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ただいま

「はい、じゃぁちょっと音楽を聴いてもいいですか?」

「ああ」

 スマホを取り出し、イヤホンを耳に当てる。

 優斗が作った曲。覚えてくれと頼まれた曲。

「うわ」

 思わず声が漏れる。

「どうした?」

「いえ、あまりにも、いい音楽なので」

 ……うちの子天才よ。うちの子、天才!

 ああ、この天才が作った名曲を、誰か聞いて!

 ……ん?誰かに聞いてもらうためには私が頑張って覚えて歌わなければならないのでは?

 うああああ、責任重大。

 でも、お母さん頑張るからね!歌はちょっとうまいってほめられたことあるんだから。

 優斗の作った名曲を、皆に聞いてもらうために頑張って覚える。

 音楽とともに、スマホの中にいれてある楽譜と歌詞を開いて見る。歌は仮にボーカロイドの機械音で歌われている。それを、私が人間の歌にするのだ。

 人間の歌?

 えーっと、VTuberって人間ですかね?

 キャラ?

 うむむ?

 優斗の作った少し垂れ目の、優しそうなキャラクターを思い出す。

 そのキャラクターが歌っている姿を想像しながら、曲を繰り返し聞く。

 歌詞の意味を考えながら、どこでどう抑揚をつけて、感情をこめて歌えばいいのか。

 うう、案外、難しい。

 カラオケなら、見本となる歌手の歌がある。今回ば機械音が見本だ。いや、ある程度強弱だとか付けてあるんだけれど、やっぱり人間の歌の上手い人が歌っているものと比べると、わざと少しずらしたとか、ちょっと感情を込めるために溜めた、とか息の音だとか、足りない部分はどうしてもある。その肉付けを私が考えてしないといけないとか……。

 あわわ、思った以上に大変かも。

 でも、息子が……今までわがまま言わずにいろいろなことを我慢してきた息子が、お願いしてきたのだ。

 私のためにお金をと言っていたけど、それも本当なのだろうけれど。私には分かる。

 優斗は、今、大切な学びの時間なのだと思う。

 将来に向けて、自分を見つける時間。

 進学を考えた時に、今の経験から、デザインを選択するかもしれない。音楽かもしれない。プログラミングが学びたいと思うかもしれない。

 逆に、Vチューブはあくまでも趣味として楽しみたい、将来は全く関係のない道に進みたいと思うかもしれない。

 覆面ミュージシャンも増えている。有名なメジャーデビューしたグループは歯科医をしながらアーティスト活動をしているとか。

 道は一つじゃなくてもいい。

 そして……。

 優斗のやりたいことが見つかれば、めいっぱい応援するつもりでいた。



「ただいま」

「お帰り、母さん!歌、覚えた?」

 帰ると、優斗が玄関まで小走りで駆けてきた。

 うえ?そんなに期待されてる?

「ごめん、まだちょっと……覚えられなくて……」

 っていうか、昨日渡されての、今日だよ?しかも平日!覚えられないでしょう!

「うん、だよね。じゃぁさ、代わりにこれ、お願い」

 は?代わりに?

 渡されたメモ書きには3行。

「今、オリジナル曲を練習しています……?」

 メモの1つ目を読み上げると、優斗が待ったをかける。

「待って、録音準備してから!」

「は?録音?」

「声やってくれるんだよね!生配信の予告もしたいし、母さん来て!」

 靴も脱いでないのに袖を引っ張られた。

 あー、懐かしい。3歳くらいのころ、ママ、ママ、って、こちらの状態も無視してよく手を引っ張られたなぁ。

 鞄を玄関先に置き、慌てて靴を脱ぎ捨てて引っ張られるままに優斗の部屋に行くと、マイクを渡された。


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― 新着の感想 ―
[一言] 優斗「将来は、なろう小説家になる!」(笑) ……収入手段を考えるとチューバーは職業足り得るけどなろうは職業ではないですね(ボソリ) (ようつべは広告やら投げ銭やらの直接の収入手段があるけど…
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