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1 始まり

拙い文章ですが、よろしくお願いします。

始めは三人称で進めていきます。



ざわざわと異国の言葉が行き交う薄暗いホール内。

その場は現代のそれとは明らかにかけ離れた場所といっても過言ではないだろう。

集まった人々はどこか中世のヨーロッパを思わせるような服装に身を包んでおり、高校の制服という日本特有の服装に身を包んだ自分の方が今この場においては異質であると少女は、キサラギ=ヒイロは理解した。



彼女はどこにでもいる普通の女子高校生で、塾の帰りの道すがらであった。

それは、高校に入学して早数か月、可もなく不可もなく充実した日々を過ごしていた彼女の前に突然起こった非日常の出来事だった。

近くの有名私立高校の制服に身を包んだ美少女が光り輝く魔法陣に追いかけられていたのだ。

比喩ではなく現実に起こっていた出来事に彼女は眼を丸くしてその場に立ち止まってしまった。


美少女はあまりの衝撃的な状況にパニックになった様子でヒイロの方に走ってきたのだ。

そしてヒイロが魔法陣内に入った瞬間、魔法陣は今までよりさらに強く輝きだして二人の姿を包み、彼女らの姿を呑み込んでしまった。

そしてヒイロが目を開けた先には中世騎士風の鎧を身に纏った人やゲームの魔法使いのようなローブを身に纏った人がこの魔法陣を囲んでおり、魔法陣の中心には先の美少女、ヒイロは魔法陣の端に入って座り込んでいる形となっていた。

途端に魔法陣外の騎士の人垣が割れて中心から美少年が現れる。


美少年の話では美少女…アマギ=ハナはこの世界を救う聖女らしい。

曰く、世界は現在魔王による魔物の侵攻を受けているらしく、神官の「異世界からの聖女がこの危機を救ってくれる」との予言により聖女を呼び出したのでこの世界を救うのに協力してほしいとのことであった。

なんともバカげた話ではあるが、ハナ嬢は二つ返事にこれを了承し、あっという間に事が運ばれていく。

ここに来てから一言も発していないヒイロはもしかして自分のことは見えていないのかもしれないと本気で疑いかけたが、美少年とハナらが王に謁見に行くとなったときに待ったが掛かった。


それは美少年…この国の王子の後ろに控えていた一人が声をかけたのだ。



「王子、あの者は…」

「…ああ、ハナの話しでは聖女召喚の陣に巻き込まれたとの話であったな。其方のことは王に意見を(あお)ごう。騎士が別室に案内するのでそこで待機していてくれ。それじゃあハナ、行こうか。」


