初任務にゃ!
まだ肌寒さが残る、春が顔を出し始めた頃。金と銀のオッドアイの持ち主が日の沈んだ暗闇を歩いていた。「ふわぁ」と呑気に欠伸をしながら。
それは一匹の黒猫。名はファウスト。死人の集う冥界より遣われし死神猫だ。死神と一言で言っても、いろいろとある。
悪事を働いた極悪人を裁く者は、躯に黒いフードの姿をしている。有無を言わさずに冥界へ送るのが役目だ。その後、対象者は閻魔によって地獄逝きを下される。
反して、ファウストのような猫の姿をした者の場合は、くだらない理由で死のうとする人を、その愛らしいフォルムで、現世に引き留める役目を持つ。というよりも、急遽遣わされた。どうしてこんなことになったかというと、
「日本人はすぐに自殺するから、日本の閻魔様は大変そうだにゃ」
ファウストの言うとおりだ。
日本の冥界がいよいよ満員状態となり、猫の手も借りたい状態なのである。これ以上無駄な死人を冥界に連れてこないで欲しいという、日本の閻魔の頼み事なのだ。
日本に居る死神猫だけだと数が足らず、各国から集められたうちの1匹。それが、このファウストである。
早速、1人の迷える馬鹿者――基、くだらない理由で死のうと考える者の気配を察知する。ファウストは毛づくろいをしながら、金色の右目でその内情を探った。どうやらそいつは、告白に失敗して猛烈に死にたい気分らしい。
(ふーん)
22歳の男性の姿が見えた。ひょろひょろのノッポ。告白失敗の理由は、デートの日に太っちょの彼女が居るのにもかかわらず、「ちょっとだけお腹のお肉、俺に分けてよ」と、冗談で言ってしまったことだそうだ。平手打ちをされて音信不通。たった1日の出来事である。
「馬鹿にゃー」
どうやら男性は、彼女に強い未練を持っているらしい。婚約指輪まで用意していたようだ。男性の名前は斎藤タカシ。彼を振った女性は、大学生の小野村チカ。ファウストはこの2人のことを【タカチカ】と呼ぶことにした。
「初任務。出動にゃあ」
暗い夜道の中で、ファウストの「オア―」という間の抜けた鳴き声が響き渡る。死神猫のファウストは、無事に【タカチカ】の仲を取り持つことが出来るのか?
いや必ずできるだろう。
猫の癒しパワーをナメてはいけない。
可愛いが世界の馬鹿者たちを救う!
全年齢対象のストレスフリーな物語です。
ご自身のペースで、ゆっくりお読みください。
(タイトルロゴは【K・t(ID:1756151)】さんから頂きました。素晴らしき猫様です。癒しを求めるなら、彼女の作品も見て行ってくださいね☆彡)