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自分

作者: 玉木 優

初めまして!

玉木優と申します。

初投稿です!

誤字脱字あるとは思いますが、読んでいただけると幸いです。

「どうすればいいんだ!」

彼は悩んでいた。具体的に何に悩んでいるかと聞かれると、素直に答えられない。何に悩んでいるのか分からない。そのためにやきもきしていた。他の人にも相談しようと思ったが、その気にもなれない。ただただ、頭の中がこんがらがっていた。

彼、優人は、大学の指定履歴書とにらめっこしていた。志望動機、自己PR、学生時代に苦労したこと、全てにおいて言葉が出てこない。いくら考えていても、一向に出てこない。履歴書に向かい始めてから30分が経とうとしているが、その時間ずっと、頭の中で糸が絡まっているような状態だ。自分は何をPRしたいのか、何を学生時代に苦労したのか、何故その企業を志望するのか、そもそも何故自分が就職活動をするのか、そのようなことを自問自答するほど、どんどん分からなくなってくる。それに、今はもう2月だ。本格的な就活解禁の直前の月ということもあり、考えているうちに焦りすら感じるようになっていた。

「もういいや」

半ば放り出すように、履歴書を自分の机にしまう。そして、ベッドに横になり、目をつぶった。今しまった紙に取り組まなきゃいけないのは、分かっている。彼自身、やりたいのはやまやまだった。しかし、やり始めても、頭の中の糸がこんがらがる。考えれば考えるほど、固く、強くなっていき、ほどける気配が全くない。書けないことが、苛立ちや焦りにつながる。そして、やる気を失う。ここ最近、このようなことが繰り返されるのだ。

 ベッドに横になって、数分。うっすらと眠気を感じるようになっていた時であった。

ブルブルブル…ブルブルブル…

 振動音で目が覚めた。自分のスマホが音を立てている。体を起こし、携帯の画面を見る。「小山先輩」という文字が表示されている。受話器のピックアップボタンを押し、電話に出る。

「もしもしー?元気―?」

彼女の明るく、優しい声が耳に入ってくる。

小山美紀。彼女は、優人の一つ上の先輩だ。彼が大学1年生の時、サークルで知り合った。色々と話しているうちに、とても親しくなった人物である。ただ、こんな時間にかけてくるのも、珍しい。もう夜の11時を過ぎている。普段なら、もう寝ているはずだ。

「元気ですよ。どうしたんですか?こんな時間に。」

「心配になったのよ。優くんのことが。何か悩んでない?」

「僕は、大丈夫ですよ。」

「本当に〜?」

「本当ですよ。」

優人はそう答えた。しかし、実際のところは、本当じゃない。悩みに悩んでいる。ただ、その悩みが何なのかが分からずじまいだ。本当は相談したい。だけど、何にけつまづいているのか、ハッキリしていない。そのために、気が引けているのだ。そして、その話題に触れることもなく、しばらくたわいもない話をしていた。

すると、美紀は

「ねえ優くん?本当に大丈夫?ほら、優くん、いつも無理して溜め込んじゃうじゃん。だから、やっぱり、私気になる。それに、普段より元気なさそうな声してるもん。何か悩み抱えてるんじゃない?もし何かあったなら、私に話してみて。」

と言ってきた。優人は、意表をつかれたような気持ちだった。先程から平常を装ってはいたが、美紀はお見通しと言った如くに、真剣な面持ちで話している。いつの間にか彼は、その声に押されるように、自分の前に立ちはだかっている「壁」を話していた。

「ってことなんです。考えれば考えるほど、すっごく頭がこんがらがってしまって。とっても焦るんです。」

「なるほどねぇ。難しいよね。焦っちゃうよね。そういうの。私も、とっても悩んでたの。優くんと同じく。でもさ、その時に私思ったの。こういうのってさ、結局自分っていうものが出るんじゃないかって。結局、面接も履歴書も、最後は自分だよね?なら、自分自身が自分のことを分かってないと、いくら考えても出てこない。優くんは、自分が何か、考えたことある?」

「じ、自分が何か…ですか…」

彼は、答えに詰まった。そんなこと、考えたこともなかった。今まで、インターンシップや面接に打ち込んでいたからだ。どんな情報を仕入れればいいか、どのように話せばいいかなど、いわゆる方法論でなんとかできることに集中していたのだ。

―肝心なことを、忘れてた―

そのような、一種の後悔のような気持ちが、優人の心に溢れる。

美紀は続けた。

「そう。自分がどんな人間なのか。それが分かって、初めて就活とかも成功するんじゃないかな。もちろん、自分がどんな人なのか、見つけていくのは簡単じゃないわ。難しい。でも一言で言い表せないから人間っていうんじゃないかな。優人も、色んな『優人』がいると思うよ。その『色んな優人』を見つけていくと、いいんじゃない?大丈夫。優人ならうまくいくよ。」

「あ、ありがとうございます…」

彼は、胸が熱くなるのを感じた。今まで、彼女がここまで真剣になっている声を、聴いたことがなかった。正直、とても嬉しかった。

「ごめんね。なんか、押し付けるようなこと話しちゃって。」

「いいんですよ。むしろ、こちらこそありがとうございます。小山先輩のおかげで、絡まってた糸がほどけたような気持になりました。」

「それはよかった。あのさ、いつまで小山先輩って呼んでるの?美紀先輩でいいのに。」

「下の名前で呼ぶの、ちょっと恥ずかしいもので。」

「そっかそっか。残念だなぁ。」

「どうしたんですか?急に。」

「ううん。何でもないよ。就活、頑張ってね!応援してる!」

「ありがとうございます!!あの、先輩?もし、就活成功したら、一緒にどこかに出かけませんか?」

「いいね!楽しみにしてる!じゃあ、夜も遅いし、私寝るね。」

「はい。また今度!」

「また何かあったら、相談してね。聴くから。」

「ありがとうございます。ぜひ、相談させていただきますね!」

「うん。じゃあ、おやすみ!」

「おやすみなさい!」

電話を切った後も、彼は胸の熱さを感じていた。しかし、そこには先程とは違う、別の違和感がある。その違和感が何かはわからない。だが、その熱さを抱えながら、彼は、再び机に向かった。


読んでいただき、ありがとうございます!

この話は、実際に僕がぶつかった壁に少しアレンジを加え、再現したものです。

登場する人物は架空ですが、モデルは存在します。

主人公である優人は、もともと明るい優しい性格で、好奇心も旺盛です。しかし、一度悩み始めると、突き詰めて考えることが多くあり、その過程で、自分が何なのかわからなくなることがあります。今回は自分を見失うところまで表現しました。また、小山美紀は、とても世話をするのが上手す。後輩思いの優しい性格をしており、優人とはかなり仲が良いという設定です。

また、この小説には、気づきは、自分で考えることより他人からのほうが生まれやすい、というメッセージを含んでいます。実際に、私もそうでした。そのことが伝わると、僕自身、とても嬉しいです。

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