ハナ嬢を連れて立ち去る王子に続いてぞろぞろと離れる人達。

このホール内に残ったのは王子を引き留めた灰色のローブを着た人物とヒイロだけになっていた。

声から男性と分かったが、彼の案内に従ってホールを出ると外は正に中世の城といった風貌の長い廊下が続いており、ヒイロはキョロキョロと辺りを見回しながら彼に続く。

無言のまま通された部屋で待つこと数刻、この国の王の使いという者が部屋に来た。

王から伝えられた内容は以下の通りであった。


聖女召喚に巻き込まれた者まで面倒を見るだけの余力はない。

この世界の衣服と数日は過ごせるだけの金銭は与えるがそれ以降は自分でなんとかしてくれ。


あまりにも無責任な内容にヒイロは使いに対して「元の世界に帰してほしい」と聞いたがその様な方法はないと突っぱねられた。

静かに扉が閉められて使いが部屋から出て行った。

ベットに倒れこむヒイロはそのまま静かに泣き始める。


いままでの平凡な日常は崩れ去ったのだ。

両親も友達も元の世界にあったものは全てない。

叫びだしたい衝動を枕を抱えることで沈め、彼女はそっと眠りについた。






翌日の早朝からヒイロは動き始めた。

昨日来た王の使いが食事を運ぶ段取りとなっていたので、彼の許可を取り、城の中にある書庫への出入りを取り付けさせたのだ。

時間はないが、今はできる限りの知識を吸収することが必要だった。


文字が読めるか不安ではあったが、不思議なことに難なく読み取ることができた。

王子や騎士も聞きなれない言語を話していたが理解できていたので、文字も理解できるかもしれないと考えていたヒイロの予想は見事当たった。

そしてこの世界について最低限の知識を得ることができた。



世界の名前はファーティア。

大きな大陸と幾何百という島々には多数の国が存在するらしい。

そして彼女が一番興味を引かれたのは魔法なる神秘の力である。

本を読むに、全ての生き物の中には等しく魔力というものが存在し、魔力を使って様々な神秘を発生させることを魔法というようだ。

魔法は個々に属性が存在し、使用できる属性魔法というのは決まっているようだが、自分にも魔法が使えるかもしれないと考えるとヒイロは心躍った。

城の外に出たら先ずは自身にどんな魔法が使えるかの調査だななどと考えながら他の書物も読み漁る。


この国についても学んだ。

ウインベル王国。王城のある町は城を中心に円を描くように城下町ができており、外にも幾十もの街からなる広大な王国領が広がっているとのことだ。

比較的平穏な国のようで他国との貿易も盛んのようだが、隣国であるロジェスト帝国とはあまり友好的な関係とは言えないようである。



ヒイロは膨大な書物を読み漁り、早3日が過ぎていった。

3日目の朝、ヒイロはそこそこ上等な服と賃金を持たされ、早々に城を追い出された。

城から城下町に降りた彼女は驚く。町は活気に満ち溢れており、とても魔物と呼ばれる存在に脅かされているようには見えないからである。

道行く人は笑顔で溢れて、辛気臭いのは自分だけのように感じた。


「どうした嬢ちゃん、辛気臭い顔して!ほらこれでも食べて元気出せよ!」

露天の店主であろう男性が声をかけながら串焼きを差し出してきた。

何とも食欲を誘う匂いにつられて2本購入するとおまけに1本追加してくれた店主の気前がいいこと。


市井を歩き始めて1本に噛り付く。

庶民的なタレの味がして残りの2本もすぐに完食してしまった。

王がヒイロに施した金は確かに数日生きていくには十分な額だったのだろう、串焼き2本買ったぐらいではまだ底が見えていないが、何もしないで日が過ぎればいつかはこの金が尽きることは明白である。



「これからどうしよう…」

途方にくれるヒイロ。

辺りの店を見ながら当分の働き口になる店はないか探していた時、

「もし、そこなお嬢さん…」


薄暗い路地から声が掛かった。

自分が呼ばれたのか分からず路地を凝視すると、古びたローブを被った人物が見える。

こいこいとその人はヒイロに向かって手招きしており、ヒイロは路地の手前で足を止めた。

「えと、私ですか?」


「ふぇふぇ、そうそう。ちょっとお願いがあってなぁ。儂をこの場所まで連れてって欲しいんじゃが…。どうにも歳を食うと道に迷っていけないねぇ」



そういうローブの人物の声は(しゃが)れていて、近づいて老婆であると気付く。

老婆は地図の描かれたボロボロの紙を見せてきて、ヒイロに案内を迫った。

「ふぇふぇ、勿論、お礼は弾むよ。取り敢えず、前金を渡すから受けてくれんかのぉ」



老婆から麻袋を受け取り中を確認するとかなりの額のお金が入っていた。

とてもこの薄汚れた老婆が持つには違和感のある額である。


ヒイロは目を見開いて少し考えるが、何をするにしても今は少しでも多くのお金を集めることが得策だと考えて老婆の依頼を了承した。

老婆に見せられた地図を見ると先の薄暗い路地を抜けるのが早いことが分かる。

ヒイロはその場に屈むと

「さ、お婆ちゃん。乗って下さい」



これには老婆の方が目を丸くした。

道案内を頼んだが、背負って貰うつもりは無かったのだろう。

しかし、ヒイロは自分が背負う方が早いと言って老婆に背中に乗るように促すと老婆も申し訳なさげにヒイロの背中に身を預けた。

老婆の体重は見た目通り軽く、女性のヒイロでも背負えたので然程の負荷にもなり得なかったが、老婆は

「そうじゃ。これで少しは軽くなるじゃろ」

と言って指を一振りすると途端にヒイロの体が軽くなった。


ヒイロが驚いて老婆を見ると

「身体強化の魔法じゃ。気になさるな」

と老婆が笑った。



「これが、魔法…」

ヒイロが駆け出すと、体はすごく軽く、老婆の重みも感じない。

路地を抜ける途中、高い柵があったがそれも軽く飛び越えることができた。



(凄い!凄い!)

