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場面転換が早いです。



広がるは漆黒の海か、湖か。

見える景色はただ暗く、黒く、静かで、景色に着く色は自分一人。

水面はまるで鏡の様に穏やかで自身の色が薄くつくほど綺麗で穏やかで波紋一つない。

膝下までつかった私の足は見えず、水面に映るは私の覗き込む顔だけ。


パシャリと足を蹴り上げる。


私の動きで水面が揺れた。

小さな波紋が起きるが、それは直ぐに小さくなりまた穏やかな水面へ戻る。


あれ、と気付く。

先程まで膝までだった水面が上がってることに。

軽い浮遊感を覚えた頃には水面は消え、身体は黒い水へと沈んだ。

こぽりと自身の口元から(あぶく)が溢れるが不思議と息苦しくはなく、私の身体は水と浮く。


ふわふわと漂う感覚になんだか心地よく、頭に霧がかかるように思考も淀む。



「---。」



何かが聞こえた気がした。

だけど広がるのはただ黒、黒、黒。

「---。」

また声が途切れる。


誰?誰?誰?


霞みがかった頭で響く声に投げかける。

私の頭上で水が揺れた。水の中である筈なのに波紋は大きく広がって、円を描く。


''それ''はそこから、姿を現した。


私と逆様に現れたそれは間違いなく、


「私?」


紅い瞳を細めて微笑む、''(ヒイロ)''だった。





▽▽▽▽▽




閉じられていた瞼の先から圧を感じてそっと目を開く。

「あ!ご主人起きた!」

「おう、大丈夫か?」

そこには私のことを覗き込むリュカとレイヴン。

二人とも顔が良いだけに寝起きには眩しく感じて目を細める。


「おはようございますって、外はもう夜…?」

「もう深夜だよー。ご主人を依頼から連れて帰ってきたのが夕方で、結構寝てたかな?

 傷はレイヴンがみたけど大丈夫?逆に痛くなってないー?」

「失礼な奴だな。一通りの手当は済んでる。

 ところで魘されていたようだが大丈夫か?傷が痛んだとか」

そう言われてこくびを傾げる。

魘されていたと言われたが…。

「特に痛みは。何か夢でも見ていた気もしますけど…全く覚えてませんね」

「なんじゅそりゃ」

やれやれと云った風にレイヴンは首を振る。


確かに何か夢で驚いたことはあった気はするけど…さっぱり思い出せないところをみると大したことではなかったのかもしれない。

「そういえばレイヴンは何故此処に?」

「ちょっと野暮用ついでだ。顔見に来たらボロボロでビビったんだぞ」

ぐしゃぐしゃと乱暴に髪を掻き混ぜられて、それがリュカが止めるといういつもの流れとなる。


リュカの説明によると私は迷宮で気絶してから報告を他のギルド員に任せて一足先に宿に返されたようだ。

…依頼料がきちんと支払われるかが心配されるところである。






▽▽▽▽▽





翌日、商業ギルドよりどこか雄々しい造りをしている冒険者ギルドの扉を潜る。

元々受け取る筈だった依頼料は、今回依頼を受けたギルド員全てが今日、この冒険者ギルドにおいて受け取る手筈となっていた。

昨日見たギルド員が集まり、その誰もが大なり小なりケガをしたのかチラチラと包帯が見えている。


「ヒイロ君!リュカ君!」

私たちを呼ぶ声に振り替えると私達の班のリーダーが手を振りながら近づいてきた。

「昨日は大変だったね。あの後、ヒイロ君が怪我したまま帰宅したようで気が気じゃなかったんだよ。

 いや、元気な姿を見られて安心した」

「ご心配おかけしました。調査にも参加しなくてすいません」

「なんのなんの。怪我人は治療が最優先だよ」

リーダーはまた機会があれば一緒に依頼を受けようと告げて依頼料の受け取りに向かった。

彼自体に好感は高く、もう一度彼となら依頼を受けてみてもいいかもしれないと思う。


依頼料を受け取る者に続き、自分たちも依頼料を受けとるために並ぶ。

「ねーねー、ご主人。これ終わったらご飯行こ?リュカお腹空いたー」

「ふふ、そうですね。なに食べましょうか」

そういった他愛無い会話を続けている途中、ふと視線を感じた。

周りを見渡すと、酒場の一角。さも見目の悪い、一見してゴロツキの様に感じる輩がこちらを窺っている様に見える。

何だかその視線が気味悪く、居心地がよくなくて咄嗟にリュカを私の陰に隠す。

「ご主人?」

「…いえ、何でもないですよ。早く報酬を受け取ってここを出ましょうか」




ギルドを出て街を回る。

今日は私も怪我を負って本調子ではないということで依頼は受けず、療養日ということで昼食後もリュカと街を観光して過ごすということになった。

今だ行ったことのない場所も多かったので街を回るだけでもとても楽しい時間となっていた。

時刻もすっかり夕方へと差し掛かり、子供も大人も家路を急ぐ。


大きな公園のベンチへ腰かけ、リュカが屋台で買い物をする姿を眺める。

渡した小遣いを握りしめて、彼女が大好きな綿飴の屋台に並んでいるのだ。気分は宛ら母親の様。

穏やかな気分で、夕暮れ時といえどまだ人の見える公園。

だから昼間の不躾な視線の意味など気付きもしなかった。


「はい!ご主人もどーぞ」

そういってリュカは2つ買った綿飴のひとつを私に差し出す。

にこにこと笑う彼女は私の隣に座るとものの数分でそれらを平らげてしまい、私はまだかかりそうである。

「リュカ、ちょっとお顔洗ってくるね!ご主人はゆっくり食べてて」

そういってベンチを立ち離れる彼女を見送り、ゆっくりとその綿飴を食べ進める。


大きい公園だけあって手洗い場の設備等も充実しているし、私自身彼女が戻ってくるまでこのベンチを動く気はなかった。

しかし待てど暮らせど彼女は現れない。

とっくに綿飴は食べ終わっていて、いくら遅いといっても遅すぎた。


公園内すべてを探しても彼女は見つからない。

声を出して彼女を呼ぶも返事がない。

ベンチに帰ってみるもその姿が現れることはない。

夕暮れ時だったが日は暮れ、夜を迎えるが彼女は見つからない。


遂ど、宿に戻るがこの日から彼女が戻ってくることはなかった。

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