社長の登場
5分ほど、持ってきた資料の確認などを部長として待っている間に、ドアが開いて会議に参加する社員たちが姿を現す。
ホテルマン姿の人もいる。このホテルで働いている現場の人だろうか。現場の意見も取り入れるということかな。
ホテル側の社員が全部で12人、それから私と部長、府網建築の3人と茉莉さん、合わせて18人がそろったところで、ドアが開き、一斉に皆が立ち上がった。
ドアから入ってきた人を見た瞬間、ここはやっぱり会議室じゃなくて舞踏会でもするような広間なんじゃないかと錯覚する。
それほど、入ってきた人物のオーラが「貴族の風格」を持っていた。
コシのありそうな長めの前髪をアップバングにし、サイドの髪の毛が少し耳にかかっている。
太くて意思の強そうな眉毛と、同じく意志の強そうな強い光を放つ切れ長の瞳。
まっすぐ筋の通った鼻も、薄く引き締まった大きめの唇も、どのパーツをとっても、凛々しくて最高にかっこいい。モデルみたいだ。
しかも、うわべだけのかっこよさではなく内面からにじみ出る自信からくるオーラがすごい。父から引き継いだ東御ホテルを彼の代ですでに10倍の規模へと拡大しているという話も聞いた。切れ者だと。
身長も高く、10センチヒールを履いた私でも見上げないといけないんじゃないだろうか。185センチはありそうだ。肩幅の広いスーツを見事に着こなしている。
ホテルのあの階段から降りてきて手を差し伸べられたらどんな女性もいちころなんじゃないだろうか……。
と、想像以上の素敵な姿に思わずぼーっと見てしまうと、社長の視線が私に向いた。
やばい。目を合わせたら駄目だったんだ!
注意されていたのに、一瞬視線がかち合う。その瞬間、まるで蛆虫でも見るような目つきに社長の目が変わった。
あー、やらかした。やらかした。いや、あちらの条件反射でそういう顔になってしまっただけかもしれない。
ぶしつけにじろじろ見てしまったことは事実なんだし、嫌そうな顔されても仕方がない。
ここから、挽回しないと。色目は使ってませんよ。
指輪、指輪をちらつかせないと。
内心焦りでバクバクになっている間に、社長が席に座り、府網建築とうちと簡単に社長に挨拶したのち、プレゼンが始まった。
まずは府網建築だ。
専務の隣の男性が資料を配布し、さらにその隣の男性がプレゼンを始める。
プロジェクターでPC画面を写しながら資料と合わせて説明していく。その内容は、主に予算と工期。それから環境に配慮したなんとかだとか、会社の売りをいくつかだ。
建物に関しては、東御から細かく指示があったようで、それに合わせた建物でうちも府網建築さんも大きく違いはないようだ。
その中でどれだけ特徴を出せるかというと限界もあるだろう。予算や工期……結局そのあたりの勝負なのかな。だとすると……。若干うちが負けている。
部長の顔をちらりと見る。
こりゃ、5連敗かな……。
府網のプレゼンが終わり、次はうちだ。