今まで感じた事のないような体の軽さにヒイロは楽しそうに地を駆ける。

元々、地理を把握するのは得意な彼女は、それほど苦もなく、目的の場所へと辿り着いた。


そこは中心街から外れた寂れた酒場の様な場所であった。

老婆を店の前で下ろし、お金を貰って早々に離れようとヒイロは考えていたが、老婆がヒイロの手を取る。

「ふぇふぇ、お嬢さん、ありがとぅ。お金は中なんじゃよ。もうちょっとだけ、付き合っておくれ」



そう言って老婆に店へ入るように促される。

ヒイロ自身、この場で一人で待つのも不安であったので、老婆の体を支える意味も込めて彼女に着いて行くことにした。


したのだが、中に入って直ぐに後悔する。

扉が開くと共に突き刺さる数多の視線。

それら全ては店内にいた屈強な男達の者で、ヒイロは慌てて身に付けていたローブのフードを深く被った。


老婆はそんな視線を気にした様子もなくヒイロの手を引いて店の中へと入っていく。


バーカウンターのような所で一度立ち止まるとこの場の責任者と思わしき男性と何やら小声で話をして、カウンターの奥…地下へと続く扉へと案内された。

その中をズンズンと老婆は進んで行くが、階段を一段降りる度にヒイロは老婆の案内をしたことを後悔の念が重くなる。

もしかしたら自分の命は此処で尽きるかもしれないとまで思い始めていた。


階段を全て下りた先、もう一つ扉を隔てた部屋は正に地上とは真逆の裏の世界が広がっていた。

檻の中には獣の耳の生えた人、謂わばファンタジーの定番であろう獣人や耳の尖ったエルフ族、見たこともない生き物が入れられ、中には謎の液体に漬けられたグロテスクな物まである。

