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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第六章 錬金術士はにんきもの
98/325

98.知るところから始めてみよう


 戦場を見下ろす歓声のさなか、ミサキは真剣そのものと言った様子でその戦いを眺めていた。

 耳を衝く剣と剣がぶつかり合う金属音に、ときおり響きわたるスキル発動の宣言。

 

 ミサキがいるこの場所はアリーナの観客席。

 今はバトルフィールドでカンナギが重鎧に身を包んだプレイヤーとトーナメントの決勝戦を戦っているところだ。

 

「これでとどめだ――【ケラウノス】!」


「く……ぐあああああッ!」


 七条七色の雷が、盾によるガードの上から対戦相手のHPを削り切り、勝利が確定した。

 敗北した彼はカンナギが【ケラウノス】を発動するやいなや防御用スキルを発動していたように見えたが、全く太刀打ちできなかったようだ。彼が弱いわけではない。仮にも決勝まで上がってきている時点でそれなりの実力者であり――それだけグランドスキルが規格外の威力を持っているということだ。

 

 ひときわ大きな歓声が轟く。

 勝利したカンナギはその場から動かず、観客へ向かってにこやかに手を振っている。ファンサービスもばっちりのようだ。

 

「うーん……やっぱり耐えるって選択肢は無理そう」


 あの【ケラウノス】というスキルは、HPの多いボス戦などではまた別だろうが、対人戦だとオーバーキルにもほどがある。

 もし食らえば最後、例え相手が全快状態だろうと一撃で削り切ってしまう。

 だからこそ初手からは使えず、被ダメージや与ダメージによって専用のゲージを溜める必要があるのだろう。

 

 かと言って躱すのも難しい。

 実際にあれを回避しようとした際は、真横に飛んだミサキに対してほぼ直角に追尾してきた。彼の口ぶりから推測するに”絶対に命中し”、”当てれば勝利する”――そんなスキルなのだ。真の意味での必殺技。


 考えれば考えるほど死角が無く、ドツボにハマっていく。

 やはり現実的な対抗策は撃たれる前に倒すということになるのだろうか。

 しかしカンナギはグランドスキルが無くとも強い。少なくともミサキよりは確実に格上だ。まともにぶつかりあったとして、八割方負けるだろう。


 ここ数日で何度か彼の戦いを見てきてわかったことがある。

 それは、カンナギの戦い方がプロレスじみているということだ。

 

 相手の攻撃は全て出させる。

 自分のスキルもバリエーション豊かに披露してみせる。

 そうしてお互いの手札を出しつくしたところであの【ケラウノス】によって勝利を飾る。

 観客のいる公式戦という舞台をよく理解した優秀なパフォーマーとしての側面も彼は持っている。


「どうしたものかな……」

 

 ため息をつき、ミサキは観客スタンドの出口へと足を向ける。

 最後にもう一度バトルフィールドを振り返ると、カンナギはまだ手を振っていた。




「補助アイテムを使って耐久上げてみる? いやさすがにダメか。ならやっぱり…………」 


 ロビーに戻ってきたミサキはカンナギの情報を記入したメモに没頭しながら歩く。

 考察してもし足りず、【ケラウノス】攻略の糸口は見えてこない。そんな状況が彼女の視野を狭めていた。

 だから、


「あいた!」


 何かにぶつかって尻もちをつく。

 普段は歩きスマホのようなことはしないミサキではあるが、集中していたことと、ここがゲームの中であることが彼女の意識を緩くさせた。痛みが弱く、死んでも復活できるこの世界では普段よりも幾分か危機意識が薄らいでしまう。


 とは言えぶつかってしまったのは事実。


「す、すいません。よそ見してて……あれ」


 見上げるとそこには見た顔があった。

 銀色の短髪の下には鋭い三白眼。口元は黒い布で覆い隠され、全身はこれまた真っ黒な軽装に包まれている。網のような意匠は忍者やアサシンを彷彿とさせた。

 

 彼の名はシュナイダー。

 以前開催されたレースイベント『ライオット』で戦った、ミサキと同じく高速戦闘を得意とするストライダービルドの男だ。


「ゲッ」


「ゲッってなによゲッて。シュナイダーくんは今からトーナメント? ちょうど今やってるのが終わるころだもんね」


「…………帰るか」 


 シュナイダーは明らかに嫌そうな顔を――マスクをしていてもわかるほどには嫌そうだった――すると踵を返す。

 ミサキは素早く立ち上がるとその肩を力いっぱい掴んだ。


「まあまあ逃げないでよー。わたしたちタイマンした仲じゃーん」


「クソ、離せ……! 俺たちはどんな仲でもないだろう……なんだこの力は、離れん!」


 じたばたと逃げ出そうとするシュナイダーをしっかりと捕まえる。

 今のミサキは藁にもすがりたい気持ちで、カンナギへの対抗策は喉から手が出るほど欲しいのだ。

 よって一度戦っただけの知り合いだろうとこの機会は逃がしたくない。特にシュナイダーは戦い方がミサキと近く、ヒントをもらえるかもしれないと思った。


「じっとして? ほらみんな見てるよ? ちょっとそこでバトルでもしながらお話しない?」


 ぼっ、と音でも立てそうな勢いでシュナイダーの顔が赤く染まる。

 実際衆目を集めていた。特にミサキはそれなりに有名人なのでちょっとでも騒ぎを起こすとすぐに注目される。

 それが恥ずかしいのか、シュナイダーは諦めてがっくりとうなだれた。


「…………せめてバトルじゃなくて落ち着いた場所にしてくれ…………」


 ミサキはゲームの中では対人ゲームが特に好きだ。

 FPSよりは格ゲーが好きで、一対一でしのぎを削りあうのが大好きだった。

 このゲームでもそれは変わらず、強い相手――できれば自分より強い相手と戦うのが何より楽しいと思っていた。

 彼女は自覚していないが、言ってしまえば戦闘狂なのだった。


 満足げに笑いながら周囲の視線と共にとうなだれたシュナイダーを引きずっていく。

 

「出荷されてくみたい…………」


 その場に居合わせたとある女性プレイヤーは思わずそんなふうに呟いたという。


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