついだところで少しお腹が落ち着いたのか話を始める。
「さぁ?」
「もう、めっちゃ多いんだよ。その中で成功してるのなんて、ほんのスーパーセントどころか、コンマスーパーセントかな。ほとんど誰にも注目もされずに終わるんだ。後発は特に悲惨。小遣い稼ぎどころか、初期投資も回収できない人ばっかりじゃない?人によってはキャラクター制作を外注したりで金使ってる人もいるみたいだし」
優斗がこんなにおしゃべりするのも珍しい。
やっぱり好きなことだとたくさん話がしたくなるもんなんだな。
でしゅ