すすり泣く声や怒号に嘲笑、正に異質の空間。

ここは世に言う闇市という場所ではないだろうか。


異世界に入り早3日、平和な世界から一変してこのような危険な場所に入るなんてヒイロは夢にも思っていなかった。

老婆はヒイロや周りの様子なんて気にも止めずに奥へ奥へと入っていき、一つのスペースに止まるとそこに置いてあるロッキングチェアへと腰を落ち着けた。

「あぁ、ヨイショ。助かったよ、ありがとう」


「いえ…お婆ちゃん、えっとここは…」


「所謂奴隷市とか闇市と言われてる裏市場さね。大丈夫じゃよ、お嬢さんは儂と一緒にいたのを(みな)見てるからね。手は出さないさ」



老婆はまた「ふぇふぇ」と笑う。

話し振りから老婆はこの市場ではなかなかの立場の人物のようだ。

ヒイロも別に冒険活劇の勇者の如く奴隷を開放しようとも思っておらず、そもそも自分のことで手一杯である。

実際、彼らの行く末を気にしている暇もなかった。


老婆はお礼の金を探すと言いながらロッキングチェアの周辺をゴソゴソと漁り始める。

なかなか見つからない様子で、ヒイロは特に急かすことなくそれを横で待っていると「オババ!」と大きな声と共に隣に誰かが立った。

「ったく、いつもながら大遅刻だぞ。」

「ん?なんじゃ、レイ(ぼう)か。ちょっと待っとれ。先約がおるんじゃ」

「レイ坊言うな!…先約ぅー?」



隣に立つ男がヒイロを見下げる。

男はかなりの高身長で、褐色の肌、頭に巻かれた大きなバンダナが特徴的だった。

野生味のあるワイルドな青年である。


ヒイロは視線に気付いて彼を見上げると自然と男の深緑の瞳と目が合う。

訝しげにこちらを見定める男の目にヒイロは居心地が悪くなる。



「…オババ」

「なんじゃ、レイ坊」

「レイ坊言うな。…俺の目が確かならコイツ、堅気(かたぎ)じゃね?」

「そうかもしれないねぇ」

「オババ!」

「煩いよ。儂が道に迷ってこのお嬢さんに案内を頼んだんじゃ。責任持って危険に晒さない為にレイ坊を待ったのさね」


何やら老婆と男の口論となっている様子で、見ているだけのヒイロはオロオロとする。

そして、彼らの会話の中に自身が危険に晒されるという不穏な用語が聞こえたがソコは聞こえないフリをしておく。

老婆はやっと目的の品を見つけたのか、ヒイロと男に麻袋をそれぞれ手渡した。


老婆は両方に対してオマケしておいたと述べると男は目を丸くする。

老婆は続けた

「お嬢さん、本当にありがとうね」

「案内だけでこんなに…こちらこそありがとうございます」

「ふぇふぇ、安いもんさね。…お嬢さん、儂らの(えにし)は結ばれた。お嬢さんは(あまね)く星々の運命の元、儂と廻り合ったのじゃ。儂の勘がそう言っとる」


老婆はヒイロの手を取るとポンポンとその手を叩く。

「困ったら何時でも頼っておいで。お嬢さんの旅路が楽しいものになる様、尽力するよ」


そう言うと老婆は男の方を見る。

男は目を丸くして固まっていた。

「レイヴン!いつまで固まってるさね!儂の大事な客だよ。面倒みてやんしゃい」

「イッて!?叩くなよ!」

「じゃあの、お嬢さん。またおいで。ふぇふぇ」



男…レイヴンは老婆に杖で足を叩かれて覚醒したのか、不服そうではあるがその場を離れ始めた。

くいっと顎で奥を示されたので、ついて来いの意だろう。

ヒイロはレイヴンの後ろに続いた。


狭い通路を抜けるレイヴンはヒイロの速度に合わせているのか、少し遅い。

ちらちらとヒイロを見ていることから、置いていく気はない様である。

「オババがこんなに気に入ってる奴、初めてみた」

ぼそっとレイヴンから聞こえたのはとても意外そうな一言。


少し開けた場所に出るとレイヴンは振り返って、ヒイロと目線を合わせた。

レイヴンの瞳の奥は先程の訝しげな視線ではなく、面白いモノを見つけたという純粋な興味に染まっている。

「あんた、名前は」


「ヒイロ=キサラギです」

「珍しい名前だな。俺はレイヴン=オルトだ。レイヴンって呼んでくれて構わない。この闇市の今回の主催者だ」



レイヴンの話し方や雰囲気でかなりお偉いさんとは思っていたが、まさかの主催者だとは思わなかった。

彼はまた歩き出すと「プライベート」と記載された部屋に入っていき、ヒイロも中に通される。

「まず、オババをここに連れてきてくれて礼を言う。毎度迷子になるから使いを着けるんだが、今回は不備があった様で間に合わなかったみたいでな」


やれやれと言った風にレイヴンは溜め息を吐く。

老婆は彼にとっても、この闇市にとっても重要人物のようだ。


「さて、オババが面倒をみろと言ったからには何かあるんだろうな。実際、オババがあんなに人の子を気に入ってる様子なんて初めてみた。商品に対して、オマケなんて絶対にしない守銭奴なのによ…。

