年齢
「それは、たいへんそうですね。目を合わさないように気を付けます。必要以上に見たり、微笑みかけたりもしない方がいいですよね。あ、でも、最終的にはこれをちらつかせますから」
茉莉さんに左手の薬指にはまった指輪を見せる。
「あ、既婚者?」
本当は主人はいないけれどそれは黙っておく。
「高校生の息子がいるんですよ」
と、事実だけを口にする。
「あー、そうなんだ!あ、深山さん、PCの映像をプロジェクターで映し出すときは、こちらにPCを置いていただいて」
会話をしながらも、茉莉さんはてきぱきと説明すべきことを教えてくれる。
「見えないです、おいくつなんですか?あ、年齢聞くなんて失礼ですよね、すいません」
「いえ、隠してないですから。むしろ、もし社長に誤解されたら弁解しておいてもらえますか?38歳になります」
プロジェクターのスイッチに視線を向けていた茉莉さんが、ぐりんと、すごい勢いで振り返った。
「わっか!若っ!さ、38?38で、高校生の子供がいるの?私なんて33になるのに結婚もまだだし、兄なんて、40で結婚どころか恋人を作る気さえないというのに……」
よく言われる言葉にふっと笑いが漏れる。
山崎さんにも何かあるたびに言われるんだよね。
「茉莉さんや社長は普通ですよ。今は20代で前半までに結婚して子供を産む方が珍しいんじゃないですか?」
茉莉さんが目を丸くして私を見ている。
「あ、すいません、つい茉莉さんと……」
東御社長も東御だろうし、東御さんと呼ぶのも紛らわしいかと心の中で茉莉さんと言っていたら、そのまま口を出てしまった。
「ううん、茉莉さんでいいですよ。東御がいっぱいじゃ紛らわしいですもんね。そうよね、私は普通、まだこれから。でも兄はなぁ……もう一生独身かも」
茉莉さんが小さくため息をついた。
「女嫌い……が克服するといいですね?」
「あー、独身なのは、女嫌いがっていうより……あの趣味が……あっちの人たちって……」
ん?
趣味?
デートとか女性との時間を楽しむよりも、趣味に時間を使いたいというタイプなのかな?
一通り茉莉さんに機材の操作方法など説明を受けると、席に座った。
一つだけ立派な椅子の席の隣に、茉莉さん。コの字になっているので、お誕生日席のすぐ隣が、部長で、その隣が私だ。思いのほか社長に近い。茉莉さんの話だとなるべく距離を取ったほうが無難そうだが、私たちの向かい側には府網建築の3人が座っているので、何か尋ねたいことがあればすぐに声が掛けれる場所に配置されているのかと思い、諦めた。