なんかしたのか?」

「特別なことは別に…」

「ま、いいわ。オババが一緒のところをここの連中は見てるから大丈夫だとは思うが、闇市での安全は俺が保証してやるよ」

そう言ってレイヴンはヒイロの頭をポンポンと撫でる。


彼の背が高いこともありヒイロの頭が撫で易い位置にあったからだろうか、妙なフィット感にレイヴンは謎の心地良さを覚えた。

「あの、本当に面倒みてくれますか?」

「早速か?なかなかの図太さだな。なんだ、なんかして欲しいのか?」

「私でも出来る仕事を紹介して欲しいんです」



正直こんな悪の元締めみたいな男に頼む仕事はロクでもないものと想像できるが、生活が安定するまではお金の面をなんとかしたいとヒイロは思っていた。

面倒を見るとレイヴンは確約していることから、仕事を紹介して貰えればかなりの儲けに繋がるとヒイロは考えたのだ。

「仕事?お前堅気だろ?こんな所で探す仕事なんてロクなの無いぜ」

「分かってます。でも、確実なお金が手に入るでしょ?」

「うーん、まあ、そうだな。…ちょっと考えてやってもいいけど、お前、何が出来んの?」


そう聞かれてヒイロは返答に困った。

何せ平和な世界から飛ばされてきた身であり、何が出来ると聞かれると自分の能力的には一般的な家事が出来る程度である。

褒められたことと言えば料理の腕前はなかなかだったことぐらい。


頭を捻るヒイロにレイヴンが「分かった、分かった」と先に声をあげて質問を変えた。

「それじゃあ魔法は何ができる?」


これについても黙り込むヒイロ。

そもそも魔法が使えるかも分からない。

暫しの沈黙。

「まさか、魔法が使えない…とかないよな?」

「…分からないです」

「どういう意味だ?」

「実は今まで魔法とは無縁の生活を送ってきて、魔法は一切使ったことがないんです。使えるかも分からない状態で」

「…どんだけ田舎から出てきたんだよ」


嘘は言っておらず、田舎者ということで通すことにしたヒイロ。

レイヴンは部屋の棚から小さな水晶を取り出してきた。


「魔法を使ったことがないってことは魔力を感じたこともないんだよな?」

「はい」

「今から簡単な魔力の扱い方と属性検査をしてやる。水晶に手を置いてみろ」


促されるまま水晶に手をのせたヒイロの手にレイヴンの手が重なる。

少し冷たく感じた彼の手がじんわりと温かくなっていく気がした。


「分かるか?魔力ってのは生物の体の中を巡ってるんだ。血が巡るように回る魔力の熱を感じろ。」

レイヴンから温かい何かが移り、それが体を回るように手から腕へ、更に上から下へと回っていく。

これが「魔力」と()われるもののようだ。


ヒイロは感動し、キラキラとした目でレイヴンを見上げると彼は軽く笑って「上手だ」と頭を撫でた。

レイヴンが手を退け続ける。

「次は属性だ。巡る魔力を水晶に流し込むようにしてみろ」


彼の説明では、自身の持つ属性が判明すれば、水晶内に変化が現れるらしい。

火なら水晶に炎が渦巻き、水なら水球が浮かぶと言った具合だった。

ヒイロが水晶に魔力を流し込む。

しかし、水晶に変化は現れず、二人して首を傾げた。

何度か挑戦するが、一向に変化は現れない。


そこで、レイヴンの顔色が変わる。

ハッとしたように部屋から古びた本を持ってくるとパラパラと(ページ)を捲った。

「まさかとは思うが。ヒイロ、少し試したいことがある。こことは別空間に物を収納できるイメージを思い浮かべて『収納(ボックス)』と詠唱しながら魔力を宙に流してみろ」

「別空間…『収納(ボックス)』」



宙に亀裂が入り、自身に巡っていた魔力が少し抜けていくような気がした。

特殊(ユニーク)属性」

「え?」

「特殊属性の、『無属性』だな」


レイヴン曰く特殊属性持ちは希少なんだそうだ。

無属性とは攻撃には不向きではあるが、実用的な魔法が多く、行商などに向いていると説明した。

「文献によると前の無属性持ちが現れたのは今から約500年程前らしい。俺も『聖』や『治癒』なんかの特殊属性持ちは見たことあるが『無』は初めて見た」

「そんなに希少なんですか?」

「ああ。外で自分の属性についてぺらぺら喋るんじゃないぞ。無属性はさっきも言った通り今まで使用者がいなかったからどんな事が出来るかも解明されてないことが多いから、研究者なんかに捕まれば何されるか分からないぞ」


ぞわり、とヒイロの背筋が粟立つ。

人体実験なんて御免である。



「無属性か。…ヒイロ、仕事が欲しいと言ってたな?お前にぴったりの仕事があるぞ」

「本当ですか!」

「ああ、さっきも言った通り、無属性は攻撃特化ではないと言ったな。だが、『収納(ボックス)』等といった実用的な魔法や隠密魔法が無属性には多いのが特徴だ」


レイヴンが先程の本、無属性魔法が載った文献を捲りながら続ける。



「運び屋。やってみねぇか?」




レイヴンの提案。

運び屋。

聞き馴染みのない職種ではあるが、ヒイロにぴったりだとレイヴンは言う。


ヒイロの為の舞台は着々と整えられていく。

さあ、配達を始めよう。

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